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自民党は50年間“進歩なし”。『虎に翼』も取り上げた「尊属殺重罰規定違憲判決」に政権与党が猛反発した理由

日本国憲法に真正面から取り組んだNHKの連続テレビ小説『虎に翼』。その最後の山場として取り上げられたのは、「尊属殺重罰規定違憲判決」でした。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、劇中描かれた尊属殺人のモデルとなった事件と裁判の経緯を詳しく紹介。さらに当時の自民党が判決に対して「強い反発」を示した理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:NHK朝ドラ『虎に翼』で注目、「尊属殺重罰規定違憲判決」 当時の自民党は判決に反発 いまなお続く自民党の伝統的家族観 どのような理由で判決に反発したのか?

『虎に翼』最後の山場で露呈。「伝統的家族観」で「尊属殺重罰規定違憲判決」に猛反発した自民党

9月まで放送されたNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)『虎に翼』は、多くの注目を集めた。

このドラマは、日本初の女性弁護士で後に裁判官となった三淵嘉子(みぶち よしこ)氏をモデルにしており、主演の伊藤沙莉の演技力が高く評価されている。

ドラマのテーマは、日本国憲法第14条に基づく平等であり、男女格差や社会制度の不平等など、現代社会にも通じる問題を、歴史を通して提起している。

とくに最終週では、法制史上重要な「尊属殺重罰規定違憲判決」が取り上げられ、その歴史的意義が描かれた。

『虎に翼』の最終週で取り上げられた尊属殺人事件は、1968(昭和43)年に栃木県で実際に発生した事件をモデルとしている。

劇中では、被告人の女性が父親を殺害する事件として描かれているものは、実際の事件では、14歳から実父による性的虐待を受け、5人の子を産んだ29歳の女性が加害者となった。

尊属殺人罪は、刑法第200条に規定されており、直系尊属(父母や祖父母など)を殺害した場合、通常の殺人罪よりも重い刑罰が科され、死刑または無期懲役が適用されていた。

事件の裁判は、日本の法制史において重要な転換点となり、家族関係における不平等な法律の見直しにつながる契機となった。

一方、この判決に対しては、当時の自民党から強い反発があったことも指摘されるべきである。

1880年に制定され戦後もそのまま施行された尊属殺人罪

尊属殺人罪とは、自己または配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)を殺害する犯罪を指す。1880年に旧刑法で制定され、1907年の刑法改正後も存続し、戦後もそのまま施行されていた。

刑法第200条に規定され、「自己または配偶者の直系尊属を殺した者は、死刑または無期懲役に処する」と明記された。

通常の殺人罪(刑法第199条)では「死刑、無期懲役、または3年以上の懲役」と規定されていたが、尊属殺人罪では死刑または無期懲役のみが適用され、通常の殺人罪に比べて非常に重い刑罰が課される。

このため、最大限の減刑が行われても執行猶予をつけることができないという厳しい規定が存在する。

1973年4月4日、最高裁判所大法廷は、1968年に栃木県で発生した事件を契機に、尊属殺人罪の重罰規定を違憲と判断した。

事件の被告人は、14歳から実父に性的虐待を受け、5人の子どもを産まされた29歳の女性である。第一審では正当防衛や過剰防衛が認められ刑が免除されたが、控訴審では懲役3年6カ月の実刑判決が言い渡された。

しかし、最高裁では尊属殺人罪ではなく通常の殺人罪で審理され、最終的に懲役2年6カ月、執行猶予3年の判決がくだされた。

この判決により、尊属殺人罪の規定は事実上廃止され、運用されなくなったが、刑法から完全に削除されたのは1995年の改正時まで待たなければならなかった。

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「日本の伝統的な家族制度を揺るがす」と反発の自民

一方、この判決に対して自民党は強く反発した。

1950年の最高裁判決では、尊属殺に対する厳罰は「人倫の根本であり、人類普遍の原理」とされており、この見解を支持する議員も少なくなかった。

違憲判決がくだされた後も、一部の議員は急激な法改正に慎重な姿勢を崩さず、既存の規定を維持しようとした。また、保守的な支持層への配慮から、伝統的な価値観を反映した法律を残そうとする動きもあった。

「親殺しの罪を軽くすることは、日本の伝統的な家族制度を揺るがす」という主張に加え、「国民に選ばれた我々が作った法律を、たかが役人に過ぎない者が覆すとは何事か」という感情的な反発も根強かった(*1)。

特に当時は、自民党政権が永久に続くと信じられていた時代であった。一方、社会党などの野党は刑法200条の削除を求める法改正を提案し、法務省は200条を残しながらも「4年以上の懲役」という条文を追加する案を推奨した。

しかし、自民党はこれを一貫して拒否し、法改正は見送られることとなった。この結果、200条は法として存在しながらも適用できない状態が続いた。

最終的に、200条が削除される法改正が行われたのは1995年のことで、その時の首相は社会党の村山富市氏であった。

依然として「伝統的家族観」尊重の立場を維持する自民

尊属殺人罪は、封建時代の尊属殺人重罰の思想や「家」制度と深い関連を持つ。そしてこの規定の廃止は、封建的な家族観からの脱却を意味した。

1947年に制定された日本国憲法第24条は、個人の尊厳と男女平等の原則を宣言し、家族の理念型を封建的な「家」の制度から婚姻家族の制度に大きく転換させた。

同時に尊属殺人罪の廃止は、この憲法の理念をより完全に実現する一歩となる。尊属殺人罪の廃止は、伝統的な家族観から、より平等な家族関係への移行を示す一つの象徴となる。

しかし、自民党は依然として伝統的家族観を尊重する立場を維持しており、これは現在の日本の家族政策にも影響を与えている。これは、自民党が「家族は、愛情と信頼で結ばれた、国民生活の基盤を形成する最小の単位」と考えていることに基づく。

自民党は法律婚を家族の基本的な形態として尊重する立場を維持し、例えば、嫡出子と非嫡出子の相続権に関する議論では、法律婚の重要性を強調する意見が見られる。

また、自民党の改憲草案には「家族は、互いに助け合わなければならない」という条文があり、家族内での相互扶助を重視する姿勢がある。

朝ドラ『虎に翼』が描いた尊属殺人罪の廃止についての問題は、決して古臭いものではなく、現在も続く日本の自民党支配の一端を表している。

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引用・参考文献

(*1)大石格「あまりの悲劇が最高裁を動かした」日本経済新聞 2020年2月1日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年10月5日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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