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削除されたYahoo!ニュースの“あまりにも酷すぎる”偏見記事。いじめ探偵が大激怒した「いじめ被害者原因論」をブッタ斬る

9月下旬、Yahoo!ニュースに掲載された「【いじめられやすい人の特徴】とともに、【いじめられないための方法】をお話しします。」と題された記事。現在は削除されていますが、スクールカウンセラーの経験もあるという心理カウンセラーが16の「いじめられやすい人の特徴」を列挙した内容に、SNS上で猛批判が飛び交う事態となりました。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、かような「いじめ被害者原因論」を強く非難。さらにこうした論調が「何度もぶり返す」原因を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:まだ言うか、いじめ被害者原因論を斬る

「不潔」「ケチ」「陰気」。Yahoo! ニュースのエキスパートでスクールカウンセラー経験者が書いた「いじめられやすい人の特徴」記事の不愉快

9月後半のこと、ニュースに目を通していると、驚く見出しを見つけた。

「【いじめられやすい人の特徴】とともに、【いじめられないための方法】をお話しします。」とある。

著者はヤフーニュースで記事を書く立場でエキスパートのようだ。ゆえに相応の拡散力がある。そして、公認心理師で臨床数も桁外れに多い。

当初は何かのヒントになるかもしれない、もしも参考になる内容があれば、この著者の本などを買って勉強しようと思った。

自慢だが、私は本を読むのが早い。速読は断念してしまったが、トレーニングをしてみた結果、格段に読むのが早くなった。そして、毎日、気になる人や分野の本を手にして読んでいるし、車移動が多いからオーディブルで小説から自己啓発本まで様々内容を聴いている。気になることがあれば忘れないようにその言葉を呟き続け、信号待ちなどで即メモを取る。その後、それらを調べ、何かに使えないか検討をしたりする。様々な観点で物事を見ることは重要なのだ。

ところが、この記事の内容は酷かった。そして、強い不安感に襲われた。

フォロワーの方々から提供していただいた記事のスクリーンショット

記事では、著者は、心理カウンセラーとして学校でスクールカウンセラーをしていた経験に基づいて、いじめはいじめる側が一方的に悪いとしつつも、いじめられる原因を直せばいじめられないというものだった。また、著者自身は加害経験も被害経験も傍観して助けられなかった経験もあるのだという。

この記事を読んで、もしかしたら、私がやっていることは間違っているのではないだろうか、今までいじめの現場以外も含めればおよそ3万人以上のこどもたちと話してきた。彼らと共有した感覚も実はレアケースで誤りなのだろうか?そこで、私はフォロワー3,000人程度の自分のXにこの記事をシェアして、広く問いかけることにした。

本来であればいったん自分の中で噛み砕き、よく検討して熟成させ、一旦ねかせて投稿するのだが、この時は率直な思い(いじめの被害を受けている子の共通点は「優しい」)と質問をした。

するとどうだろう、徐々にシェアされていき、記事を読んだ方々から様々なご意見、コメントなどが私の元にきた。

10月1日には既に冒頭の記事が削除され、著者のXからもリンクが消えていたが、いったいどういうつもりなのだろう。

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「ただの差別」。児童虐待の経験者は記事をどう思ったか

私がこれまでやってきた活動の経験から考えて、この記事にある「いじめられやすい人の特徴」で思い浮かんだのは、児童虐待の被害を受けている子であった。

洗濯をしてもらえないので、服が汚れ、お小遣いなどは当然もらえないから何も買えない、幼いながらも周囲との差に気が付いているから暗くなり自己主張は出来ず、常にオドオドしてしまう。自分を守るために嘘をつかないと生きていけないから嘘をつくが、ジリジリと自分を蝕んでいるような気がしてならない。食事も運動もほとんどしていないから、背が低く極端に痩せている。

そして、その環境の中、彼らがいかに努力をしようが、改善をしようとしても環境は変わることはない。この記事を読んで、彼らはどう思うだろう。私は過去に虐待から救援し、現在大学生のA君に話を聞いてみた。

A君は小学3年生まで虐待の被害を受け、友人らが動いて保護者が動き、当時その区でいじめの実態講演などをしていた私に相談が入ったことで、学校警察児童相談所が動き出して救助された。私はカップ麺やうまい棒などの駄菓子、カロリーメイトなどをその時は常に持っていてA君に食べさせていたので、A君は未だに私を「マルちゃん」と言う。

A君 「今は平気ですけど、当時読んでいたら絶望したと思います。だって、自分ではどうすることもできないことですからね」

阿部 「A君はいじめの被害は受けていなかったよね?」

A君 「ええ、ここにある特徴のだいたい全てを満たしてましたが、いじめの被害は受けてなかったですね。むしろ、心配されてました。うちの子になるか?とか聞かれていたし、飯食わせてもらったり」

阿部 「そうだったね。周りの人たちがなんとかしようとしてくれていた」

A君 「だから、これ読んだとき、ただの差別だろって思ったんです。変えることできないし、自分の努力でどうにもならないことを変えたらいじめられないって言われても、それは無理ゲーだろって。マルちゃん、ブチ切れてんだろーな」

阿部 「いやいや、Xに投稿した通り、困惑したというのが先だね。まずは、意見求めてみようって思った。その後に段々怒りが出たけど、みんなの意見を聞いて、納得できることが多くて冷静になったよ」

A君 「僕は今研究したりしているから、冷静に読み返して気になったのは、これは統計ではなくて、個人の経験なんですよね、それも数字とかがない、だから、感想なんですよ。ひろゆき風に言えば、それってあなたの感想でしょ?なんですよ」

阿部 「感想ね。確かに統計がないし、広く見てではなく、個人として感じたことになっているね、特に16の特徴はまさにそれだね」

A君 「そう!だからこれって偏見だよねって思ったんです。それを、こういうヤフーとかのかなり多くの人が見る場でやったら、いじめ被害の当事者も見るわけだし、痛いなこの記事って思ったんです。だから、僕からみたら、痛いニュースですね」

A君は冷静に冒頭の記事をみており、記事に値しない単なる偏見の感想文に過ぎないと断じていた。そこには怒りより、冷静にこの人大丈夫という心配と疑問があるようだった。

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ネットのニュース番組で受けたあまりに汚い仕打ち

過去、「いじめは被害者にも原因がある」というのはよく言われていた論調であり、私もテレビ番組やインターネット番組に呼ばれて、名だたる評論家の先生方やアナウンサー司会者に詰め寄られて閉口したことがある。

あるテレビ局が制作しているインターネット放送のニュース番組に出演したときは、「被害者にも直す点があるんじゃないですか?加害者がやり玉にあげられて可哀想じゃないですか!子どもですよ!人権があるんですよ!」とあるタレント司会者さんに責め立てられた。反論しようとすると、その司会者がさらにそれを補強しようとする評論家に話を振り、論点がズレたところで、薄笑いを浮かべて、私を指名するという汚い仕打ちを受けた。すでにフロアディレクターさんが、「残り5秒」のカンペを出している。

番組を進行する司会者が偏向的考えの持ち主で、コメントを求められる評論家などが同様の存在であれば、私は生贄として騙されて番組に呼ばれたのだろう。だが、こういうことは以前にもあった。被害者側につくことが多い私は、加害者や隠ぺいしたい学校とそれを応援したい勢力にとっては、倒すべき敵であるのだ。しかし、生贄にも一矢報いることはできる。だから私はこの時、こう言った。

「被害者にも人権があるんですね。その点忘れてないですか?被害者も子どもですよ。それ忘れていませんか?」

番組がCMに入ってテーマが変わる前の5秒くらいが私の尺だったから、全てを反論できないと悟り、言葉を選んだ。まだまだ言い足りないことはある、しかし、すぐにディレクターさんが来て席からはけさせられた。振り返ると、苦虫をかみ殺したような司会者の膨れ面が見えた。その顔は二度と忘れない。まあ強く抗議をしたし、その膨れ面にウインクして挑発したから、二度と呼ばれないだろうが。

さて、それからおよそ5年くらいだろうか、色々な先生方や被害者、心あるメディアの方々が、「いじめられる側に原因はない」という機運を作り、広めてくれたおかげで、加害者脳の人々もあまりこれを口にしなくなった。

ちょっと考えればわかるのだ。いじめという犯罪行為が多い行為を敢えて仕掛けようというのは、加害者の行為選択に過ぎないのだ。つまり、いじめは加害者の選択に過ぎない。それをやられる方のせいだというのは、やはり加害経験があって自己正当したいか、加害者脳がゆえに理解ができない病気と言えるだろう。

これこそ私の感想の領域に過ぎないが、それでも、「いじめられる側にも原因」論はよく学校界隈や教育関係者界隈で耳にする。再度書くが、これは私の個人的な感想だ。

重大事態いじめに介入したときも学校法人や教育委員会に呼ばれて意見書を書く時も、「でも、あの子にだって原因はあるんです!」という言葉を吐かれる。どうしてそう思うのですか?と問えば、大半は被害当事者のことではなく、いじめ問題だと提起した被害保護者とのやり取りのことで、残業するハメになったとか、私だって頑張ってるとか、そういう話だ。

いつの間にかに、いじめに気が付いていながらそれを止めもしなかった教員は、自分がいかに大変だったかを話し、我こそ真の被害者だと主張し始めるシーンに何度も遭遇した。きっとこうした論調は、何度もぶり返すのだろう。

再度書くが、私の経験上の感想だ。

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「お母さんタイプがいなくなれば戦争もいじめもなくなる」という主張

私が知る専門家の人たちは、みな議論ができる。むしろ楽しんでいるように議論を戦わせ、その後笑顔で握手をしたり集合写真を撮ったりしている。自分と違う意見の人がなぜそういう結論に至ったのか知りたいのだ。

私も加害者擁護の専門家と何度も意見交換をしたことがある。喧嘩もしなかったし、口論もせず、「なるほど、そう考えたのか?ではこういう事件はどういう感想を持ちました?」というように興味を持って話を聞いていくと、色々な話を聞かせてくれるし、いつの間にか、相手も「阿部君のいうこともよくわかるよ。今後も意見交換しよう。でも仲良しだと周りにバレると色々あるから秘密で」となったわけだ。

これはとても大切なことだと思うのだ。

問題を様々な観点で見ることはその本質や解決につながるヒントになるのだから、自分と違う意見の人との議論は勉強になる。議論をしたからと変説することはないし、この立場の人はこういう背景があるのかという政治的な発見があったりもする。

しかし、世の中には議論を対立と捉え、いきなり喧嘩腰になったり、人格攻撃をするような大人もいる。議論=喧嘩ではないのに、意見が違うというだけで、喧嘩相手になってしまうのだ。それではまるで格闘技バラエティーを地で行く世界観になってしまう。

冒頭取り上げた記事の著者も同様で、記事を取り下げ、自身のXアカウントからも記事のリンクを外した。その後、Xアカウントの投稿で一番上に出ていたのが自身のYouTubeで、「戦争をするのもいじめをするのもお母さんタイプ(エニアグラムという心理適性診断での区分)。お母さんタイプがいなくなれば戦争もいじめもなくなる」との主張だ。

しかも、「世の中の4割がお母さんタイプ」だというのだ。

そして、自分は「こういうタイプなので平和だから誰かと争わない。自分の殻にこもる」という。

お母さんタイプの典型例がホリエモンこと堀江貴文さんだと冒頭の著者が言っていたのには閉口した。

ちなみに私はエニアグラムでは「お父さんタイプ」であった。私は彼のような人の主張でもなぜそう考えたのだろう?何を伝えたいんだろう?と話を聞く姿勢は常に持っている。もっているからこそ、彼が言う心理適性診断をやってみたのだが、例えば、彼のいうお母さんタイプは多くは「タイプ2献身者」と分類され、「他者を助けようと全力を注ぐ。他者からの感謝や肯定的な反応を見返りとして求める傾向がある。自分に価値がある人間だという自信が持てないため、他者を助けることで実感しようとする。また、誰かを助けたい気持ちに反して、人から助けられたくないと思っている」という内容の説明が関連サイトでは多かった。

そして、他者を助けようとする行為が攻撃的になったりするから、争い諍いを起こすということのようだった。ただし、この診断は、9つのタイプの心理的特性の強弱を見るもので、どのタイプが強くどのタイプの傾向が弱いかで判断し、これを活用して自己成長していこうというものだから、このタイプだから危険というのは、ちょっと行き過ぎた議論ではないかと思うし、「ホリエモンはお母さんタイプだ!」と外から見ただけで診断してしまうというのもどうかと思うのだ。それこそ決めつけではないのだろうか。

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「心の専門家の心が成熟していない」という恐怖

心理的側面からすると、被害者はいじめを受けている状態であり、心身の苦痛を感じているわけだ。だからこそ、今の状態から脱するためにどうすればいいかを考えることになる。それを知る保護者もなんとかしなければと思うから、誰かのアドバイスを求めたくなる。つまり、被害者は大いに聞く耳を持っているのだ。

一方、加害者は加害行為によって脳からドーパミンなどが出て心地よい状態になっていることもあるという。少なからず、いじめをする事自体を認知していなかったり、いじめを止めて改善しようとは思わないわけだ。そこに、君は支配型関係性嗜癖だから治療行為が必要ですと言っても言うことを聞かないだろう。つまり、加害者は少なからず、咎められるまで異常な状態だと思っていないから聞く耳は持たない。

被害者は心を病むわけだからスクールカウンセラーのもとに来て相談することもあるだろうが、加害者は自らの行為が異常だとは思っていないことも多く、異常認知の場合はいじめ発覚を恐れて相談室にはまず来ないだろう。

冒頭の記事を読んだ多くの方から、いじめ被害者の特徴はいらない、そもそもその観点がおかしいし、心理職の方々に聞きたいのは、どうやったら加害行為をしなくなるとか、加害者に対応する有効対策だ。との意見が多かった。

対話をすれば別の有効策が生まれたのかもしれないが、それを対立であったり批判だと捉え、人間が持つ進化とも言える議論ができないとはなんとも悲しいものだなと思うのだ。

きっと彼にはこれも攻撃なのだろう。心の専門家の心が成熟されていないことに私は恐怖すら覚えるが、皆さんはいかがだろうか。私は彼が私との議論を求めるなら喜んで応じるつもりだ。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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