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玉木雄一郎の人気取りか?国民民主党「103万円の壁」撤廃で“働きづめ”にされる日本の大学生たち

先の衆院選での国民民主党躍進の大きな原動力となった、「103万円の壁撤廃」という公約。11月29日には石破首相が所信表明演説で、「103万円の壁」の引き上げを明言するに至りました。この「年収の壁」を取り上げているのは、メルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』著者の伊東森さん。今回伊東さんは「103万円」以外の年収の壁を紹介するとともに、「配偶者控除」が創設された意外な背景を解説。さらに「年収の壁」を気にしながら学生が働かざるを得ない日本の状況に、批判的な視線を向けています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「年収の壁」引き上げをめぐる論点 背景にある伝統的家族観 所詮は国民民主の学生バイトの人気取りか? 学生アルバイト、「働きづめ」の問題も

「103万円の壁」引き上げはあくまで一つの改善策。日本に求められる「学生が働かざるを得ない現状」の改善

11月22日、政府は閣議で新たな経済対策を決定した。この中には、国民民主党が提唱していた「年収の壁」の引き上げが盛り込まれている。具体的には、現在年収103万円を超えると所得税が発生する仕組みを見直し、引き上げる方針が明記された(*1)。

「年収103万円の壁」とは、パートタイム労働者やアルバイトが年収103万円を超えると所得税が課され、扶養控除の対象から外れる仕組みを指す。このため、多くの人々が働きすぎを避けるなど、働く意欲を制限される状況が問題視されている。

国民民主党は、この壁を178万円に引き上げるよう提案し、その理由として最低賃金の上昇を挙げている(*2)。

現在の「103万円」という基準は、基礎控除(48万円)と給与所得控除(最低55万円)の合計に基づく。

基礎控除:すべての納税者に適用される控除で、最低限の生活費には課税しないという憲法の生存権の考え方に基づく。

給与所得控除:給与所得者特有の控除で、仕事に必要な経費(例:スーツや交通費)を考慮して設けられている。特徴として、年収が増えるほど控除額も大きくなる仕組みがある。

年収の「壁」引き上げによる最大のメリットは、課税ライン引き上げによる手取りの増加だ。また、「働き控え」が減って企業の人手不足解消にもつながるという。

103万円だけではない。他にも存在する「年収の壁」

年収の壁とは、パートタイムやアルバイトで働く人々にとって重要な指標となる収入の境界線こと。103万円だけでなく、106万円、130万円のなどの壁があり、それぞれ異なる意味を持つ。

103万円の壁

103万円の壁は、所得税に関わる境界線(*3)。基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)の合計額であり、この金額を超えると所得税が発生し始める。そして配偶者控除や扶養控除から外れるラインだ。

106万円の壁

106万円の壁は、社会保険への加入義務が発生する境界線。月額賃金が8.8万円以上(年収約106万円)になると適用されるが、以下の条件も満たす必要がある。

  • 週20時間以上の労働
  • 2ヶ月を超える雇用見込み
  • 学生でないこと
  • 従業員51人以上の企業で働いていること

130万円の壁

130万円の壁は、社会保険の扶養から完全に外れる境界線。年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、国民年金や国民健康保険の保険料の支払いが必要になる。なお交通費、残業代、ボーナスなども収入に含まれる。

またこれらの壁を超えると、税金や社会保険料の負担が増え、手取り収入が減少する可能性がある。

106万円の壁:年収125万円以上で手取りの逆転現象が解消

130万円の壁:年収153万円以上で手取りの逆転現象が解消

年収の壁は、税金や社会保険制度に関連しており、働く人々の収入や手取りに大きな影響を与える。

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「年収の壁」の背景にある伝統的家族観

また配偶者控除と年収の壁は、ともに日本の税制と社会保険制度に関連している。配偶者控除は、納税者の配偶者の所得が一定額以下の場合に適用される所得控除制度。

配偶者控除は、配偶者の所得が低いほど有利な制度であり、この制度自体が「年収の壁」を形成している。特に103万円や130万円といった年収ラインは、配偶者控除や社会保険料負担に直接影響し、多くの人がこれを意識して働く時間を調整している。

配偶者控除制度は1961年に創設され、当初は働く夫を支える妻の“内助の功”に報いることを目的としていた。この制度は専業主婦世帯を前提としていたが、しかし時代とともに状況は変化。

2016年9月、安倍晋三首相は政府税制調査会で配偶者控除の見直しを指示。しかし、2018年の制度改正は期待されたほどの大きな変更はなかった。従来の「103万円の壁」に加えて「150万円の壁」が新設され、103万円超~150万円の範囲で、配偶者特別控除の金額が配偶者控除と同じ38万円に設定される。

経済ジャーナリストの町田徹氏は、東京新聞において「年収の壁」問題の根本には、家父長制的な考え方があると指摘(*4)。これら「壁」は、夫が働いて妻子を養うという伝統的な価値観に基づき、このために多くの女性が働き控えを余儀なくされ、結果として社会進出や地位向上が阻害されてきたという。

求められる「学生が学業に専念できる環境」の整備

国民民主党は、夏に実施した学生インターンシップを通じて、「アルバイトで生活費や学費を稼ぐ学生が年収の壁によって働く時間を制限している」という声を受け、「103万円の壁」の引き上げを政策に取り入れた(*5)。

現在、年収が103万円を超えると学生自身に所得税が発生し、さらに親の扶養控除が適用されなくなることで親の税負担も増加。この制度が、学生の働き方に制約を与えているという。

しかし、そもそも、日本の大学生がアルバイトに多くの時間を費やしている現状は、学業に専念できる環境が整っていないことを示す。日本の大学生の約7割がアルバイトを経験し、その平均労働時間は週11~15時間。

中には学費や生活費を賄うため、さらに多くの時間を働く学生も少なくない。これにより、学業に十分な時間を確保できないケースが多く、特に週21時間以上働く学生は授業の予習・復習に割ける時間が制限されているという。

日本は高等教育への公的支出が少なく、学生やその家庭に大きな経済的負担がかかっている。「年収の壁」の引き上げは一つの改善策であるが、根本的には高等教育の支援体制を強化し、学生が学業に専念できる環境を整備することが求められる。

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引用・参考文献

(*1)杉山健太郎「政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模39兆円」Reuters 2024年11月22日

(*2)「【103万円の壁】引き上げで実は会社員などにもメリット…国民民主党案では年収が低い人の方が減税の割合が高い!? 政府試算『税収約7兆6000億円減少』をどう見る?社会」MBSNEWS 2024年11月4日

(*3)「103万の壁って?106万、130万も…違いは?年収の壁を詳しく」NHK NEWS WEB 2024年11月8日

(*4)山田祐一郎、安藤恭子「『年収の壁』対策は本当に朗報なのか…2年後に待ち構えるものとは」東京新聞 2023年9月29日

(*5)渡辺精一「学生バイトの発想?国民民主『年収の壁』対策の不思議」毎日新聞 2024年11月30日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年11月30日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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