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「ラスボス」は過大評価、宮澤自民税調会長の正体。実態は財務省配下の小ボス…103万円の壁バトルで敗北を悟り震えている

自民党税調会長の宮澤洋一氏がネットを中心に、「103万円の壁」引き上げを阻む強敵として「ラスボス」呼ばわりされているのをご存じだろうか。「税は理屈の世界です」という同氏の台詞が某人気漫画の「魔法はイメージの世界だ」を彷彿とさせるのも、謎の強キャラ感の一因かもしれない。そんな中、「あの宮澤氏がラスボスとは、いささかその力を“過大評価”しすぎではないか」と指摘するのは元全国紙社会部記者の新 恭氏だ。結局、宮澤氏は「税の世界では財務省の理屈にあわない減税は実現できない」と言っているだけで、せいぜい財務官僚に毛が生えた“小ボス”というのが実態らしい。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:軽量税調の象徴・宮澤洋一氏が「ラスボス」とは、過大評価ではないか

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「ラスボス」の器ではない、自民党税調会長の宮澤洋一氏

自民党税調会長の宮澤洋一氏といえば、きらびやかな家系のわりに、地味で堅実な政治家というイメージが強かった。

ところが、あろうことか、昨今ではネットを中心に「ラスボス」だの「国民の敵」だのと呼ばれている。むろん、さきの衆議院選で大躍進した国民民主党の掲げる「103万円の壁」引き上げ政策の前に立ちはだかっているように見えているからだが、それにしても、いささかその力を“過大評価”しすぎではないだろうか。

「ラスボス」と言い始めたのはおそらく元財務官僚、高橋洋一氏だろう。11月23日のABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」に出演した高橋氏は「103万円の壁」について「令和7年度の税制改正で協議する」という自民、公明、国民民主の三党合意を取り上げ、このように語った。

「ここで出てくるのは石破さんじゃなくて、石破さんよりはるかに強力な、ラスボスですよ」「宮澤洋一さんって人で、財務省時代の先輩でもあって、私も仕事したことあるけど、すっごい上から目線でさ。玉木なんて、呼び捨てで酷いと思うよ」 

財務省にいたころ、宮澤氏が人並み以上に威張りたがる官僚であったのは間違いないだろう。部下だったことのある高橋氏はその証人だ。だがそんな人物、霞が関には掃いて捨てるほどいる。しかも当然のことながら、傲慢な人格と政治家としての力量は別物である。

宮澤氏が、宮澤喜一元首相の甥で、喜一氏の地盤を継いで政界に進出したことは周知の通り。2009年の衆院選で落選し、10年には参院議員として国政復帰、これまでに1年間ほど経済産業大臣をつとめたことはあるが、閣僚経験はそれだけだ。

宮澤氏の政治歴で特筆されるのは、2015年から19年、そして21年から現在まで自民党税制調査会長をつとめてきたこと。つまり、税制に関しては党内きっての政策通であることだ。

だが、宮澤氏の税調会長としての歩みは、決して順調だったとはいえない。かつて山中貞則会長のもとで隆盛を極めた自民党税調が弱体化してゆく流れが安倍政権下において加速し、その真っ只中で宮澤税調が生まれたからだ。

山中貞則氏は党税調会長を1974年から89年までつとめ、その後も2004年に亡くなるまで最高顧問としてこの国の税制に君臨した。税に精通しているのはもちろん、人柄も豪快。大蔵事務次官経験者の相沢英之氏や宮下創平氏らとともに「インナー」と呼ばれる閉鎖的な意思決定機関を構成して、中曽根康弘元首相や小泉純一郎元首相さえも抗いがたい政治的迫力を持っていた。

しかし、山中氏が亡くなり、相沢氏、宮下氏が政界を去ると、しだいにかつての“威勢”が失われ、積極財政を志向する第2次安倍政権になってからは、さらに影響力の低下が顕著になった。

むしろ宮澤氏は税調「凋落」の象徴

宮澤氏は、税調の凋落を象徴する人物ともいえる。宮澤氏が税調会長に就任した2015年の12月にとりまとめられた与党税制改正大綱は、法人税率を20%台まで引き下げ、消費税については10%への税率引上げ時期を1年半延期するなど、税調の考え方にはそぐわない内容だった。

むろんこれは安倍官邸主導の政策である。宮澤氏に安倍官邸の圧力を跳ね返す力はなく、税調は蚊帳の外に置かれていた。メディアに宮澤税調を「軽量級」と評する論調が目立っていたのもうなずける。

それから10年近くを経て、宮澤氏の党内における存在感も増してきただろうし、税調会長としての風格も備わってきただろう。だが、「ラスボス」といわれるほどの大物なのかといえば、相当な違和感がある。

優秀な財務官僚が、たまたま叔父に大政治家がいたことから、その地盤を継いで政治家になった。そして数少ない税の専門家として党内で重用されている。財務省の官僚が税調会長に名前を変えただけのことのようにも思える。

セルフ経済制裁を続けた財務省のあやまち

財務省設置法第三条には同省の任務が以下のように定められている。

財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。

健全な財政、適正かつ公平な課税。財務省はこれを金科玉条とする組織であり、国民の生活や幸福といったことは任務外なのである。減税して人々の懐を温め、消費をさかんにして国の経済を豊かにするという、仁徳天皇の「民のかまど」的な発想は必要とされない。任務を分ける各省の設置法が、省益の対立する縦割り構造を生み、予算編成を担い財源を配分する財務省の支配的な地位をつくりあげる。

もとより税は政治に左右されるべきではない。政治家は国民受けする減税政策に走りがちである。税調はそれを防ぎ、税制の安定性をはかるために存在する。

だが、30年以上にわたるデフレのもとで、税調が財務省の論理を優先し、減税よりも増税を強化してきたため、不況を抜け出せず、バブル崩壊後の1991年から経済成長率は低迷を続けてきた。

本来、不況期には減税して貨幣の流通量を増やし、好景気を冷やしたい時に増税するものである。ところが、財務省と自民党税調は財政健全化の名のもとに、国債発行を「悪」と決めつけて、緊縮財政策のための税制を採用してきた。

おかげで、いまや税と社会保障を合わせた国民負担率は45%をこえている。これでは人々の使えるおカネ、すなわち“手取り”が少なくなりすぎて、景気が上向くはずがない。

「インナー」と呼ばれる教条的な密室の政策決定が、この国の経済運営を硬直化させてきたのである。軽量級と評された宮澤税調の弱点をついて安倍政権は減税政策をめざしたが、予算編成を財務省の専門性に頼る以上、自ずから限界があった。

「税は理屈の世界」宮澤氏は財務官僚に毛が生えた“小ボス”

「税は理屈の世界です」。誰がそう決めたのか知らないが、 宮澤氏は政界における財務省的「理屈」の守護神であろうとしている。

「財政を健全に保つことは大変大事だと思いますし、現段階で日本国債が破綻することはないにしても、放漫財政を続けていると『キャピタルフライト』が起きかねません。・・・2000兆円と言われる個人金融資産が海外に向かってしまうことが危惧されます。これによって円の信認が失われ、大変な円安になることが一番怖い」(財界2024年2月14日号より)

宮澤氏は「ラスボス」どころか自身の敗北を悟っている?

ところで、今回の「103万円の壁」をめぐる交渉において、宮澤氏は「ラスボス」といえる存在だったのだろうか。

この国民民主党の政策は、人々の手取りを増やし、景気を良くするという二重の効果が見込まれるものだ。しかし、「103万円の壁」を178万円に引き上げれば7~8兆円も税収が減るという理由で、宮澤税調は引き上げ幅を抑えにかかり、178万円にはるかに及ばない123万円を国民民主党に提示した。ここまでは財務省の思惑通りだ。

だが、12月20日に決定された来年度の与党税制改正大綱には、相矛盾する二つの文言が盛り込まれた。一つは「年収103万円の壁」を123万円に引き上げるという提示済みの内容。自公国の幹事長間の合意を無視し、国民民主の同意を得ずに見切り発車したように思える。

そして不思議なことに、この大綱には「178万円を目指して、来年から引き上げる」「自民・公明両党として、引き続き、真摯に協議を行っていく」と三党幹事長間の合意内容も書き込まれている。

これはどういうことなのか。税調は123万円に引き上げることを決定し、三党の幹事長は178万円をめざして引き続き協議する。それが同じ大綱の中に記載されている。

ひょっとして、この大綱の作成をもって税調の役割が終わり、これからは政治的にどう決着させるかの段階に移るということではないのだろうか。

だとすれば、宮澤税調に国民民主党が押し切られたのではなく、石破首相や森山幹事長がいまもなお宮澤税調を「軽量」と見なし、税調の出した結論に縛られないですむ文言を大綱に書き加えたと見るのが自然だ。

宮澤氏は会見で、悔しまぎれにこう漏らした。

「玉木雄一郎代表(役職停止中)と榛葉賀津也幹事長の会見が大変人気があるようで、私どもも対抗できるようなSNS上の働きかけをこれからはしていかなければならない」

人は何によって心を動かされるのか。ことの本質を理解していないようだ。宮澤氏は危険な真面目さを持ってはいるが、「国民の敵」と見なすべき重要人物とは思えない。心ひそかに馬鹿にしておればいいだけのことだ。

来年に決着持ち越し「103万円の壁」問題はどこに着地するか

では、決着が来年に持ち越された「103万円の壁」問題。この先、どうなっていくだろうか。

石破政権が日本維新の会と国民民主党を両天秤にかけながら、それぞれの看板政策の実現というエサをぶら下げて、25年度の当初予算案を国会通過させようともくろんでいるのは間違いない。

だからといって、「123万円」で折り合わない国民民主党と手を切り、維新と組むということは考えにくい。いかに石破首相が維新の前原誠司共同代表と懇意とはいえ、維新内部の意見対立が懸念される。

それに、石破首相としては、国民民主の政策を冷淡に扱って支持率を下げたくないという思いも強いはず。ただでさえ、来春に当初予算案が成立した後、夏の参議院選をにらんで「石破おろし」の動きがあると見られているのだ。

国民の支援を得るため国民民主党に抱きつくしか、政権浮揚をはかる方法がなくなるのではないか。

国民民主党の政党支持率は上昇を続けている。日経新聞とテレビ東京の20~22日の世論調査では自民党に次いで2位の14%だった。国民の応援が続く限り、石破政権と自民党が「103万円の壁」をおざなりにすることはできない

それでも「123万円」を押しつけることがあるとすれば、政権を投げ出す覚悟を決めた時くらいだろう。

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