まずは時代錯誤的な妄想「アジア版NATO」構想をドブに捨てよ。石破首相が公明党の「アジア版OSCE」に賛同する前にやるべきこと

 

「協調的安全保障」のOSCE、「敵対的軍事同盟」のNATO

本誌は、冷戦終結以来の35年間、繰り返しこれを論じ、最近ではウクライナ戦争との関連で「NATO東方拡大」の誤りに根底にある西側の思考混濁の問題として取り上げているので、古くからの読者の皆様には「また、それか!」と言われてしまいそうだが、第2次大戦後の80年間を貫いているのは新旧2つの安保原理の鬩ぎ合いである。

一方には「協調的安全保障」の考え方があり、これは「そこに」ある全ての国が参加して円卓を囲み、紛争の予防とそのための信頼醸成措置の構築、それでも紛争が起きてしまった場合も武力不行使、あくまで話し合いを通じて解決を図ろうとする。それに対して「敵対的軍事同盟」は、第2次大戦の「枢軸国vs連合国」や、冷戦時代の「NATOvsワルシャワ条約機構」のように、予め敵を想定して味方を結集し、いざとなれば問答無用の武力攻撃で相手を叩きのめそうとする。

前者の代表例は、最後はヒロシマ・ナガサキの地獄絵にまで行き着いた第2次大戦の悲惨を踏まえて創設された「国連」であり、その憲章の「第6章 紛争の平和的解決」の第33条から第38条、「第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」の第39条から41条までは、何とかして紛争を平和裡に解決するための知恵が書き連ねてあり、それでもダメな場合として第42条で初めて加盟国の陸海空軍による国連軍の行動が発動されることが記されている。

「そこに」ある全ての国は、国連の場合は全世界であり、その下での欧州における地域安全保障取極の機関であるOSCE(全欧安保協力機構/Organization for Security and Co-operation in Europe――「安保協力」ではなく「安保と協力のための機構」であることに注意)の場合は欧州の全ての国(プラス米国とカナダ――本来は無用だがNATOの一員として欧州安保に関わってきた言わば既得権益で強引に参加)である。

後者の代表例が言うまでもなくNATOで、冷戦が終わり、その趣旨に忠実にゴルバチョフのロシアが直ちにワルシャワ条約機構を解体したのに対し、ブッシュ父の米国は「冷戦という名の第3次世界大戦に勝利したのだから、これからは米国が唯一超大国として世界に君臨するのだ」という錯誤した時代認識に溺れNATOを解消しなかったどころか、それを東方に拡大し、旧東欧やソ連邦傘下の諸国を引き込んできた。それが今日の世界の混迷の最大の要因となっている。

戦後、国連は「敵対的軍事同盟」の思想を断ち切って、「協調的安全保障」原理が支配する世界を作ろうとし、日本はその方向を信じて率先、憲法第9条を制定したのだったが、肝心の米国とソ連がたちまち敵対原理に後戻りし国連理念を裏切った。だから、冷戦が終わった時がその1945年の初心に帰るチャンスで、ゴルバチョフはそうしようとしたのにブッシュはそれを理解しなかった。米国の今日に至る国家的な認知障害はここに始まったのである。

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