まずは時代錯誤的な妄想「アジア版NATO」構想をドブに捨てよ。石破首相が公明党の「アジア版OSCE」に賛同する前にやるべきこと

 

まずは「アジア版NATO」構想をドブに捨てなければならない首相

OSCEの前身はCSCE(全欧安保協力会議)で、それは当時の西ドイツ社民党政権の首相ヴィリー・ブラントが唱導した「東方外交」の結果、冷戦下にも関わらず壁の両側の東西主要国が一堂に会して円卓を囲み、安全保障のみならず経済協力や文化交流、人権問題改善などを協議しようという機運が高まり、1975年にヘルシンキで発足した。これこそが、15年後の冷戦終結の土台を築いたのであり、当然にも、NATOも解体され以後の欧州の安全保障はCSCE(1994年に常設機構化されOSCEに改称)が担うことになると考えられたが、米国がそれをブチ壊したのだった。

しかしその理念は他地域にも影響を与え、とりわけアジアではアセアンが94年に「アセアン地域フォーラム(ARF)」を結成し、アセアン加盟10カ国に加えて域外から――

北東アジア】日本、中国、ロシア、北朝鮮、韓国、モンゴル
南アジア】バングラデシュ、スリランカ、インド、パキスタン
大洋州】東ティモール、パプアニュイーギニア、オーストラリア、ニュージーランド
西方】欧州委員会、米国、カナダ

の16カ国1機関が参加し、信頼醸成、紛争予防、紛争解決を旨としたOSCE型の地域安保を目指した。が、南シナ海を巡る中国とアセアン諸国の紛争を上手く解決できなかったことから今は活動が低下。しかし枠組みは維持されており、「アジア版OSCE」と言うならまずこのARFの再活性化から取り組まなければならないだろう。

我々の「東アジア共同体」構想は、「東南アジア」のアセアン10カ国のまとまりに加えて、日中露朝韓(プラス米?――これはねえ、加えたくないが加えなければ僻むので扱いがなかなか難しい)で「東北アジア」のまとまりを作り、その複眼が強く連携し合う「東アジア」をイメージするところに発している。北東アジアの6カ国はかつての朝鮮半島非核化のための「6カ国協議」の顔ぶれでもある。

もし本当に石破が「アジア版OSCE」に賛同するのであれば、まずは彼の時代錯誤的な妄想である「アジア版NATO」構想をドブに捨てるところから始めなければならない。その覚悟もなしに公明党の構想に賛同したのだとすれば軽薄すぎるということになる。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年1月13日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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