1月7日に発生し、未だ延焼が続く米カリフォルニア州ロサンゼルスの山火事。その原因として地球温暖化による気候変動の影響を挙げる声が各所から多数上がっています。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東森さんが、何が近年の異常気象を招いているのかについて考察。さらに気温上昇にとどまらない地球温暖化の影響を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日本、世界で寒波 米ロサンゼルスで山火事 絡み合う気候クライシス
地球が上げる悲鳴。絡み合う気候クライシスに追い詰められる人類
日本や世界各地で異常気象が発生し、深刻な影響を及ぼしている。今年の冬、日本列島は今シーズン最強の寒波に見舞われた。福岡県では、1月8日夜遅くから10日にかけて大雪の可能性があるとし、気象台が注意を呼びかけた(*1)。
上空1,500メートルにはマイナス12℃以下の強い寒気が流れ込み、九州北部では極めて稀な最強寒波に(*2)。この寒波の影響で、各地で交通機関に乱れが生じ、山形新幹線は除雪作業が難航し、一時運転が見合わせられた(*3)。
寒波は世界各地でも記録。中国北部の内モンゴル自治区では、気温が氷点下40度まで下がる厳しい寒波が発生(*4)。凍てつく寒さの中、黄河では幻想的な「氷の花」が観察された。
イギリスでは冬の嵐により洪水が発生(*5)。イングランド北部では5日に氷点下の気温と大雪に見舞われ、一時1万2,000軒以上の家屋が停電(*6)。その後、降雨と雪解けが原因で各地で洪水が発生し、イングランド南東部の街では多くの家が水に浸かる(*7)。
一方、アメリカのロサンゼルスでは、過去最悪の山火事が高級住宅街を襲い、約1万棟が焼け落ちた。
これらの異常気象は、気候変動の影響が指摘されており、今後も世界各地で同様の事象が発生する可能性が。
北半球の気候に大きな影響を与える負の北極振動
現在、日本は強い寒波の影響を受けており、特に日本海側を中心に大雪や厳しい寒さが続いている。北陸地方では70cm、関東甲信の山沿いでは最大50cmの積雪が予想(*8)。
この寒波は、負の北極振動による北極域の寒気が中緯度地域へ流れ込みやすくなったことが原因という。北極振動は、北極域と中緯度地域間の気圧差が変動する現象で、特に冬季に顕著になり、北半球の気候に大きな影響を与える。
近年の研究では、地球温暖化が北極振動のパターンに影響を及ぼしている可能性が指摘(*9)。北極海の海氷減少が北極振動を変化させ、それが中緯度地域の気候に波及しているとの見方がある。
さらに、2024年の冬はラニーニャ現象の影響も受けており、日本付近では偏西風が南に蛇行し、寒気が流れ込みやすい状態になっている。
寒波の影響は世界各地でも観測。アメリカ中西部では過去10年で最悪の大雪となり、カンザス州やミズーリ州を含む複数の州で非常事態宣言が発令された(*10)。
一方、地球温暖化が極端な寒波を引き起こしている可能性も注目。温暖化に伴う北極海の海氷減少は偏西風の蛇行を促進し、気候システム全体を不安定化させることで、寒波を含む極端な気象現象が増加する可能性があるとされる(*11)。
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何がアメリカ史上最悪級の気象災害・ロス大火災を招いたのか
ロサンゼルスを襲った大規模な山火事は、アメリカ史上最悪級の気象災害となり、高級住宅街を含む広範囲に被害をもたらす。
火災では、パシフィック・パリセイズ火災やイートン火災を中心に複数の山火事が同時多発的に発生した。強風による炎の拡大により、1万2,000以上の建造物が焼失し、11人以上が命を落とす悲劇となる(*12)。さらに、ハリウッドの著名人の邸宅も次々と被害を受け、ビリー・クリスタル、マンディ・ムーア、パリス・ヒルトンなど多くのセレブリティが自宅を失った(*13)。
被害の拡大の背景には、カリフォルニア州が長年直面している気候変動の影響が。干ばつと異常気象が続き、森林や植生は極度に乾燥した状態となっていた。これに加え、時速160kmを超える暴風が吹き荒れたことで、火災は急速に拡大し、消火活動が困難に(*14)。
気候変動は、ロサンゼルス周辺の山火事リスクを顕著に高めている。スタンフォード大学の気候科学者ノア・ディフェンバウ博士によると、地球規模の気温上昇は南カリフォルニア地域の温暖化をさらに悪化させ、深刻な山火事の発生確率を高めているとのこと(*15)。
特に気温上昇により植生が乾燥しやすくなり、燃えやすい状態に陥っている。加えて、降雨が遅れることで乾燥期間が延び、山火事のリスクが一層高まっている(*16)。
予測を上回るスピードで進行する地球温暖化
地球温暖化は、予測を上回るスピードで進行し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書によると、世界の平均気温は産業革命前と比較して既に約1.09℃上昇しており、このままのペースで進めば、1.5℃の閾値を近い将来超える可能性が高いと指摘(*17)。
産業革命以降、化石燃料の大量消費により大気中のCO2濃度は40%以上増加し、現在では400ppmを超える水準に達す。この急激な濃度上昇が地球の気候システムに重大な影響を及ぼし、温暖化をさらに加速させる。
温暖化の影響は単なる気温上昇にとどまらない。特に懸念されるのは、温暖化による影響の不均衡性というもの。
例えば、労働可能時間の減少率はCO2排出量の少ない途上国でより顕著であり、気候変動がもたらす経済的・社会的な不平等を拡大させる可能性がある(*18)。さらに、北極圏では気温上昇の速度が世界平均の約2倍に達しており、地域ごとに異なる影響が現れている。
このような危機的状況に対処するためには、温室効果ガスの削減を目指す「緩和策」と、気候変動の影響に対応する「適応策」を組み合わせた包括的なアプローチが不可欠。具体的には、再生可能エネルギーの普及、森林の保全、耐性のあるインフラの整備、災害リスク管理の強化などが必要とされている。
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【関連】元議員も注目。世界的異常気象の原因は米ロ“気象兵器実験”説の真偽
■引用・参考文献
(*1)「【気象解説】今季最強寒波が襲来…日本海側中心に大雪 危険な雪降らせるJPCZとは」日テレNEWS 2025年1月8日
(*2)日テレNEWS 2025年1月8日
(*3)「“最強寒波”列島直撃 交通機関の乱れも 3連休は都心でも雪の可能性」テレ朝news 2025年1月11日
(*4)「【警戒】世界各地で異常気象 氷点下40℃で中国・黄河に「氷の花」 アメリカ中西部では過去10年で最悪の大雪、非常事態宣言も イギリスでは冬の洪水発生」FNNプライムオンライン 2025年1月8日
(*5)FNNプライムオンライン 2025年1月8日
(*6)FNNプライムオンライン 2025年1月8日
(*7)FNNプライムオンライン 2025年1月8日
(*8)日テレNEWS 2025年1月8日
(*9)田中博・海野友美「北極温暖化増幅と北極振動の関係」筑波大学計算科学研究センター
(*10)「米東部に冬の嵐襲来 十数州で降雪暴風警報出され6000万人影響か」REUTERS 2025年1月6日
(*11)「死者も続出する異常気象、世界で相次ぐ猛烈な熱波・寒波と温暖化の関係」HATCH編集部 2021年11月4日
(*12)「Families in shock begin to visit their charred homes in the Los Angeles area」AP 2025年1月12日
(*13)「Jamie Lee Curtis pledges $1M to relief effort as many, including stars, lose homes in LA fires」AP 2025年1月12日
(*14)「Strong winds pick up, increasing fire danger as firefighters battle LA blazes」npr 2025年1月12日
(*15)「Here’s the role climate change may be playing in deadly SoCal wildfires, experts say」abc 2025年1月12日
(*16)木村正人「灼熱地獄が出現する ロサンゼルスで猛火 気温上昇は産業革命前の1.5度を上回る」Yahoo!ニュース 2025年1月10日
(*17)「24年平均気温、産業革命以前から初の1.5度超上昇=EU機関」REUTERS 2025年1月11日
(*18)地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長 塩竈秀夫社会環境システム研究センター 広域影響・対策モデル研究室 研究員 高倉潤也社会環境システム研究センター 広域影響・対策モデル研究室長 高橋潔地球環境研究センター 副センター長 江守正多「【最近の研究成果】パリ協定の1.5°C目標を達成することで、気候変動の「不公平性」は軽減できる」地球環境研究センターニュース
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年1月12日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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