ステージ4の舌がんを克服した堀ちえみさん(57)の公式ブログのコメント欄に、約1万6000回にわたってメッセージを送信した偽計業務妨害の疑いで、47歳の無職女性が再逮捕された。この女性は先月、公式ブログその他で堀さんを中傷する書き込みをしたとして侮辱と脅迫の疑いで逮捕されていた。容疑者の加害行為が常軌を逸しているのは明らかだが、そこにはどのような心理メカニズムがあるのか。米国在住作家の冷泉彰彦氏が、被害最小化の観点から考察する。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:誹謗中傷問題、加害のメカニズムを考える
常軌を逸したネット上の誹謗中傷、厳罰主義で臨むべきだが
タレントの堀ちえみ氏に対して、公式ブログに大量の誹謗中傷の書き込みを送った女性が逮捕されました。偽計業務妨害の疑いによる再逮捕とのことです。この容疑者は、ネット上で堀さんを中傷する書き込みをしたなどとして、侮辱と脅迫の疑いですでに逮捕されており、これに別の容疑が加わったことになります。
報道によれば、容疑者は堀氏のブログのコメント欄に1万6000件ものメッセージを書き込んだそうです。今回の容疑は、ブログのマネジメントをしている会社に、一般公開するメッセージの選別作業を困難にさせ、その業務を妨害したとのことで逮捕に至っています。誹謗中傷の内容としては、「腐っている」「うそつき」というような言葉を使って、掘氏を中傷していたとされています。
そのような内容で堀氏を侮辱、脅迫した疑いに、常軌を逸した書き込みによりブログという環境を管理する会社の業務を妨害した容疑が加わったわけです。
この種の事件ですが、いくら匿名によるネット環境という仮想空間における書き込みであっても、ターゲットの心を傷つける悪質なものであり、侮辱とか脅迫という罪名ではまったく足りません。その一方で、大量書き込みは選別作業の妨害だという“容疑”のロジックについては、少々ひっかかるものを感じます。
AI時代においては、多少多くのデータでも「選別」の妨害にはならないということが1つ、そして仮に多くの書き込みが犯罪になるのなら、集団での訴えなども主体が絞られたら「炎上させるのも犯罪」になってしまうというのが1つです。突き詰めると、言論空間として開かれているはずのネットの内容を統制できるという話になっていきますから、法律論としては不安定な話だと思います。
そうではあるのですが、もちろん、この種の誹謗中傷は大きな問題です。そして、根絶していかねばなりません。その場合に、厳罰主義による抑止は確かに必要だと思います。何よりも、ネット黎明期に私たちが経験した「書き込みした人間だけでなく、媒体も含めて罰する」という無意味な対応ではなく、しっかりと書き込みした本人を特定して摘発していくことが必要です。
容疑者の心理状態を考えると、必要なのは「治療」かもしれない
その一方で、加害側の心理的メカニズムを考えていくことも大切だと思います。今回の事例ですと、「重い病気と闘いながらも前を向く」という被害者(堀ちえみ氏)の姿勢が、もしかすると加害者の「カンに障った」という可能性があります。
つまり、最悪の状況でも前を向ける「強さ」というものが、ある種の「弱さ」を抱えた人物には、憎悪の対象になってしまうという問題です。
そう考えると、類似のケースは過去にも何点か思い浮かびます。
「高齢ドライバーの起こした事故によって妻子を奪われながら、人格的に振る舞っている家族」
「誹謗中傷されながらも、決して屈しない個性派のインフルエンサー」
「単に作品が成功しているというだけで、嫉まれて執拗な攻撃を受けたマンガ作家」
などには、今回の事件と似た構図を感じます。
つまり、「些細なことでも落ち込んで」しまう「弱さ」を抱えた人は、こうした「強さ」を見せつけられると、まるで経済困窮層が億万長者に抱く違和感に似た「理不尽さ」を感じてしまうという可能性です。
そのような「屈服感」が、ある種の人たちに「攻撃の正当性」を信じさせ、実際に攻撃を繰り返すようになった際にも、罪悪感を感じなくさせるのかもしれません。
難病に苦しみ、自分だったら悲観して極度なうつ状態になりそうなものなのに、この人は「それでも前を向いている」ということは、よほどの悪人か、あるいは“難病”が狂言なのかもしれない。とにかく嫌悪、いや憎悪しか感じない――そんな心理状態です。