ホワイトハウスでの前代未聞の「大喧嘩」となった、トランプ氏とゼレンスキー氏による首脳会談。米ウ交渉は決裂しアメリカはウクライナへのすべての武器供与の一時停止を決定しましたが、この結果は十分予想できたものと人気ブロガーのきっこさんは言います。今回の『きっこのメルマガ』では、トランプ氏がロシアを利する行動に出た背景を解説。さらに同氏を擁護する発言をおこなった石破首相を厳しく批判しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ホワイトハウスの決闘
プーチンに利する行動に出るのは自明の理。決裂は見えていたトランプとゼレンスキーの“ホワイトハウスの決闘”
現地時間2月28日、アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が、ホワイトハウスで首脳会談を行ないました。しかし、トランプ大統領の目的が、ウクライナの鉱物資源レアアースを独り占めするための「鉱物協定の締結」だったのに対して、ゼレンスキー大統領の目的は、あくまでもロシアとの「終戦」とその後の「平和維持」であり、鉱物協定はそのためのカードでした。つまり、協議は最初からボタンが掛け違っていたのです。
トランプ大統領 「鉱物協定はアメリカとウクライナの非常に公正な取り決めであり、これは興奮する瞬間だ。我々はその興奮する瞬間にとても近づいている。その瞬間、銃撃は止まり、和平が約束されるだろう。そして、ウクライナはレアアースの販売で資金を得ることができ、我々はそのレアアースを人工知能や武器などを含め、すべてのことに有効利用できるようになる」
ゼレンスキー大統領 「アメリカは初めから我々の味方であったし、トランプ大統領もそうであると私は信じている。アメリカは今後も我々への支援を続けてくれると信じている。そして、今回の鉱物協定がウクライナの平和と繁栄への道の第一歩となることを希望している」
バンス副大統領 「平和と繁栄への道を作り出すのは外交だ」
ゼレンスキー 「2019年にフランスとドイツの首脳も交えてロシアと停戦で合意したが、プーチンはこれを破ってウクライナへの攻撃を続けた。あなたの言う外交による平和とはどのようなものなのか?」
バンス 「あなたの国が破壊されるのを止めることだ。そのような物言いは失礼だと思わないのか?」
ゼレンスキー 「アメリカも問題を抱えている。EUとの間には海があり、今は分からないかもしれないが、将来、それに気づくだろう」
トランプ 「あなたは自分の立場が分かっているのか?あなたは我々に指図する立場にない。それほど良くない立場にいるのに、さらに最悪の立場へと自らを追い込もうとしている。そもそもあなたは交渉のカードを持っていないじゃないか。だが、我々と一緒にレアアースを採掘すれば、あなたは交渉のカードを手にすることができるのだ」
ゼレンスキー 「私はカード遊びをしに来たわけじゃない!」
トランプ 「いや、遊んでいる。あなたは数百万人の命をかけてギャンブルをしている。あなたは第三次世界大戦をかけてギャンブルをしている。今すぐ鉱物協定に署名して我々の停戦案に乗れば、銃弾が止まってウクライナの人々が殺されることもなくなるのだ」
ゼレンスキー 「戦争は止めたいが、停戦後の安全保障がなければウクライナに平和は訪れないと、私はあなたに言っている」
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公開された「口論動画」を観て誰よりも喜んだプーチン
トランプ 「あなたが取引をするか、我々が手を引くか、この二択だ。我々が手を引けば、ウクライナは最後まで戦い抜かなければならなくなる。それでもいいのか?あなたが我々と取引をすれば、我々は停戦交渉を進めることができるが、そのためには妥協も必要だ。あなたは妥協して、我々の停戦交渉を受け入れなければならない」
ゼレンスキー 「安全保障のない停戦交渉は受け入れることなどできない。2014年、ロシアはウクライナの領土であるクリミア半島に武力侵攻して強制併合したが、プーチンはその時に締結された協定を破り、2022年、またウクライナに侵攻して来た。そして、今もウクライナの国民を殺し続けている。殺人者でテロリストであるプーチンには、安全保障のない停戦合意など通用しない。我々が望んでいるのは恒久平和だ。何よりも重要なのはロシアとの停戦合意後の平和維持であり、EUが進めている平和維持軍配置に関して、どうしてもアメリカの安全保障措置が必要なのだ」
トランプ 「あなたの態度からは、どの国よりもウクライナに多額の支援をして来たアメリカに対する感謝が感じられない。これは非常に無礼なことだ」
バンス 「そうだ!あなたは一度でも我が国の大統領に『ありがとう』と言ったことがあるのか!」
ゼレンスキー 「もちろん、私はこれまで何度も感謝の言葉を言って来た。ところでバンス副大統領、あなたは一度でもウクライナに行ったことがあるのか?我々が直面している問題を自分の目で見たことがあるのか?」
バンス 「ウクライナのことは実際に見た人たちから詳しく聞いている。あなたはホワイトハウスまで来て、ウクライナを救おうとしているアメリカに対してあれこれ注文をつけることが礼儀ある行動だと思っているのか?」
…というわけで、50分にわたった協議は決裂し、トランプ大統領はウクライナ側にホワイトハウスからの退出を命じました。ウクライナ側は抗議し、協議の継続を望む考えを示しましたが、予定されていた共同記者会見は中止になり、ウクライナ側はホワイトハウスを後にしました。
この様子を公開動画で観て、誰よりも喜んだのがロシアのプーチン大統領でした。プーチン大統領の広報紙と言われるロシア国営タス通信を筆頭に、ロシアのメディアの多くが「ゼレンスキーがホワイトハウスでヒステリー」などとボロクソに報じたのです。その一方で、ウクライナの国民はゼレンスキー大統領が自分たちの気持ちを代弁してくれたと大好評で、すべてのメディアが好意的に報じ「アメリカにレアアースを渡すな!」という世論が高まったのです。
さて、この日はもう1件、耳目を集める出来事がありました。記者会見の場で、1人の男性記者がゼレンスキー大統領に対してこんな質問をしたのです。
記者 「あなたは何故、スーツを着てないのか?この国の大統領の執務室にいるのに、どうしてスーツを着てないのか?もしかして、スーツを持ってないのか?」
そして、ニヤニヤとゼレンスキー大統領をあざ笑ったのです。これに対してゼレンスキー大統領は、落ち着いた様子でこう返しました。
ゼレンスキー 「この戦争が終われば私もスーツを着る。おそらくあなたと同等のものか、より上等なもの、あるいはより安いものかもしれないが」
ゼレンスキー大統領は、ロシアによる武力侵攻が始まって以来、公式の場では一貫して暗いカーキ色の軍服スタイルの服装を続けて来ました。この日はウクライナの国章が左胸にプリントされた黒い長袖シャツに黒いズボンという服装で、普段より多少は格式のある服装でしたが、スーツではありませんでした。
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ゼレンスキーの「スーツ未着用」をあざ笑った記者の正体
で、この記者が誰だったのかと言うと、極右放送「リアル・アメリカズ・ボイス」のブライアン・グレン記者(56)、トランプ大統領が「最も好きな記者」として名前をあげたこともある人物でした。これまでは記者会見などに出られませんでしたが、トランプ大統領が就任直後、SNSのインフルエンサーなどにもホワイトハウスの出入りを解放したため、記者会見にも出られるようになったのです。
さて、日本では安倍晋三元首相を崇拝する自民党の高市早苗議員が「女性の着ぐるみを着た安倍晋三」などと呼ばれていますが、アメリカの共和党にも同じような女性議員がいます。共和党下院議員のマージョリー・テイラー・グリーン議員(50)で、過去には極右団体の幹部をつとめていて、数多くの陰謀論を垂れ流していました。そんな残念すぎるグリーン議員ですが、日本の高市早苗議員と同じように、アメリカでは「ハイヒールを履いたトランプ」と呼ばれています。
そのグリーン議員が、今回、ゼレンスキー大統領に無礼な質問をしてあざ笑ったブライアン・グレン記者のガールフレンドだったのです。今回の記者会見でも、グリーン議員は現場にいて、グレン記者が無礼な質問をすると拍手をしていたのです。まるで、日本の衆議院の憲法審査会で、国民民主党の玉木雄一郎代表が改憲派としての意見を述べるたびに、傍聴席から拍手していた愛人のグラビアアイドルみたいですね。
そして、この「ハイヒールを履いたトランプ」ことグリーン議員は、自身のツイッター(現・X)に「ゼレンスキーが我が国の大統領に金を物乞いしに来る時さえスーツを着ないほど無礼だったと指摘したことが非常に誇らしい」と投稿したのです。
でも、この一連の流れの口火を切ったのは、実はトランプ大統領だったのです。ホワイトハウスに到着したゼレンスキー大統領に、まずトランプ大統領が言っセリフが「You’re all dressedup(今日はずいぶんとおしゃれをして来たな)」というジョークに見せかけた皮肉だったからです。そして、このトランプ大統領の言葉を受けて、飼犬のブライアン・グレン記者が無礼な質問をし、「ハイヒールを履いたトランプ」がそれをツイッターで拡散するという、昨年の大統領選挙中に何度も見られたカルト極右の連携プレーです。
そもそもの話、この流れは、トランプ大統領が就任する前から始まっていました。アメリカ大統領選挙の投票日を直前に控えた2024年10月17日のインタビューで、ウクライナの問題について問われたドナルド・トランプ候補は「ゼレンスキーは戦争を始めるべきではなかった。彼はすでに戦争の敗北者だ」の述べ、ロシアの武力侵攻によって始まった戦争をゼレンスキー大統領のせいにしたのです。そして、次のように続けました。
トランプ 「ゼレンスキーは今まで私が見て来た中でトップクラスのセールスマンだ。何しろ彼は手ぶらでアメリカにやって来て、そのたびに1,000憶ドルをむしり取って行く。そして、こんなバカげた戦争を扇動したのがバイデンだ。私が大統領だったらこんな戦争など起こらなかった」
こんな人物が大統領に就任したのですから、ウクライナへのアメリカの政策が大転換するのは目に見えていました。今回の会談の直前にも、トランプ大統領はゼレンスキー大統領のことを「支持率が4%しかないのに選挙も経ずに大統領の座に居座り続ける独裁者」と侮辱しました。そして2日後、会見で記者からこの発言について問われると「え?私はそんなことを言ったのか?」とトボケました。デマを垂れ流し、後はトボケる。いつものパターンです。
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必死に中立をアピールしつつトランプを擁護した石破首相
もともとプーチン大統領と仲が良かったトランプ大統領は、1期目の後半になって新型コロナが世界的に流行した際、ウイルスの検査キットが手に入らずに困っていたプーチン大統領に、秘密裡に政府の検査キットを送っていたのです。そして大統領退任後も、少なくとも7回はプーチン大統領と個人的に電話しており、2024年の大統領選挙での水面下での協力も要請していました。そして大統領に返り咲いたのですから、プーチン大統領に利する行動に出るのは自明の理だったのです。
今回、ゼレンスキー大統領との協議が決裂したトランプ大統領は、「安全保障のない停戦交渉には応じられない」というゼレンスキー大統領の主張を「ゼレンスキーは和平を望んでいない」と捻じ曲げて批判しました。ネトウヨの伝統芸ですね。そして「ゼレンスキーに和平への準備ができるまで」、つまり「ゼレンスキー大統領が安全保障なき停戦交渉に応じるまで」という期限を設けて、ウクライナへのすべての武器供与の停止を命じました。ある意味、兵糧攻めですね。
…そんなわけで、すべてが予想通りに展開して行くトランプ大統領によるウクライナへの対応ですが、無理やりに良かった点を探し出すとすれば、今回のトランプ大統領の傍若無人な振る舞いによって、これまでバラバラだったEU各国が、イギリスやフランスを中心にまとまり始めたことです。もちろん、イタリアのように極右が政権を牛耳ってしまった国は足並みがそろいませんが、それでも3月2日にゼレンスキー大統領を迎えてロンドンで開かれた首脳会合では、EUを中心に15カ国の首脳が集まり、ウクライナへの軍事支援の強化やロシアへの経済制裁の継続などで一致しました。
それなのに、嗚呼それなのに、それなのに…、日本の石破茂首相は3月3日の衆院予算委員会で、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の協議の決裂について問われると、こともあろうに、次のようにトランプ大統領を擁護したのです。
石破首相 「トランプ大統領にはトランプ大統領なりの思いがあって、アメリカがどこまで負担すべきなのか、アメリカの納税者たちのために、アメリカ大統領としてどうすべきなのかという考えはあったんだろうと思います。ウクライナの側から、本当にそれに相応しい思いが提供されていなかったという思いが、少なくともトランプ大統領にあったのだろうと思います」
そして、最後に必死に中立をアピールしつつ、何とか丸く収めました。
石破首相 「私どもとしましては、どっちの側に立つとか、そういうようなつもりは全くございませんが、とにかくG7が結束していくことが何より大事であるし、アメリカの関与なくして本当にこれ(戦争)は終わるのかということです。いかにしてアメリカの関与をつなぎ止めるか、そしてG7全体の結束をどう図るかということに、日本としてさらに尽力していきたいと思います」
ダメだこりゃ!
(『きっこのメルマガ』2025年3月5日号より一部抜粋・文中敬称略)
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image by: The White House – YouTube