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中島聡が大胆予測、「コードが書けるAI」で「SIerの中抜き」が意外な進化を遂げる理由…ムダすぎて草?

日本の大手SIer(System Integrator)いわゆるITゼネコンの開発工程は、「上流」の設計と「下流」のコーディングに分離されている。このスタイルは「もうさァッ 無理だよ 自分でコード書かないんだからさァッ」的な悲劇をしばしば起こしてきた。では、そんな現場に「コードが書けるAI」を投入したら何が起こるだろうか?著名エンジニアの中島聡氏が興味深い予測をしている。(メルマガ『週刊 Life is beautiful』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

日本のITゼネコン(SIer)は、AIでどう“進化”する?

私は以前から、日本のゼネコンスタイルのソフトウェア開発(ITゼネコン)を批判してきましたが、「コードが書けるAI」の誕生により、このビジネススタイルや、そこで働く人たちにどんなインパクトがあるのか?という質問が複数寄せられているので、ここで考えてみたいと思います。

ITゼネコンの特徴は、設計とコーディングが分かれていることです。顧客に近い「上流」にいる人たちが「要求仕様」を作り、そこをベースに「設計・詳細設計」が作られた上で、「下流」にいる下請け・孫請けに渡されてコーディング(プログラミング)が行われる「ウォーターフォール型」で開発が行われます。

最近になって「アジャイル」と呼ばれる、より小さなサイクルで回す手法が導入されていますが、設計とコーディングが分断されていることには変わりがありません。

普通に考えると、「コードが書けるAI」は、下請け・孫請けで渡された仕様書通りのコーディングをしている人たちを置き換えることが可能です。特に日本の場合、末端でコーディングをしている人たちの多くは、大学でコンピュータ・サイエンスを学んだことがない人たちなので、コーディングのスキルに関しては、AIの方が高いケースが多いと思います。

では、下請け・孫請けでコーディングを完全に排除できるかというと、そう簡単ではありません。AIは、コードが書けるようになったとはいえ、まだ、人の手をまったく介さずに大規模なソフトウェアを開発することは不可能だからです。

本来であれば、上流で仕様書や設計図を書いている人たちが、直接AIに指示を出し、AIが書いたコードを確認しながら開発を進めることができれば最も効率が良いのですが、日本のITゼネコンの上流で働く人たちは、ほとんどコーディングの経験を持たないため、それができず、結局、その部分も下請けに頼らざるを得ないと考えて良いと思います。

「上流の仕様書通りにコードを書くようAIに指示を出す」仕事が生まれる

つまり、本来なら不要である「上流から降りてきた仕様書通りにコードを書くようにAIに指示を出す人」が必要になってしまうのです。

とても無駄な話ですが、そもそもが「人月工数」で稼ぐ日本のITゼネコンにとっては、工数がかかった方が売り上げが上がるため、効率の良い開発手法を取り入れるインセンティブも低いのです。

ちなみに、設計とコーディングが分断されているゆえに、通常のソフトウェア開発における「コーディングをしながら必要に応じて設計を徐々に改良していく」という正しいフィードバックに関しては、AIコーダーを使ったところで、あまり期待できないと思います。

仕様書が綿密に記述されていればいるほど、その通りに実直にコードを生成するのがAIです。

最終的には、コードが書けない人間は排除されていく

随分とだらしない話ですが、これは別の見方をすれば、自分自身でコードが書け、かつ、「コードが書けるAI」を使いこなして、自分の生産性を大きく引き上げることができるエンジニアにとっては、良いチャンスだとも言えます。

高い価値を生み出している人が報われるのが世の中の常なので、最終的には、コードの書けない人たちは排除されて、高い生産性を持つエンジニアに直接仕事がくる時代が到来すると期待できるからです。

AI時代は「使い捨てのソフトウェア」「書き捨てのコード」がより重要となる

「コードが書けるAI」の誕生により、ソフトウェア・エンジニアの仕事がなくなってしまうと心配する声がある中、次にご紹介するのは、アセンブラからコンパイラ、コンパイラからインタープリタへのプログラミング環境が変わったのと同じで、単に「プログラミングとは何か」が大きく変化しているだけで、ソフトウェア・エンジニアは必要だ、とする興味深い記事です。

この筆者の主張に同意できる面も多々あります。AIはすでに実用的なコードを生成できますが、それを実際に役にたつソフトウェアに仕上げるには、ソフトウェア・エンジニアが不可欠です。

AIが生成するコードは、最初の70%の完成度しかなく、残りの30%は人間の手が必要だ、というものです。

しかし私は、筆者はAIが可能にしつつある重要なイノベーションを見逃しているように感じます。それは「使い捨てソフトウェア」の台頭です。

従来型のソフトウェアは、OSやアプリのように時間をかけて開発し、それを多くの人たちが何度も走らせます。それゆえ、コードの品質は重要だし、変更・保守のしやすさもとても重要で、筆者が指摘する「残りの30%」がとても重要です。

しかし、「コードが書けるAI」の誕生により、完成度は70%とはいえ、コードの生成コストが限りなくゼロに近づきつつある今、コードは完成度・保守性の高いものを何度も使う時代から、必要に応じてその場で生成し、実行後は破棄してしまう「使い捨てソフトウェア」へと大きなパラダイム・シフトを起こそうとしていると私は感じているのです。

「ソフトウェアのありかた」そのものが一変する

分かりやすい例は、すでにデータ・サイエンティストたちが行なっているデータ解析です。彼らは、データの形状・ニーズに応じて、その場で必要なコードを書いて実行しますが、ここでの最終成果物はコードではなく、データ解析の結果そのものなのです。

その意味では、AIが(使い捨てのコードを書いてきた)データ・サイエンティストよりも良い仕事を瞬時に、かつ、ゼロ限りなく近いコストで行なってしまう時代(=AIがデータ・サイエンティストの職を奪ってしまう)はすでに来つつあると言えます。

そして、さらに、これまで、コストゆえに活用できなかった分野に「使い捨てのコード」を活用することにより、ソフトウェアのありかたそのものに大きなパラダイムシフトが起こっても不思議はないと感じています。

抽象的なことばかり語っていても、何を言っているのか理解してもらえないと思うので、実際に何らかのプロトタイプを作ってみようと考えているので、少々お待ちください。

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(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年3月4日号を一部抜粋・再構成したものです。この続きはメルマガをご購読のうえお楽しみください。初月無料です ※メルマガ全体約2.2万字)

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