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大谷、由伸、朗希まで獲得。なぜ金満球団ドジャースと「トランプ2.0」がメジャーリーグの魅力を低下させるのか?

大谷翔平や山本由伸をはじめとする圧倒的な戦力で、2024年のワールドシリーズを制したロサンゼルス・ドジャース。今季は佐々木朗希も加わり連覇が期待される同球団ですが、彼らと「トランプ2.0」がメジャーリーグの魅力を低下させるとの懸念もあるようです。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東森さんが、その理由を解説。さらに注目を集めている「魚雷バット」がメジャーにもたらす功罪を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ2.0とメジャーリーグ2.0が交錯する不吉な未来 トランプ政権の市場原理主義が米スポーツの均衡モデルを壊しかねない メジャーリーグに忍び寄る格差拡大と魚雷バットの衝撃

メジャーリーグに忍び寄る格差拡大。リーグの魅力を削ぎかねないドジャースとトランプ2.0

2025年のメジャーリーグが開幕し、日本国内でも大谷翔平や佐々木朗希といった選手たちの活躍が連日話題をさらっている。その一方で、アメリカ本土では野球人気の低迷が続いている。この問題が、トランプ第2次政権下で進められる改革、とくに規制緩和の波により再注目される可能性がある。

もともとMLBをはじめとするアメリカの主要スポーツリーグは、サラリーキャップや収益分配制度を通じて、戦力の均衡を重視してきた。こうした「均衡モデル」は、アメリカ社会の自由市場経済の暴走に対するブレーキという側面が、スポーツ界にも導入されたものだ。しかしその思想は、トランプ2.0の施策と相いれない。

一方、現在、MLBで注目を集めているのが「魚雷バット」だ。この新型バットは飛距離を劇的に伸ばし、打撃戦を演出するが、その分、ゲームバランスを壊しかねないという懸念もある。だがこの議論は、単なる道具の問題にとどまらず、「野球における面白さとは何か?」という本質的な問いにもつながっている。

実際、第32代アメリカ大統領フランクリン・ルーズヴェルトはかつて「最も面白い試合は8対7のスコアだ」と語っていたという俗説も。この言葉をもとに、接戦かつ打撃戦で決着する試合は「ルーズヴェルトゲーム」と呼ばれるようになったという(*1)。

いまこそ野球、そしてスポーツの本質が問われている。

ルーズヴェルトゲームとは?

  • アメリカ第32代大統領フランクリン・ルーズベルトが「野球で一番面白いスコアは8対7だ」と述べたという俗説がある
  • 池井戸潤が、企業再生と社会人野球をテーマ『ルーズヴェルト・ゲーム』というタイトルで、2012年に単行本が刊行。2014年にはTBSでドラマ化される

記事のポイント

  • 米スポーツリーグ、とくにMLBでは「戦力均衡」の伝統的仕組みが揺らいでいる。そこにトランプ政権の市場原理主義が追い打ちをかける可能性が
  • MLBでは新型「魚雷バット」により打撃戦が加速する可能性が。野球の面白さの再定義が必要だ
  • 観客を惹きつける「ルーズベルトゲーム」のような試合展開が、今後のMLB改革の鍵となる可能性が

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米スポーツリーグの設計思想に生きる「金ピカ時代」の教訓

アメリカのスポーツリーグ、特にNFL、NBA、MLB、NHLといった米4大スポーツリーグでは、戦力の均衡を重視する独自の運営方式が採られている。これらのリーグは、欧州サッカーリーグのような昇格・降格制度を持たず、「クローズドリーグ」と呼ばれる閉じた構造をもつ。

戦力均衡を実現するため、アメリカのスポーツリーグではさまざまな制度が導入されている。代表的なものには、サラリーキャップ(選手給与総額の上限)、収益分配制度(レベニューシェアリング)、ドラフト制度などだ。こうした制度により、小規模な市場のチームでも一定の競争力を維持できる環境が整えられている(*2)。

この「社会主義的」とも評される仕組みは、一見すると資本主義を体現するアメリカ社会とは矛盾するように映る。しかし、実はこの構造こそが、アメリカの産業社会における歴史的な教訓を反映したものだと言える。

19世紀末から20世紀初頭の「金ピカ時代(Gilded Age)」には、大企業による独占や富の集中が進み、深刻な社会的不平等が問題となった。その反省から、スポーツ界においては「弱肉強食」ではなく「共存共栄」を志向する理念が形成されたとも指摘される(*3)。

戦力均衡は単なる理想論ではなく、スポーツビジネスとしても重要な要素だ。

米国の4大スポーツ(NFL、NBA、MLB、NHL)と欧州サッカーとのリーグ構造の違い 「クローズドリーグ」と「オープンリーグ」の観点から

クローズドリーグ(米国4大スポーツ)

  • 定義
    チームの数や所属は固定されており、成績による昇降格が存在しないリーグ形式
  • 特徴
    フランチャイズ制:各チームはリーグ内での参加権を持つ「フランチャイズ」として運営され、チームは売買可能
    ドラフト制度:新人選手を公平に分配するため、成績下位チームが上位指名権を得るドラフト制度を採用
    収益共有:チーム間で収益を分配し、財政的安定を維持
    拡張と移転:新規チームの参加や既存チームの移転はリーグの承認が必要
  • メリット
    財政的安定性が高く、長期的な投資が可能
    成績に関係なくリーグ参加が保証されるため、リスクが少ない
  • デメリット
    昇降格がないため競争性が低下する可能性
    下位チームの成績向上へのインセンティブが弱い場合もある

オープンリーグ(欧州サッカー)

  • 定義
    成績によって昇格や降格が行われるリーグ形式。チームはパフォーマンスに応じて異なる階層間を移動する
  • 特徴
    昇格と降格:上位チームは上位リーグへ昇格し、下位チームは下位リーグへ降格する制度を採用
    新規参入の柔軟性:新しいクラブが下部リーグからトップリーグへ進出する可能性あり
    競争の激化:成績向上への強いインセンティブが存在する
  • メリット
    リーグ全体における競争性の向上
    下部リーグにも注目が集まり、クラブや選手の発展を促進
  • デメリット
    財政的リスクが高く、降格による収益減少やクラブ存続への影響が大きい場合あり

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MLBを揺るがすドジャースの「資金力野球」とトランプ2.0

アメリカのスポーツリーグにおける「戦力の均衡」が崩れ始めている。その象徴が、ロサンゼルス・ドジャースのような「金満球団」の圧倒的な戦力だ。特にメジャーリーグベースボール(MLB)にはサラリーキャップ制度が存在せず、資金力の差がそのままチーム力に直結する構造となっている。この状況は、競争の公平性を損ない、リーグ全体の魅力を低下させる可能性をはらんでいる。

こうした中、2025年に発足した第2次トランプ政権による規制緩和の動きが、この“格差拡大”をさらに加速させる可能性もある。政権は、金融分野ではバーゼルIIIの最終化規制や暗号資産に対する規制の緩和が進められており、この「市場原理重視」の姿勢は、スポーツビジネスにも波及しかねない。

実際、ドジャースはその豊富な資金力を背景に、大谷翔平や山本由伸、さらには佐々木朗希といった選手を次々と獲得。他球団とは一線を画す巨額の年俸総額で、戦力の格差を広げている。これは、MLBが長年にわたって維持してきた「勢力均衡」のモデルを根本から揺るがすものだ。

米スポーツリーグはこれまで、収益分配制度やドラフト制度を通じて「誰もが勝てる可能性のあるリーグ」を目指してきた。だが、トランプ政権下で進む富裕層・大企業優遇の政策は、こうした均衡のメカニズムと、トランプ第2次政権の思想とは相いれないのだ。

ドジャースの資金力(2025年)

  • 総支出:調整後の総支出は約5億ドル(約548億円)で、選手給与、福利厚生、ラグジュアリー税を含む
  • 年俸総額:3億3,052万ドル(約331億円)で、MLB全体で最高額
  • ラグジュアリー税:1億4,960万ドル(約150億円)を支払い、税負担額もリーグ最高
  • ドジャースの収益源
    リーグ最高の観客動員数と8.35億ドルの長期テレビ契約が主な収益源
    大谷翔平の契約(10年7億ドル)の効果で広告収入やスポンサーシップが増加

他球団との比較

  • ニューヨーク・メッツ
    年俸総額は3億2,198万ドル(約322億円)でドジャースに次ぐ2位
    メッツも高額契約を多数抱え、競争力のある資金力を持つ
  • ィラデルフィア・フィリーズ
    年俸総額は2億8,323万ドル(約283億円)で3位
  • ニューヨーク・ヤンキース
    年俸総額は2億8,922万ドル(約289億円)で4位。伝統的に高い資金力を維持

ドジャースのMLBチーム平均との比較

  • MLB全体の平均年俸総額は1億6,962万ドル(約170億円)。ドジャースはこのほぼ2倍を支出している

特徴的なポイント

  • 選手獲得戦略:ドジャースは大谷翔平や山本由伸などのスター選手獲得に巨額を投じており、他球団と比較しても積極的な補強姿勢が目立つ。
    財政的優位性: ドジャースは観客動員数やメディア収益において他球団を圧倒しており、財政基盤が非常に安定している
  • 競争バランスへの影響:MLB内では「ドジャースが財政面で他球団を圧倒している」と批判的な声もある一方、「リーグ全体の収益向上に貢献している」と評価する意見もある

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魚雷バットの衝撃。「新型兵器」は打撃革命を起こすか

一方、最近、メジャーリーグでは「魚雷バット(トルピード・バット)」が注目を集めている。このバットは従来のものと異なり、スイートスポット(最も効果的にボールを打てる部分)が拡大されており、打者がより確実にボールを捉えることができる設計となっている(*4)。

「魚雷バット」を開発したのはアーロン・リーンハート氏で、昨年までニューヨーク・ヤンキースのアナリストを務めていたが、今季からはマイアミ・マーリンズに移籍し、「フィールド・コーディネーター」という肩書で活動している(*5)。

新型バットを巡っては、アメリカ国内でも賛否が分かれている。しかし、野球はもともと打撃戦を中心に発展してきたスポーツでもある。その象徴的な例が「ルーズベルトゲーム」という言葉だ。これは、フランクリン・ルーズベルト米大統領が「最も面白い野球の試合は8対7だ」と語ったという俗説に由来している(*6)。

このスコアが象徴するのは、接戦でありながら点の取り合いが続く試合展開だ。逆転や再逆転が繰り返されるシーソーゲームは、観客に緊張感と興奮を与え、最後まで勝敗が読めないため、エンターテインメント性が非常に高い。日米ともに「投高打低」の傾向が続くなか、魚雷バットは、そんな流れに一石を投じる存在になるかもしれない。

魚雷バット(トルピードバット)

  • 特徴的な形状
    芯の部分が太く、先端に向かって細くなる形状
    ボウリングのピンや魚雷に似たデザイン
    従来のバットとは異なり、スイートスポット(最も打球が飛びやすい部分)に質量を集中させている
  • 開発背景
    開発者:ヤンキースの分析官アーロン・リーンハートが選手の打撃データを基に設計
    目的:打球速度と飛距離を向上させるため、スイートスポットでの打撃効率を最大化する設計
  • 利点
    打球が「飛ぶ」感覚があり、ホームランや長打を量産できる可能性が高い
    ヘッドが軽く、振り抜きやすい設計
    詰まり気味の打撃にも対応しやすい
  • 使用状況
    MLBではヤンキースをはじめとする複数の選手が使用し、開幕戦で大量本塁打を記録
    日本プロ野球でも試験的に使用され始め、日本ハムなどで注目されている
  • 規則と普及
    MLBでは規定内で合法とされており、長さや太さは許容範囲内
    日本プロ野球(NPB)では2025年4月11日から使用解禁
  • 課題
    従来のバットと比べて形状が特殊なため、選手によっては慣れが必要
    一部では「道具頼み」の傾向を懸念する声もある

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引用・参考文献

(*1)「【野球】ルーズヴェルトゲームとはどういう意味?8対7のスコアで決着する試合のことです」野球をもっと知るブログ 2025年2月23日

(*2)「NFL経営の特徴とは?成功に導く戦略・戦術について解説!」HALF TIME 2021年2月6日

(*3)鈴木透『スポーツ国家アメリカ──民主主義と巨大ビジネスのはざまで』中公新書 2018年

(*4)「Why the New ‘Torpedo Bat’ Is Hitting It out of the Park」Scientific American 2025年4月2日

(*5)「Brains behind Yankees’ controversial torpedo bats reveals “eureka moment” for his revolutionary creation」sportskeeda 2025年4月2日

(*6)「【野球】ルーズヴェルトゲームとはどういう意味?8対7のスコアで決着する試合のことです」野球をもっと知るブログ 2025年2月23日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年4月13日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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image by: Conor P. Fitzgerald / Shutterstock.com

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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