ドジャースの大谷翔平選手は「50-50」を驚きの1試合6安打3本塁打2盗塁で軽々と達成。その後も好調を維持して、9月25日時点で記録を「53-55」にまで伸ばしています。大谷選手にプレッシャーは無縁なのかと思ってしまいますが、「適度な緊張(=プレッシャー)下でこそ真の力が発揮できる」と語るのは、健康社会学者の河合薫さんです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、心理学で「フロー」と言われる「ゾーン」に関する研究を紹介。訓練次第では誰もが緊張を糧に力を引き出すことができるようになると、「ゾーン」に入る条件を伝えています。
ゾーン、入ってますか?
大谷翔平選手が、敵地マイアミでのマーリンズ戦で、6打数6安打、10打点、3本塁打、2盗塁をマークして前人未到の「51-51」を達成し、日本だけでなくアメリカもそれはそれは大騒ぎでした。翌日のロッキーズ戦でも暴れまくり、23日(日本時間)には、4-5の9回で同点の53号ソロを放ち、6-5の逆転サヨナラ勝ちに貢献。2盗塁で今季55盗塁に到達しました。
ロバーツ監督は「彼は人間とは思えない。ショウヘイのように、これほどまでゾーンに入っているプレーヤーを私は本当に見たことがない」とコメントするなど、「ゾーン」という言葉が久々に注目を集めています。そこで今回は「ゾーン」をテーマにあれこれお話しします。
ゾーンは、心理学者のチクセントミハイが使った言葉ですが、同じ意味を持つフローの方が心理学では一般的です。そもそもこれらは「プレッシャー」に関する研究の中で見出された心理状態で、究極の没入状態を意味しています。
かなり古くからプレッシャーは研究されているのですが、かつては「プレッシャー=悪」と捉えられていました。それに意を唱えたのが、米国の心理学者のロバート・ヤーキースとJ.D.ドットソン博士です。博士らは、プレッシャーの正体を突き止めるために、ねずみを用いた実験を行い、適度な緊張(=プレッシャー)が、実力を発揮するには欠かせないことを発見します。
実験では、まず最初に、ネズミに黒と白の目印を区別するように訓練を行いました。ネズミが区別を間違えると電気ショックを流し、学習を促したのです。電気ショックの程度は強弱を変えて設定し、これを“プレッシャーの強さ”に置き換えます。その結果、電気ショックの程度が強まるにつれて、ネズミの正答率が上昇し、プレッシャーが強まれば強まるほど、パフォーマンスが上がったのです。
ところが、実験を繰り返しているうちに、ある一定の強さを上回ると正答率が低下することを発見します。プレッシャーが強まれば強まるほど、今度はパフォーマンスが低下したのです。つまり、プレッシャーとパフォーマンスの関係は、逆U字型の関数グラフとなり、電気ショックの程度が適度な時に、ねずみは最も早く区別を学習し、逆に電気ショックが弱すぎたり強すぎたりすると、学習に支障が出ることがわかり、博士らは、『ヤーキース・ドットソンの法則』と名付けました。
パフォーマンスを最高水準に引き上げるにはプレッシャーが必要で、プレッシャーのないリラックスした状態では真の力は発揮されないと、世界に訴えたんです。
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