米大統領選の「分断」と重なったMLB熱狂的ファンの愚行。自由と寛容は「相手の邪魔をしない倫理観」の上にこそ成り立つ

National,Harbor,,Md,,Usa-,February,24,,2024:,Donald,Trump,Speaks
 

世界中から注目が集まった米大統領選は、接戦の末ドナルド・トランプ元大統領による「勝利宣言」であっけなく幕を閉じました。しかし、互いの候補を罵り合うことに始終した大統領選の爪痕は大きく、今後この「分断」した国をどのようにしてまとめてくのか、その手腕が問われることになります。障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長で、生きづらさを抱える人たちの支援に取り組むジャーナリストの引地達也さんは、自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の中で、学生時代に訪れた米国の西海岸ロスと東海岸ニューヨークの思い出を振り返りながら、米大リーグのワールドシリーズ第4戦で起きた「騒動」と、今回の米大統領選で可視化された「分断」が重なって見えた思いを綴っています。

野球がつなぐ東西の米国、それは「分断」ではなく。

2024年の米大リーグのワールドシリーズはニューヨーク・ヤンキースとロサンゼルス・ドジャースのカードとなり、伝統的なチームによる争いは、東西の2つの都市と文化を味わう絶好の機会だった。

米国に住んだことのない私にとって、その2つの世界は未だにアメリカの多様性の象徴であり、憧れの存在のままでいる。

ヤンキースタジアムでは濃紺の帽子の地鳴りのような歓声とブーイングが都会の空にこだまし、ドジャースタジアムでは教会のパイプオルガンが奏でるような幕間のメロディーが、郊外の乾いた空に響く。

その風景に酔いしれながら、大統領選挙を通じた政治勢力と市民の分断が、多様性の否定と度を過ぎた罵り合いへと行き着いたことを思うと、今後、米国をどう好きになっていけばよいか、ため息が出てしまう。

そんな思いの人は、米大統領選挙に投票権のない国外には少なくないと思う。

「ほら、あれがドジャースタジアムだ」。

それは私が高校3年の時、初めて訪れた米国でホームステイファミリーの父親がオープンカーを運転しながら、ロスアンゼルス郊外のハイウエーから遠くに見えるスタジアムを指さした。

ドイツ系米国人の彼はいかにも米国の多様性と白人男性の強さを一手に引き受けたような風貌で、私にはテレビの世界名作劇場「ふしぎな島のフローネ」の父親であるスイス人医師を思い出させた。

ドジャースタジアムを誇らしげに指さす父親に、私はとっさに「あそこにハーシュハイザ─がいますか?」と返答した。

すると父親は大笑いし「今日はゲームがないよ」と返し、日本人の高校生が当時のドジャースのエースの名前を知っていることに驚き、そして感動したようで、助手席の母親も「賢い子ね」などと、感心した様子だった。

それは、ハリウッド俳優の名前を知っているよりもとても重要なことだったのだと思う。

そして、大学1年生の2月に訪れたのは、ニューヨークだった。

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