米大統領選の「分断」と重なったMLB熱狂的ファンの愚行。自由と寛容は「相手の邪魔をしない倫理観」の上にこそ成り立つ

 

西海岸を見た私にとって、東海岸を見るのは必須であり、アルバイトで稼いだお金をニューヨーク行きに注ぎ込んだ。

街を歩きたい、ジャズを聴きたい、スタジアムを見たい。

到着して早々、地下鉄に乗って訪れたヤンキースタジアムは、そこにいきなりそびえっている印象だった。

近くのコーヒースタンドで買った1ドルのコーヒーが体に染み渡る。

どんよりとした雲の下、湿っぽく、そして凍てつく冬の日だった。

当時はボブ・グリーンの作品に米国を知った気になっていて、なぜか街に行き交う人が、それぞれ何か奇抜な人生のストーリーを持っているのではないかと妄想してしまう。

ちょうどポール・オースターのニューヨーク三部作が日本に紹介された頃で、都市に根差す野球ファンの息遣いを想像し、ヤンキースファンとやらを探してみる。

残念ながら、球場周辺をうろついても、その日はあまりに寒く、ロスアンゼルスが真夏だったのとは対照的にスタジアムは凍てついたままだった。

今年のワールドシリーズではドジャースが勝利した。

ポストシーズンは思わぬ力が発揮されるところが面白い。

劇的な勝利や痛恨のミス、真剣勝負だからこそのドラマ。

今回は第4戦のヤンキースタジアムでライトのファウルフライをドジャースのライト、ベッツ選手の超美技にドラマがあった。ベッツ選手が観客席にグラブを差し出しキャッチする完璧なファインプレーを見せたが、直後にヤンキースファンの観客がベッツ選手のグラブを押さえつけ、グラブからボールを抜き出そうとした。

このシーンは世界中に放送され、ヤンキースファンのイメージを傷つけてしまっただろう。

同時に熱狂的なファンが時には凶暴な行動をしてしまう現実も晒してしまい、それが大統領選の分断と重なってみえる。

野球というルールを守り、プレーヤーのパフォーマンスを邪魔しない倫理観が私たち、観客たちの社会をつなぐ生命線。

その倫理観の上に成り立つはずの自由と寛容。

あらためて、自由と寛容の精神でつながっていたいとの思いを強くする。

平和な気持ちで来年もワールドシリーズが観られるように。

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image by: Jonah Elkowitz / shutterstock.com

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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