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1千匹超をヘリから射殺。豪州“コアラの安楽死”はプーチンによるウ国民“虐殺”とどう違うというのか?

オーストラリアのビクトリア州で起きた山火事をめぐり、生き残ったコアラ約1,100頭を「安楽死」させた州当局。しかしヘリコプターから射殺というその手法に対して、各所から批判の声が上がっていると報じられています。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、ビクトリア州当局の説明等を含めなぜそのような措置が取られたのかについて詳しく解説。さらに「安楽死問題」を深く掘り下げ考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:殺処分と安楽死の間で

オーストラリアでコアラ1,100匹をヘリから射殺。殺処分と安楽死の間で

地球温暖化の影響なのか、アメリカや日本を始め世界各国で大規模な山火事が頻発していますが、今年3月上旬から4月にかけて、オーストラリア南東部ビクトリア州のブジビム国立公園でも山火事が発生し、約2,200ヘクタールが焼失しました。焼失面積としては東京の品川区と同じくらいですが、ユーカリの森があるエリアだったため、数多くの野生のコアラが犠牲になりました。

そして、生き残ったコアラも、重度のやけどを負ってしまった個体だけでなく、エサのユーカリが焼失したために生き延びることが困難と判断された個体は「不要な苦痛を和らげるための安楽死」という理由で、州当局が上空のヘリコプターから射殺したのです。当初は「約700匹」と報じられていましたが、最終的には「約1,100匹」のコアラが射殺されました。

これに対して、複数の動物保護団体から「決定過程が不透明であまりにも残酷だ」「上空のヘリからではコアラ1匹1匹の状態を正確に確認できない」「安楽死という説明の正当性に深刻な懸念がある」など、批判の声が挙がりました。

報じられた内容だけから判断すると、あたしも残酷だと思いましたし、百歩ゆずって「重度のやけどを負ってしまって助かる可能性のない個体」はともかく、身体は無事だったのに「ユーカリ不足」を理由に射殺されたコアラたちは気の毒だと思いました。

何とか助ける方法はなかったのでしょうか?さらに言えば、この「ヘリから射殺」という方法が、果たして「安楽死」と呼べるのか?…とも思いました。客観的に見れば、プーチンやネタニヤフなどの殺人鬼と、やっていることは同じだからです。

しかし、州当局の説明では「現場は険しい山岳地帯のため、徒歩での移動は困難で、ヘリの使用は仕方なかった」とのこと。現実問題として、品川区と同じ面積の森を徒歩で捜索して、無事だったコアラを1匹ずつ救出するなんて、たとえ平地でも難しいでしょう。それが険しい山岳地帯なのですから、決められた人数で、なるべく早急に対応しなくてはならないとすれば、ヘリの使用はやむを得ないと判断したのでしょう。

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史上7頭目となる牝馬三冠を達成した名馬の安楽死も

さて、「安楽死」と言えば、4月27日に香港で行なわれたG1「クイーンエリザベス2世カップ」で、日本から参加したリバティアイランドが、競走中に左前脚を故障し、予後不良と診断されて安楽死となってしまいました。史上7頭目となる牝馬三冠を達成した名牝の安楽死に、多くの競馬ファンはショックを受け、悲しみました。

このレースには、タスティエーラとプログノーシスも日本から参加していて、この2頭が日本馬ワンツーを決めてくれました。あたしは仕事でリアルタイムでは観ていなかったので、帰宅してから買っていた馬券の結果だけを見て、能天気なツイートをしてしまいました。そして、その後、レース映像を観て、リバティアイランドの安楽死を知り、とてもショックを受けてツイートし直しました。


きっこ @kikko_no_blog
シャティン8R「クイーンエリザベス2世カップ」、日本から参加した2番人気のタスティエーラと4番人気のプログノーシスが日本馬ワンツーを決めてくれました!もちろん馬券は馬単的中♪
午後6:17 2025年4月27日

https://x.com/kikko_no_blog/status/1916421396730970135


きっこ @kikko_no_blog
今日の香港「クイーンエリザベス2世C」、あたしはタスティエーラとプログノーシスの日本馬ワンツーの馬単が的中して喜んでましたが、最後の直線で故障を発生して競走中止となったリバティアイランドが予後不良で安楽死となったと今知りました。とてもショックです。今夜はもうツイートをやめます。
午後10:34 2025年4月27日

https://x.com/kikko_no_blog/status/1916486166196703243

競走馬は脚に故障が出て予後不良と診断されてしまうと、もう救う術がないため、少しでも苦しませないように安楽死させることになっています。本当に可哀そうだし悲しいことですが、これは現代の医学ではどうしようもないことなので、馬を少しでも苦しめないようにするためには、これしか方法がないのです。

オーストラリアの山火事で大やけどを負ったコアラと同じく、激しい痛みに苦しみながら死を待つだけの動物を、その苦しみから解放するために人間が手を下して命を終わらせる。オーストラリアの「ヘリから射殺」という方法には異議がありますが、方向性としては同じ「安楽死」です。競走馬の場合は、睡眠薬で眠らせている間に、できるだけ苦しまない薬物で命を終わらせますので、激痛に苦しみながら自然死を待つより人道的だと判断されています。

しかし、こうした安楽死とまったく違うのが、鳥インフルエンザに感染したニワトリを何万羽も殺処分する場合や、豚コレラに感染したブタを何千頭も殺処分する場合なのです。たとえば、今年2月、群馬県前橋市の養豚場で豚コレラが発生し、養豚場では約8,000頭のブタを殺処分しましたが、死体を埋めた場所から大量の血液が周辺の河川に流れ出て、前橋市内の利根川や広瀬川などが真っ赤に染まったと報じられました。

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日本人の「思いやり」の精神はどこへ行ってしまったのか

もともとが人間の食べ物として「生産」されている家畜ですから、このような扱いをするのも分かりますが、あたしには、ウシやブタやニワトリは食べ物で、イヌやネコやウマは生き物、という区分けが理解できないのです。ウマに関しては地域によっては日本でも「食べ物」として生産されていますし、今でもイヌやネコを食べている国もあります。この日本でも、イヌやネコを食べていた時代がありました。

あたしはネコが大好きなので、若い頃からイヌやネコの殺処分をゼロにするためのボランティア活動を30年以上も続けて来ました。そして「イヌやネコは生き物だから殺したら可哀そうだが、ウシやブタは食べ物なので殺しても構わない」という理屈がどうしても理解できなかったため、30年ほど前に、ウシやブタやニワトリなどの肉や、こうした動物由来の食品を食べることをやめました。

これは、あたしの中で筋を通しているだけのことで、誰にも強要しませんし、ウシやブタを食べている人たちを批判しているわけでもありません。ただし、ウシやブタを食べながら「競馬は動物虐待だ」とか言っている人を見ると「はぁ?この人、何言ってんの?」と思ってしまいますが。

さて、現在の日本では、一般的に、イヌやネコなどの殺処分は「可哀そう」「ゼロにすべき」という意見が多く、鳥インフルや豚コレラの殺処分は「仕方ない」という意見が多いですが、この中間のケースはどうでしょうか?

岩手県盛岡市の動物公園「ZOOMO」では、2020年11月頃からカイウサギにパスツレラ感染症が広がり始めました。獣医や飼育員は治療や消毒など考えられるすべての対応を取りましたが、感染は広がり続け、このままではカイウサギを苦しめるだけだとの判断から、翌年3月、全15羽を安楽死させ、カイウサギの展示を終了したと発表しました。以下の公式リリースを読めば、その努力がよく分かります。

カイウサギの展示終了について

しかし、この発表を知った人々から「安楽死は酷い」という批判の声が殺到したのです。確かに動物を殺すことは残酷なことですが、完治の見込みがなく、苦しみ続ける動物の命を終わらせ、苦しみから解放してあげることが、そんなに「酷い」ことなのでしょうか?そして、自然に死ぬまで苦しみ続けさせるほうが、その動物にとって「幸せ」なのでしょうか?

動物の命について、安楽死という処置について、人の考え方は様々です。しかし、どう見ても最善を尽くしたと思われる、このカイウサギの件に関しては、労(ねぎら)いや感謝の声こそ寄せるべきであって、批判など考えられません。

何とかカイウサギの命を救おうと何カ月もがんばって来た担当者らこそが、本当は誰よりも悲しんでいるのに、その人たちを批判する声が殺到するなんて、日本人の「思いやり」の精神は、いったいどこへ行ってしまったのでしょうか?

(『きっこのメルマガ』2025年5月14日号より一部抜粋・文中敬称略)

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