中国の新興EVメーカーの一つとして知られる蔚来(NIO)。創業以来EVのみを世に送り出してきた同社が先日、とある機能の量産搭載を発表し大きな注目を集めています。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では今回、高速道路走行中のトラブルからドライバーや同乗者を救う新システムを詳しく紹介。さらにNIOのこの「挑戦」の意義を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:NIO、高速道路でADAS中に居眠りも自律的に路肩駐車する機能
NIO、高速道路でADAS中に居眠りも自律的に路肩駐車する機能
中国新興メーカー蔚来(NIO)は2025年5月27日、次世代自動運転技術の一環として「緊急自動路肩停止」機能の量産搭載を発表した。
NIOが独自開発した世界モデリング技術「NIO World Model(NWM)」によるもので、前日の自動駐車に続く連投。
「技術のNIO」復活の感があり、個人的にもうれしい。
また、今回の技術は、理想(Lixiang)と同じように、やはりシャオミ車の高速道路事故の影響を多分に受けたと思われる、高速走行時のシチュエーションであることも注目に値する。
高速で居眠り、意識喪失時
これは、ドライバーがADASで走行中に居眠り含む突発的な意識喪失に陥った場合、まずは音や光でドライバーに注意喚起を行う。
それでも反応がない場合、クルマ自身が自動で周囲を把握・判断し、最も安全なタイミングで緊急路肩に車線変更しながら停止するというもの。
これまでも一部のメーカーが映像などで技術デモンストレーションを披露してきたが、NIOが業界で初めて「量産化」としての採用に踏み切った。
これにより、今後の自動運転開発に新たな基準が生まれる可能性が高まっている。
ドライバー無反応時に自律制御
同社の発表によれば、この機能はNWMにより実現されるもので、NWMは車両周囲のセンサー情報と高精度地図、さらにリアルタイムなAI推論を組み合わせることで、まるで上空から見たような「仮想俯瞰視点」を車内ディスプレイに表示し、ドライバーの認知支援を高めてきた。
今回の緊急機能では、このNWMの能力をさらに進化させ、ドライバーが無反応状態になった際、後続車両の速度や路肩状況までをも即座に解析。
AIが「車線変更・減速・停止」までの一連のプロセスを担う。
すでに自動運転レベル3
ポイントは、これが「L2+(高度運転支援)」レベルで提供されている点にある。
通常、こうした車両の自律判断を伴う機能は、L3(条件付き自動運転)以上でなければ適用が難しいとされてきた。
しかし、NIOはL3の開発・認可実績をもとに、「L3レベルの安全設計をL2領域に持ち込む」戦略を打ち出している。
事実、NIOは2024年に中国政府よりL3試験運用の認可を受けた9社のうちの一社であり、既に公道における自動運転挙動の検証を積み重ねてきた。
高速走行中の冗長性
緊急停止のシナリオは、単に「路肩で停まる」だけではない。
高速道路という環境で、センサーの誤認識や後続車の急接近といったノイズが発生した際でも、フェールセーフが求められる。
そのため、今回のNIO車両には高精度なセンサー冗長設計(LiDAR、ミリ波レーダー、カメラ)」と、ソフトウェアの安全補完ロジックが備わっている。
さらに、停止後には自動的にドアロックを解除し、SOS連携で救急や警察への通報も行われる仕組みだ。ドアロックが解除されているから、救出も容易になる。
同技術の量産化は画期
こうした高度な機能を「映像デモ」ではなく、「実車に載せて売る」ことの難しさを、NIOは強調する。
なぜなら、量産化にはコスト・認証・リスクヘッジの三重苦がつきまとうからだ。
他社が技術展示で見せることはできても、数万台に同機能を標準搭載するとなると、ハードウェアの歩留まりからオペレーション設計まで、次元の異なる課題が立ちはだかる。
今回のNIOの挑戦は、「安全を巡る競争」においてEVメーカーができることの最前線を示したとも言える。
自動運転技術の成熟にはまだ時間がかかるが、その過程で「命を守る仕組み」を積極的に取り込む姿勢こそが、消費者の信頼を勝ち得る鍵となる。
車AI化の最前線で存在感
中国EV市場の中でも、とりわけ慎重で信頼性重視のイメージを築いてきたNIOが、この機能を前面に押し出した意味は大きい。
日本や欧米の大手メーカーが「安全性=人の介在」とする中、NIOはあえて「AIによる補完的介在」に踏み出した。
AIの利活用は中国では一般的だが、NIOもその最前線に、存在感を示し始めてきた。
出典:https://mp.weixin.qq.com/s/OBAzZ5AGTEONQ6-cSbxc7g
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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