中国スマートEV市場の覇権争いに「異変」の兆候が表れています。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では、スマホからEVへと参入したファーウェイとシャオミの「静かな応酬」を紹介。その裏には、中国EV業界における「次の主導権争い」が見え隠れしているようです。
焦るファーウェイ、余裕のシャオミ、スマホから参入組の明暗か
ファーウェイ常務董事の余承東氏は2025年5月末のあるカンファレンスで、「ある会社が他業界から車を一台作っただけで話題になり、脚光を浴びる。
たとえ製品が完璧でなくても、スマート化がどうであっても、ブランドとトラフィックさえあれば評価されてしまう」と発言。
どう見てもシャオミをあてこすった発言だが、これに対してすぐにシャオミ幹部の王化氏がWeibo上で冷静かつ詩的に“応答”した。
焦るファーウェイ、余裕のシャオミという、今まであまり見られなかった中国自動車業界の構図が顕在化した。
シャオミ側の反応
シャオミ王氏の反応はこうだ。
「壁の上で叫ぶ者もいれば、地に足をつけて静かに種をまく者もいる。山の上で竹を振るう者もいれば、頭を垂れて根を養う者もいる。皮をめくって中を見るべきだ」。
中国らしい詩的表現満載で分かりずらいが、ファーウェイは何か叫びまくってますね、こちらは地に足を付けてしっかり事業を進めていますよ。
ファーウェイは高所で威勢がいいですね、こちらは謙虚に事業を進めていますよ。
どちらにしろ、中身が大事ですよね、となる。
SU7一車種の爆発力
一つに、ファーウェイがそれほどシャオミを気にしていた、というのは意外だった。
ただ、その背景には、シャオミ初弾のセダンBEV「SU7」が販売1年以上を経てなお、というよりも月販を積み増しており、足元は毎月3万台弱がベースになっていること。
ファーウェイは問界(AITO)を中心に、界シリーズの「鴻蒙智行(HIMA)」や、「HI」などを通じて、確かに存在感を高めているとはいえ、1車種だけでこれだけの爆発力はない。
シャオミ王氏は畳みかけるように、(話題の第二弾SUV)「YU7」の量産を着実に進めていますよ、とも報告している。
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ファーウェイの焦燥
SU7だけでも厄介なのに、今の中国はセダンよりSUVが売れる傾向にあり、YU7がリリースされてしまうと、間違いなくファーウェイにとっては脅威だ。
スマホや会社としての規模ではシャオミを圧倒しつつも、自動車分野ではシャオミの存在感に追い付いていない。
そんなファーウェイの焦燥がしみ込んでくるのが冒頭の余氏の発言だ。
「ある会社が他業界から車を一台作った」、いやいやあなたたちもスマホから自動車分野進出組でしょ、と突っ込みたくなる。
ファーウェイ根幹戦略にずれ?
ファーウェイの焦りの背景には、シャオミの成功で、その「自らは自動車を製造しない」という基本戦略に陰りが生じている、ということを自認している可能性がある。
ファーウェイはあくまで自動運転技術、コックピットOS、パワートレインなどを提供し、実車製造はパートナーOEMに任せるという立場を貫いてきた。
一見、こちらの方が合理的で、事実、ファーウェイはすでに自動車事業の黒字化を謳っている。一方のシャオミの自動車事業は依然として赤字状態だ。
足元の「経営」での優劣はついているが、では今後は?
シャオミ流爆発力再現は不能
シャオミの爆発力をファーウェイも再現できるか、となればやはり確かに疑問だ。
シャオミのように製造はもとより、ソフトウェアからサプライチェーン、価格設定、マーケティングまで一気通貫で制御できる体制は、そもそもシャオミというブランド力をそのまま使えた。
一方、ファーウェイの今の状況では、ファーウェイはあくまでも矢面に立たず、裏方(とはいえ、目立ってはいるが)。
仮に最初から完全なファーウェイカーを目指していれば、と考えたくはなる。
ファーウェイ戦略転換も?
ファーウェイが気にするシャオミの爆発力、しかも第二弾YU7も間もなく販売開始。
つまり、シャオミSU7の成功により、「製造に踏み込まない」という選択が本当に正しかったのか?」という根本的な問いが、ファーウェイ社内でも再び問われ始めている可能性がある。
今後、方針の微調整、あるいは戦略的転換も決してあり得ない話ではない。
今のところ、表面上は静かに交わされている両者のやり取り。しかしその裏側では、中国スマートEV産業の次の主導権をめぐる静かな地殻変動が始まっているのかもしれない。
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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