「脱アメリカ中国シフト」へ舵を切り始めたEU。それでも「手を組んで米国と対峙」の構造が出来ぬ理由

Rome,,Italy,-,March,22,,2019:,Xi,Jinping,,China's,President,
 

「欧州の天地は複雑怪奇」とのコメントとともに平沼騏一郎内閣が総辞職したのが1939年。それから86年が経過しましたが、欧州連合(EU)を含む国際社会はさらに複雑さを増していると見て間違いないようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、EUが「脱アメリカ・中国シフト」に舵を切り始めたきっかけを紹介。その上で、何が今後の世界の「新たなスタンダード」となっていくのかを独自に考察しています。。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:国際会議につきまとう「煮え切らなさ」は新しい国際秩序の入り口か

新しい国際秩序の入り口か。国際会議につきまとう「煮え切らなさ」

「このまま行くと欧州連合(EU)は本格的に中国シフトを始めるんじゃないですか?」

私がこう水を向けると、中国のある関係者は、言葉を吟味するように一拍おくと、「気が付きましたか?」と笑いながら返してきた。

第二次トランプ政権(2.0)の性質を見極めようとしていたEUが、脱アメリカの未来をはっきりと意識し始めたのは、今年2月ドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議(MSC)でのことだ。

J・D・ヴァンス副大統領、ピート・ヘグセス国防長官がそろって参加。欧州におけるアメリカのプレゼンスを否定的に論じただけでなく、欧州各国で台頭する右派政党に対する親近感を露骨に示す発言を繰り返したからだ。

まだ相互関税が発動される前のことで、EUのカヤ・カラス上級代表(外相)は、「(欧米が)関税戦争を始めれば、喜ぶのは中国だ」と、陣営対立にしがみついてアメリカの説得を試みようとしていた。

だが、MSCが終わるとウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が中国との新たな経済協定に言及。その変化をにじませた。

EUの小さな変身は、世界の出来事を従来の法則で切り取ることに限界が訪れたことを示す入り口だったのかもしれない。

ロシア・ウクライナ戦争はほんの3年前のことだが、そのとき西側先進国は足並みをそろえ、威勢よくロシアを非難し、また派手に制裁を発動した。

だが、イスラエルの過剰ともとれるガザへの攻撃や、米軍によるイランの核施設への爆撃を前に、EUや他の先進国は明らかに煮え切らない。

実は今後の世界では、おそらくこの「煮え切らない」という態度こそが新たなスタンダートになるのではないだろうか。

イランの核施設への爆撃後、中国はアメリカを批判した。だが、その一方で「米、中国からのレアアース輸出加速巡り合意=ホワイトハウス当局者」とロイター(ワシントン 6月26日)が報じたように、批判は米中の合意を妨げるようなトーンで発せられたわけではなかったのだ。

つまり、EUが中国シフトを強めたとしても中国とEUが手を組みアメリカと対峙するといった構造は簡単には出来上がらないのである。

そこには、体制の違いという要素以上に高い壁が存在するからだ。

では、具体的に何の壁かといえば、それは「まず自国の利益を確保することが死活的に重要」という壁だ。

言い換えれば、陣営対立とはある種「金持ちの道楽」であり、自国利益を冷徹に追及しようとすれば、むしろ無用のものという意味だ。

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