「脱アメリカ中国シフト」へ舵を切り始めたEU。それでも「手を組んで米国と対峙」の構造が出来ぬ理由

 

超自国ファーストに舵を切った米国に巻き込まれる国際社会

陣営対立の先頭に立ってきたアメリカがいま、率先して自国ファースト(実際は自国ファーストでなかった時期はないのだが、露骨になったという意味で)に舵を切ったことで、各国もその流れに巻き込まれているのだ。

この事実を逆から見れば、例えば中国とインドが関係を改善したからといって、それが中国+インドvs.アメリカという対立に発展するわけではないということだ。

現状、インドは中国との関係改善で生まれる経済的メリットを重視している。2020年の中印国境での紛争後、あらゆるルートを遮断してきた結果、インド人の中国でのビジネス環境は最悪となった。例えば、インド人が中国を訪問するときには、スリランカ経由で飛ばなければならなかったり、中国人とのコミュニケーションで不可欠なウィチャットもインド人は使うことができない、などだ。

その不便さを解決したからといって、国際社会でインドが中国と足並みをそろえることはないだろう。

上海協力機構(SCO)の国防相会議(25日、26日)で中国国防相がトランプ政権をけん制し、加盟国間の結束を求めようと動くなかでインドが難色を示したと報じられたのは象徴的だ。

「煮え切らなさ」という話題に戻せば、今回のカナダで開催されたG7もそうだ。やっと共同声明にはこぎつけたものの、その過程で露見したのは「団結」ではなく「不協和音」であった。途中、ドナルド・トランプ大統領が日程を切り上げたことで権威も傷つけられた。

北大西洋条約機構(NATO)サミット(25日、閉幕)はさらに「煮え切らない」内容となった。

米政治誌『Foreign Policy』は、「NATOは難しい会話を避けている」というタイトルでそれを報じている。

記事では「結局、今年のNATOサミットは32の加盟国が、何に合意したかではなく、何を議論しないことにしたかで記憶される」とこきおろした。

一時期盛り上がったNATOの東京事務所開設もいつのまにか尻すぼみになってしまった。

同じように戦禍が拡大するイスラエルとイランの問題も、EUが存在感を示すことはなかった。

西側が結束して制裁を加えれば何かが変わると考えるのも単純過ぎる発想だが、その単純ささえ失われれば、世界の先行きが不透明になることは避けられないだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年6月29日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、6月分のバックナンバーをお求め下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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