今、フジテレビをめぐる問題が報じられるなかで、批判の対象にもなっている「フジテレビらしさ」には、忘れてはいけない価値があったのではないでしょうか。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんが、フジテレビの番組『なるほど・ザ・ワールド』から教えてもらった学びの原点について語っています。
「なるほど・ザ・ワールド」が導いた未知なるものへの好奇心
フジテレビの問題が尾を引く中、株主総会ではフジテレビからの提案が受け入れられ、外部から役員提案等は退けられた。
問題に関する検証の結果に対する否定的な見解も多い。
メディアが今後、どのように社会に役立ち、収益性を確保していくかは、メディア業界全体の課題ではあるが、「楽しくなければテレビじゃない!」をキャッチ・フレーズにしたフジテレビ「らしさ」が問題の根源という指摘もあり、「らしさ」からどのように脱却かするのか世間から注目が集まる。
同時に「らしさ」が社会に及ぼした成果もある。
以前、フジテレビが民間放送で新聞協会賞を最も多く受賞していることには触れたが、今回は私自身がみんなの大学校で行っているプログラムは、小学生の頃に見たフジテレビ「らしい」ある番組が、原風景にあり、それは今の「私たちの社会」に必要な視点を示しているように思う。
その番組とは1981年開始の「なるほど・ザ・ワールド」だ。
先ほどのキャッチ・フレーズを前面に押し出した新番組の目玉とされた愛川欽也司会の番組は世界各地を訪問したレポーターが、異文化を紹介しながらクイズとして出題し、チームに分かれたゲストの芸能人が解答していく内容。
レポーターから伝えられる海外の文化や風習、事情、そしてビジュアルは、海外旅行が一般化していない時代の、異文化体験の入口になった。
私は、クイズの解答やそのやりとりには関心を示すことなく、ひたすらに映像で伝えられる海外の空気感に心惹かれた。
それは小学生の頃だから、いつか、自分も行ってみたい、そんな思いを掻き立てられた。
まだ知らない世界を知る学びの機会でもあり、ふと気づくと、私がみんなの大学校で提供している学びは、この番組が大きく影響している。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
フジテレビが提供したコンテンツの遺産、文化的効果を思う時、よい影響をもたらしたものとして挙げるべき番組であり、障がい者向けの学びには参考になるスタイルを示しているのが、なるほど・ザ・ワールド、である。
未知の文化との遭遇が、本人や周辺がそれを「面白い」との思いとともに共有された事実は肯定的な評価が伴い、このあらたな知識の獲得は経験を豊かなものにする。
この番組の私の解釈は、支援が必要な方向けの「メディア論」に生かされている。
実際のニュースを取り上げながら、初めて出会う社会や世界のあれこれを一緒に考え、クイズ形式で学校ごとに考えてもらう内容は集団における合意形成を学ぶのにも有効との報告も得ている。
今期は最近のニュースを取り上げて、よりニュースに近づいてもらう、身近なものだと考えてもらうために、画像を見せながらクイズを展開した。
例えば、イラン、イスラエルの争いを説明しながら、画像で「イスラエル料理」「イラン料理」を見てもらい、どんな違いがあり、料理の違いから、どんな文化的背景があるかを話していく。
バチカンの教皇選挙に関連しローマ法王の冠はどんな形をしているかを考える、など。
この講義で学びを「面白い」と思ってもらうことは重要で、押し付けではなく、自発的に学ぶことにつなげるための時間とも考えている。
だから、講義の後半では、学校ごとに自分たちが気になるニュースを発表してもらった。
私にとって「なるほど・ザ・ワールド」は小学校高学年になると見なくなってしまったが、それは自分で好きな本を読んだり、音楽を聴いたり、自分なりの「なるほど」を得られる機会を見つけたからだと思う。
この入口は多様性を考える今でも、海外に出かける際にも、大事なメンタリティを養ってくれた。
他国や異文化という未知なるものを知ろうとする好奇心を育てていくのに偏見は厳禁だ。
ジャーナリスティックにやさしく「なるほど」を共有したい。
どの国も、人も、「ファースト」という形容詞を付ける前に、一緒に生きていくためにどのようにしたらよいかを含めて。
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