【自衛隊】歴史が証明する軍事力による「自国民保護」の危うさ

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「自衛」の名による「邦人救出」の危うさ

第2に、そもそも軍事力による「邦人保護」、一般化して言えば「自国民保護」という観念自体を是認するのかどうかという問題がある。こういう事件があると「国が国民の生命を守れなくていいのか!」という感情論が盛り上がるのは、ある意味で当然だが、しかしそれは必ずしも自明のことではない。例えば、小沢一郎は次のように語っていて、私もそれに賛成である(高野著『沖縄に海兵隊はいらない!』、にんげん出版、12年刊、P.240~245)。

▼私は「極東有事の際に邦人救出」という概念そのものに反対なのだ。邦人であろうと誰であろうと、極東であろうとどこであろうと、救出を求めている人たちがいれば、国連として救出しなければならず、国連がやる以上、それには日本も参加するということでなければならない。

▼米軍と一緒でも、日本単独でも、自衛権の名による邦人救出のための海外軍事行動はありえない。

▼戦前の多くの戦争は“自衛”の名のもとに始められた。自衛権というものは、個別的にせよ集団的にせよ、極めて慎重に扱わなければならない……。

小沢の言うように、戦前の多くの侵略戦争が「自衛」、そしてその国民感情に訴えやすい具体例として「自国民保護」を口実として遂行されたというのは、紛れもない事実である。

日本に関して言えば、例えば、1926~28年の3次にわたる山東出兵は、いずれも在留邦人の保護を名目に軍隊を派遣したのだし、続く1932年の上海事変では、日本人僧侶が殺害される事件をきっかけに、在留邦人の保護を目的として軍隊が派遣された。日本軍の謀略機関にとっては、不良中国人に金を渡して在留邦人を殺させて侵略の口実を作ることなど造作もないことで、つまりは、自衛と侵略の間に境目などないというのが、戦前日本に限らず世界戦争史の真実なのだ。

だからこそ1945年創設の国連は、個別的にせよ集団的にせよ各国による「自衛権」の行使そのものを強く制約し、それに代わるものとして将来の「国連警察軍」のようなものを創建してそこに武力行使の権限を集中させることを理念とした。小沢が「邦人であろうと誰であろうと……国連として救出しなければならず……それには日本も参加する」と言っているのは、この問題をあくまで国連の「集団安全保障」原理に立って考えるべきであるという意味である。

ところが、国連の理想は冷戦の現実によって裏切られ、またもや「自衛」の名による「侵略」が横行することになった。近年の米国で見れば、イランのイスラム原理主義革命後の1980年、テヘランの米大使館に監禁された米国人を奪回するためにカーター政権が試みて失敗した軍事作戦も、グレナダの左翼クーデタを潰すために1983年にレーガン政権が発動した侵攻作戦も、パナマの独裁者ノリエガ将軍の扱いに手を焼いた米ブッシュ父政権が派手に演出した1989年のパナマ侵攻作戦も、すべて「米人保護」のための「自衛」が名目となっていた。

自国民保護のための自衛だと言えば、どんな野蛮な侵略戦争も合理化できるというおぞましい歴史を我々は未だに引き摺っている。そのおぞましさの方に回帰することが「まともな国家」になることだと考えるのか、もうそういうことは止めにしようと体を張って世界にアピールするのが「まともな国家」なのか、ということがこの問題をめぐる最初の原理的な分岐点である。

寺島実郎が8日のTBS 番組で語っていたように、中東地域で仕事に携わる日本人は、いざという時に自衛隊が助けに来てくれるなどということはまったく想定せず、自らの身は自らが守るという一種の覚悟をもってこの地域と関わってきた。あるいは同じ8日付東京新聞で木村太郎が書いているように、40年前に中東某国に駐在していた時に内乱が勃発したが、大使館は在留邦人に対し退避勧告を出さず「日本人は企業ごとに独自に情報を収集し、判断をして1社また1社と引き上げて行った。…真っ先に脱出したのは総合商社だった。商社マンのネットワークが正確な情報をつかんだからだろう」。

自衛隊はおろか大使館さえ当てにせずに、言わば丸腰で危険地帯にいることのリスクは敢えて覚悟して、いざとなったらサッサと逃げるというのは、それはそれで1つの潔い「安全保障観」であって、それを貫いてきたからこそ、戦後長いあいだ日本はアラブ・イスラム世界で「味方」として信頼を得てきたのだと言える。その信頼がイラク・アフガン両戦争への自衛隊の「後方支援」参加で崩れ始め、ついに今回は「敵」と看做されるに至ってしまった。この状況で「邦人救出」のために自衛隊を投入できるように法改正をするなど、それだけで十分に火に油を注ぐ悪いメッセージになるに決まっている。

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