8月3日、首相官邸の公式SNSに投稿された高市首相の熊本地震被災地訪問動画が、大きな批判を浴びました。慰問の記録ではなく、まるでプロモーション映像のようだと受け止められたからです。映像制作の専門家からも批判が相次いでいます。メルマガ『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、映像プロデューサーによる詳細な分析を踏まえながら、SNS時代に権力が直接発信する映像とどう向き合うべきか、「真贋を見抜く目」の鍛え方について語ります。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです
「被災地ロケ」と揶揄された高市氏の被災地訪問動画
8月3日、高市首相は、熊本地震の被災地を訪問しました。同日、首相官邸の公式SNSに以下の動画が掲載されました。
高市総理による、令和8年熊本地震による被災状況視察のための熊本県訪問の様子です。 pic.twitter.com/ibfKkYbs9l
— 首相官邸 (@kantei) August 3, 2026
https://x.com/kantei/status/2084288074323026389
ところが、この動画が大炎上したことは読者の皆さんもよくご存知のことと思います。理由は、この動画を観た多くの人たちが、これをまるで地震災害を利用した高市首相のプロモーション動画のように受け止めたからです。
映像制作の専門家などからも批判が相次ぎ、たとえば映画監督の想田和弘氏は以下のようにXに投稿しています。
カメラワーク、音楽、映像の使用箇所などを分析すれば、これは首相を英雄化することを目的とするプロモ映像ないしプロパガンダ映像です。映像の作り手として、それ以外の解釈は不可能です。気になるのは、一般の人がどう感じるかです。作り手の意図通り、感動するのか、逆に胡散臭く感じるのか。 https://t.co/QiTTGsfzAq
— 想田和弘 (@KazuhiroSoda) August 5, 2026
https://x.com/KazuhiroSoda/status/2084934108178940336
そこで、今回は以下の投稿を取り上げます。
高市氏の動画を映像ディレクターの牟田さんが分析したnoteはとても興味深いです。この1分53秒が巧妙に作られていることがわかります。SNS動画全盛時代にメディアリテラシーは必須で、それがないと国が亡ぶくらいの危機感を抱いています。騙されないように「見る力」が必要。https://t.co/8nH8DriPGt
— ミド建築・都市観測所 (@Mid_observatory) August 6, 2026
https://x.com/Mid_observatory/status/2085211341435130167
映像のプロが暴いた入念な作り込み
この投稿が引用している牟田高太郎氏のnoteは以下になります。同氏は、NHKの番組なども手掛ける映像プロデューサーとのことで、映像制作の専門家の立場から、高市氏の被災地訪問動画を細かく分析しており参考になります。
関連記事: 熊本地震視察動画を、映像ディレクターとして本気で分析する
動画分析の詳細については、是非上記の牟田氏のnoteを読んでいただきたいと思いますが、同氏が分析した通り、この動画は、制作者側が明らかな意図をもって作り込んだプロモーション動画であることがよくわかります。しかも、映像の編集段階でそのような意図を入れ込んだというだけでなく、プロのカメラマンを起用して、入念な下準備を行った上で、映像のキャプチャ段階から、十分な演出効果などを考慮して撮影されていたことがわかります。
あくまでも高市首相を主役とした映像になっていますから、カメラ撮りをしていることを意識した高市氏の演技も混じっていると思います。また、SNS用の動画として制作されていますので、冒頭の3フレームの静止画の挿入など、SNSマーケティング上の基本も外していません。
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
歴代首相の動画も炎上しなかった理由
バックグラウンドミュージック(BGM)の挿入についてもずいぶん批判されていましたが、過去の官邸発の動画を確認したところ、安倍氏、岸田氏、石破氏などが首相の時にも被災地訪問動画は作られていて、やはりすべてにBGMが挿入されています。ただ、それらが今回のように炎上しなかったのは、どれも「被災地現場視察・慰問の記録動画」という本来の目的を逸脱しない範囲の動画として受け止められたからだと思います。
それに対して、今回の高市氏の動画については、「プロモーションのための現地ロケ」という指摘もありましたが、被災地への慰問や激励が目的というよりも、高市氏のプロモーションが主目的であったとしか思えないような露骨な印象です。懇談している被災者らしき人たちも厳選されたそうですし、何を話すかなどもあらかじめ仕組まれていたようです。視察場所も、酷暑の避難所などは避けられ、空調の利いた中学校の教室が選ばれたそうです。
いま必要な「真贋を見抜く目」
今回の一件から、我々があらためてはっきりと認識しなければならないことは、本メルマガの目的でもありますが、「真贋を見抜く目を鍛える」ということの重要さです。自分の目と耳で直接確認した一次情報以外の情報に接するときには、常にこの「真贋を見抜く目」を意識する必要があります。動画が氾濫する時代ですが、動画は、切り取っただけでも切り取った側の意図が入ります。ニュース映像なども、解説付きの編集された映像である限りは、すべて制作する側の何かしらの意図が入り込むことは当然です。
SNSの時代は、マスメディアなどを介さずに、権力側がいくらでも直接情報発信できる時代でもあります。アベノマスクを発案したとされる佐伯耕三氏が運営する以下のXアカウントもたびたび話題になりますが、これなどは、まさに国民を情報操作することだけが目的で新設されたアカウントであると言っても過言ではありません。
牟田氏も言っている通り、今回、高市氏の動画を観て、映像の専門家でなくとも、多くの人たちが違和感を覚えたことには少なからず救われる思いがします。「何かがおかしい」と察知できる直観力こそが、真贋を見抜く入口だからです。
SNSに最適化された国家の物語
最後に、牟田氏がnoteの終わりで語っている警告をそのままこちらにも転載しておきます。まさにその通りだと思います。
国家が、自らに都合のよい出来事と理想像を選び、感情に届く物語として国民へ届ける。私たちは、その危うさを歴史の中で知っているはずです。それは、過去と同じような過激さ、荒々しい姿では現れないはずです。親しみやすく、テンポがよく、SNSに最適化された姿でそれが現れたとき、私たちはそれを見分けられるでしょうか。
映像に心を動かされた瞬間、一拍だけ立ち止まり、「私は何を見たのか」ではなく、「私は何を見せられ、どう感じるよう導かれたのか」と問い直す。
その習慣を失わないことが、いま私たちに求められているのだと思います。
(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年8月14日号の一部抜粋です。このほか「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください)
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
辻野晃一郎さんの最近の記事
- 星条旗と「対等」に並べ掲げた日章旗。戦後のニューヨーク5番街を熱くさせた“日本のSONY”の存在感
- 「軍事に手を出さなかったから日本は製造業大国となった」高市首相に聞かせたいソニー創業者・井深大の“核心を突く”言葉
- ナフサ供給不足「流通の目詰まり」という表現は本当に適切か?Google日本法人元社長が問う高市政権の説明責任
- 豊田章男トヨタ会長の「凡庸すぎる答え」に絶句。若者からの「核心を突いた回答」を一蹴する致命的なコミュニケーション
- トランプ「文明を完全に滅ぼす」衝撃発言にローマ教皇が激怒。元支持者も「これは悪であり狂気だ」の声
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
image by: 首相官邸