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【未来地図】「ウェブサイトを持たないウェブメディア」が登場

動画メディアNowThisのコンテンツ戦略を分析する

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第334号より一部抜粋

動画のスタートアップ企業「NowThis」が先週、自社のウェブサイトでのメディア展開を終わらせ、今後はソーシャルメディアのプラットフォーム上だけに動画を配信していくということを宣言しました。

NowThis

同社のウェブサイトを見てみると、たしかにビックリ! 「ホームページ。この言葉はもはや古く聞こえる。いま、ニュースはあなたのいる場所にあるのだ」というキャッチコピーがデーンと大きく表示され、その下にはフェイスブックやツイッター、タンブラー、ユーチューブなどの各種プラットフォームへのリンクが並んでいます。それ以外にはモバイルアプリのダウンロードページへのリンクが右上に表示してあるだけ。動画はこのサイトのどこにもありません。

本メルマガでもバズフィードのCEOインタビュー紹介などで、最近の新興メディアの非常に活発な動きを取りあげてきました。その中でもバズフィードが最近さかんに口にしている「ウェブのないメディア」というコンセプトに注目してきたのですが、早くもこれをほんとに実践しちゃう企業が現れてきたということですね。

前から書いている通り、いまメディアに求められているのは、「読者のいる場所に行くこと」「読者の求めるものを最適化して提供すること」という2点だと私は考えています。前者のポイントを満たすためには、自社サイトへのリンクをクリックしてもらうという面倒な手間を読者に求めることではなく、読者がいつも滞在している場所に出かけていって、その場所でコンテンツを丸ごと提供してしまうのが大切ということですね。

これは言ってみれば、レストランとコンビニの違いと言えるでしょうか。目の前のニーズにどうどんぴしゃりと当てはめるか。そしてわざわざ電車に乗って遠くのレストランに行くのではなく、信号のある交差点を渡るのさえ面倒くさいと考えている読者に、いかに近場のすぐの場所で情報を提供できるか。そういうことが、情報過多のキュレーションの時代には求められるようになっているということです。

従来のネットメディアは、フェイスブックやツイッターで自社記事を紹介し、そこから読者にリンクをたどってもらって自社サイトに来てもらうというのが一般的な手法でした。なぜ自社サイトに来てもらう必要があるかと言えば、ビジネスモデルがグーグルのAdSenseなどのディスプレイ広告であるからです。

2000年代ぐらいには、読者の動線の主軸は検索エンジンとポータルサイトだったので、いかに検索エンジンで検索してもらうかという施策(SEO、検索エンジン最適化ですね)と、ポータルサイトへの働きかけでした。しかし2000年代終わりごろからはフェイスブックやツイッターなどのSNSからの流入が中心になり、このためどのメディアもこうしたSNSでのフォロワー集めやリツイートを増やすことに全力を挙げるようになってきました。デバイスがPCからスマートフォンに移行してきて、この傾向はさらに加速しています。

昨年までバズフィードのCRO(Chief Revenue Officer)を務め、いまはVCのアンドリーセン・ホロヴィッツに移っているAndy Wiedlinは、「すべてのアクションはフェイスブックやツイッターなどソーシャルメディアのストリーム(情報の流れ)に変わっている」という言葉を使っています。ため池のようにコンテンツが保存してあるところに人々がコンテンツを見に行くのではなく、川の流れのようなところに人々がいて、人々をコンテンツという波が洗っていくイメージでしょうか。ため池で待っていても人々は情報を見にきてくれるわけではなく、川に行って人々に向けて情報を流さなければなりません。

であれば、NowThisが「もはや自社サイトに来てもらう必要はない」と、読者が日ごろ滞在しているフェイスブックやツイッター、インスタグラム、ヴァインといったソーシャルプラットフォーム上でダイレクトに動画を楽しんでもらうという手法を採用したのも当然の進化の方向性ということになるでしょう。

フェイスブックの側も、リンクを貼って外部のサイトに誘導する投稿よりも、フェイスブック内だけで完結する投稿の方を優遇し、ランクを高くして読者の目に触れやすいようなことをしています。これによって発生する広告売上をフェイスブックとコンテンツ提供者との間でレベニューシェアすることで、フェイスブックの中で動画を見せた方が儲けが得やすいのだ、というのがフェイスブックのアピール点になっているんですね。

フェイスブックのこうした動きに合わせるように、ツイッターも独自の埋め込み動画サービスを最近になって開始していますし、インスタグラムは15秒動画機能を持ち、スナップチャットも同じ方向へと進んでいます。これからはモバイルデバイス上で動画を見るというのが非常に大きなコンテンツ市場になってくることが予想され、このためにプラットフォーム各社は自社サイト内だけで動画視聴を完結させる方向へと大きく舵を切っているというのが現状の大きな動きと言えるでしょう。

この流れに最適化しようとまず動いたのが、今回のNowThisの「英断」ということになるのではないかと思います。今後はこれに追随してくるメディアがたくさん出てくることが予想されます。ちなみにイーベイ創業者のピエール・オミディアが始めた新興メディアのファーストルックは、Reported.lyというメディアをローンチしていますが、これはブログサービスのMediumの上でのみ配信されていて、自社のサイトを持たずにプラットフォームに完全依拠したメディアであり、NowThisと同じ方向と言えるでしょう。

Reported.ly

ただひとつ疑念としてあるのは、マネタイズは本当に可能なのか?ということでしょう。先述しているように、NowThisのような動画を自社制作している場合は今後のマネタイズは、フェイスブックなどのプラットフォームに動画を提供し、そこで発生する広告売上をフェイスブックとで分け合うというモデルになるでしょう。これはユーチューブがもうだいぶ前からやっているビジネスモデルで、最近注目されているYouTuberと呼ばれるビデオブロガーたちはこのモデルで大金を稼いでいるんですね。Snapchatも、Discoverという新しいコンテンツ配信機能でコンテンツ企業と組んで同じことを始めています。Snapchatは単なるメッセージアプリから、これによってメディア配信プラットフォームへと脱皮しようとしているということが、以下のマッシャブルの記事では指摘されています。

Snapchat breaks into media with Discover

しかしこのようなプラットフォームとの広告収益シェアモデルは、NowThis側が自社のコンテンツやデータをコントロールできなくなってしまう危険性もはらんでいると考えるべきでしょう。ユーチューブの仕組みがちょっと変わるだけでYouTuberの収入が激減し、大騒ぎになるようなことが起きていますが、あのような事態が予測できるということです。

となるとコンテンツ側が考えるべきは、プラットフォーム側の広告モデルに全面依存することではありません。プラットフォーム側の広告モデルだけでなく、コンテンツ自体の価値で広告効果を勝負できるネイティブ広告モデルをきちんと打ち立てていくことが、プラットフォーム依存に陥らないための重要な施策になってくるのだと思います。プラットフォームがシステムを変更したり、あるいはプラットフォームの栄枯盛衰があってそこからの収益がなくなったとしても、プラットフォームをまたぐ形で読者との間にエンゲージメント(つながり)を形成しておくというのが、たいへん重要なのです。

「自社サイトを持たないメディア」では、もはやページビューは測りようもありません。今後は指標はページビューではなく、主軸としてはエンゲージメントやSNSでのシェア数に変わっていき、これがネイティブ広告を後押しする。そしてコンテンツを各種のプラットフォーム上で展開し、特定のプラットフォームに単独依拠する危険性はとらない、というようなところに落ち着いていくのではないでしょうか。

 

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第334号より一部抜粋

著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年生まれ。早稲田大政経学部中退。1988年毎日新聞社入社、1999年アスキーに移籍。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。博覧強記さかつ群を抜く情報取集能力がいかんなく発揮されたメルマガはメインの特集はもちろん、読むべき記事を紹介するキュレーションも超ユースフル。
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