そして、経済的にしろ文化的にしろ、不満だけでは運動は盛りあがりません。運動を組織するというのはたいへんなことなんですね。社会に不満が高まっていても、それが運動にすぐに結びつくわけでもありません。そういう不満は、たいていは衝動的な殺人や個人的なテロというかたちでしか発現しないからです。2008年の秋葉原連続通り魔事件や、2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件が良い例といえるでしょう。
不満が暴発的なテロで終わらず、リアルの運動になってIS(イスラム国)のような巨大な組織になっていくためには、強いリーダーが必要であり、組織をゼロからつくりあげることが必要であり、組織を運営していくための資金が必要です。
リーダーや組織や資金をつくるためには、不満だけでは不足しています。不満をすくいあげてひとつにまとめていくための「求心力」が必要なのです。「現代は人々が孤立して、共同体から切り離されている。だからそういう人たちは容易に排外的な運動にはまりやすい」というような俗説がよく語られます。しかし孤立している人たちを集めて街頭に立たせるのはそんなに簡単ではありません。だからいま排外運動が盛りあがっているとすれば、それは経済的不満が原動力ではありません。文化的な理由があり、それに年齢や職業や生きかたを越えたさまざまな層の人たちがつながっていくための求心力があって、運動になるということなのです。
では日本のネット右翼はどうなのでしょうか?
【第336号の目次】
・「ネトウヨ」は「しんどそうな人たち」ではなく新しい政治勢力である
~戦後のメディアと政治の構造から、新しい右派の誕生を分析する
・英語キュレーション
・今週のキュレーション
著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年生まれ。早稲田大政経学部中退。1988年毎日新聞社入社、1999年アスキーに移籍。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。博覧強記さかつ群を抜く情報取集能力がいかんなく発揮されたメルマガはメインの特集はもちろん、読むべき記事を紹介するキュレーションも超ユースフル。
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