Agenda
秦野和浩氏(以下、秦野):株式会社リニカル代表取締役の秦野和浩です。本日はよろしくお願いします。さっそくですが、2026年3月期第2四半期決算説明会を開始します。
はじめにアジェンダです。会社概要、2026年3月期第2四半期の決算内容、経営戦略についてお話しします。
会社概要
会社概要です。当社は新大阪に本社を構え、国内では東京・汐留にもオフィスを展開しています。
最近、他社がサイバーアタックを受けて業務が停止したというニュースをよく目にしますが、当社は国際的に承認されている情報セキュリティマネジメントシステムであるISMSに基づき、ISO/IEC 27001認証を保有しています。
この認証は本社だけでなく、全子会社で保有しており、情報セキュリティにおいては非常に高いレベルを維持していると考えています。そのため、現時点で個人情報が外部に漏れるようなことはないと見込んでいます。
当社は2005年に設立されました。当時、私は藤沢薬品工業社に勤めていましたが、同社が山之内製薬社と合併したのが現在のアステラス製薬社です。私たちはアステラス製薬社には合流せず、約20年間にわたり培った新薬開発のノウハウを活用し、CROとしてリニカルを起業しました。
経営理念の実践
経営理念で最も重要なのは、プロフェッショナルとして質の高いサービスを提供することです。そして、ステークホルダーである製薬会社、医療機関、患者、株主、従業員の幸せを追求することを掲げています。
リニカルの3つの事業
当社の主な事業についてご説明します。当社の事業は3つの柱から構成されています。
1つ目はCRO事業です。これは新薬をヒトに投与してデータを収集し、その後、承認を受けるという臨床試験に関連する事業です。
2つ目は育薬事業です。薬は承認を得たら終わりではなく、その後も副作用を定期的に報告したり、販売促進のための臨床研究を行ったり、また臨床試験では不足していたデータを補う臨床研究を行ったりする必要がありますが、それらを担っています。
3つ目は創薬支援事業です。この事業では、市場分析、薬事および開発戦略、販売提携先の選定・締結などをトータルでサポートしています。
特に、外資系企業が日本市場に進出する際、例えばPMDAや厚生労働省の連絡先すらわからない状況では、いきなり参入するのは不可能です。そこで当社が間を取り持ち、市場分析や開発戦略の立案など、その医薬品を日本で展開できるよう支援しています。また、日本および欧米での開発も含めて対応しています。
日本発グローバルCRO
当社は日本発のグローバルCROです。大手の中には海外に子会社を持つ会社もありますが、当社の場合は、海外事業の規模が国内事業よりも明らかに大きいことが特徴です。この点については、後ほど詳しくご説明します。
まず、北米では米国とカナダで展開しています。中南米・ラテンアメリカ地域については提携パートナーと協力しています。
欧州ではドイツ、UK、オランダ、チェコ、スペイン、スウェーデン、フランス、イタリア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニアに直接オフィスを設置しており、各地に直接雇用の従業員を擁しています。また、ポルトガル、ノルウェー、スロバキア、デンマーク、オーストリア、ベルギー、スイスについては、パートナーを活用して臨床試験を行っています。欧州各国は国土が非常に狭いため、隣国であれば、EU内で大阪から東京に出張するような感覚でマネジメントを行っています。
APACの対象国は日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、インド、オーストラリアとなっています。
なお、インドには「リニカルインディア」が存在するわけではありません。インドにはマネジメント会社があり、その中に「リニカルインディア」を設立してもらっています。これは当社にとって孫会社のような位置付けですが、正式には米国子会社内の1オフィスという位置付けです。
トータルでは、約30ヶ国でワンストップのグローバル試験を受託できる体制が整っています。
業績推移
業績推移です。COVID-19以降、一時は回復しましたが、ドラッグロスの影響や、後ほどご説明するトランプ政権下でのFDA(米食品医薬品局)業務の滞りにより、非常に苦しい状況が続いています。これに伴い、プロジェクトの中止や中断が発生し、直近の1年から2年はどん底を味わっている状況です。
地域別売上高比率、従業員比率
冒頭でお伝えしたとおり、売上比率は日本国内が33パーセントである一方、北米・欧州・アジアは67パーセントと海外比率のほうが上回っています。従業員の比率では、全体の55パーセントが海外です。
日本国内の売上比率と従業員比率に相違があるのではないかとのご指摘もありますが、日本には本社機能があり、海外のマネジメントを行う役割があります。また、日本の場合は、テクノロジー面で米国に比べて劣っている部分があり、どうしても労働集約型にならざるを得ない状況です。そのため、日本の従業員数が売上比率に比べて若干多くなっています。
国内バイオベンチャー 事例1 既存顧客:再生医療(iPS細胞由来)
昨年はアルツハイマー病の治療に関して、最新の技術として、抗体を使ってアミロイドβやタウを脳内から排出する方法についてお話ししました。今年は、みなさまに注目されているiPS細胞(万能細胞)を活用したさまざまな取り組みについてご紹介します。
スライドには「Heartseed」社と記載していますが、再生医療等製品「ハートシート」など、名前の似た再生医療技術と混同しないようご注意ください。Heartseed社は、心臓細胞を復活させることを目指しています。心筋梗塞を発症し、心臓細胞が死んでしまうと二度と元に戻りません。これは非常に重大な問題です。
Heartseed社は、iPS細胞から作成された心筋細胞を心筋球という塊にし、それを壊死した心筋に注射で打ち込むという技術を用いています。これによって、新しい心筋細胞が生まれ、心臓が再活性化するという画期的な技術です。
Heartseed社が新規上場のために提出した有価証券報告書の中で、「開発業務委託機関であるリニカルの支援を得て治験実施中です」と当社の名前を具体的に記載していただきました。そのため、ここで社名を明示しています。
具体的な取り組みとしては、戦略の策定や開発薬事、PMDA相談、プロトコルの作成などが含まれます。また、臨床試験の実施におけるモニタリング、統計解析、データマネジメント、安全性管理、監査、さらに治験に使用される治験製品の輸送、外部検査、検査画像の管理など、これらすべてをリニカルで取り扱い、試験を実施しています。
国内バイオベンチャー 事例2 潜在顧客:遺伝子送達医薬品
もう1つ、最近興味深い話があります。Gene Therapy、いわゆる遺伝子療法について、みなさまも耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。
我々も遺伝子を送達する医薬品、いわゆるDDS(ドラッグデリバリーシステム)を活用することに注目しています。このようなプラットフォームを持つ海外のベンチャー企業にプライオリティを置いて、営業活動に取り組むよう指示しています。
1つの例として、ヘルペスウイルス由来のベクターと呼ばれる遺伝子送達技術があります。ヘルペスはみなさまもご存じのとおり、体調が悪くなるとすぐに発症することがあるかと思います。これはヘルペスウイルスの中に正常な遺伝子を組み込みベクターが感染することで異常な遺伝子が正常な遺伝子に置き換わるという技術です。
逆の利用方法もあります。例えば、肺がんのようにがん細胞が自己と認識され、ナチュラルキラー細胞などの免疫により攻撃されない場合です。ベクター技術を用いることで、がん細胞に非自己と認識されるような遺伝子を送り込むことにより、ナチュラルキラー細胞が「がん細胞を破壊せよ」と指示を受け、がん細胞の破壊を促します。このようなベクターと呼ばれる仕組みを用いた治療法が、現在急速に拡大しています。
ある企業では「ディバーシファイドプラットフォーム」と呼ばれる技術を活用しており、さまざまなベクターや装置を組み合わせて、従来の薬剤を病変部位に付着させる技術を保有しています。また、昔ながらの方法として、大腸菌を用いたベクター輸送技術を開発している企業も存在します。
本日も早朝から全世界で会議を行いましたが、このような技術を進める数社から接触を受けたという話がありました。まだ打診の段階であり、具体的な動きは確認できていませんが、遺伝子を活用して薬剤を送達する治療法は、今後非常に有効であると考えられ、注目すべき分野であると思います。
連結業績
2026年3月期第2四半期の決算についてご説明します。現状、昨年を大きく下回っており、非常に厳しい状況にあります。
最大の要因は、先ほどお伝えしたFDAの業務停止です。具体的には、米国内で飛行機の運航が制限されているほか、多くの移民が押し寄せて入国が困難となっています。それに伴い、FDAのスタッフが大量解雇、もしくは退職した影響で業務が滞り、大きな影響を受けています。
当社の場合、はじめに営業を行い、その後、RFP(Request for Proposal)を受領します。これに基づき、プロポーザルを作成し、提出します。その後、Bid Defenseと呼ばれる競争入札が行われ、競争入札に勝つとVerbal Awardというかたちで受注します。そして、契約書に署名するとContract Signedという状況になり、当社の受注残高に反映されます。
Verbal Awardの段階で止まっているプロジェクトだけでも数千ミリオンUSドルあり、さらに、プロポーザルを提出しているものの、Bid Defenseの開催が未定のプロジェクトが数本あります。私が手作業で確認しただけでも5本から6本の案件があり、これらが動き出さない限り、非常に厳しい状況です。
特に、Verbal Awardを得て契約締結の段階に入っているプロジェクトでは、FDAからのストップにより審議が進められていない案件があります。これが早期に解決しないと、浮上のきっかけをつかむのが難しい状況です。
もともと、米国から入手した情報として「2ヶ月程度遅れる」という話がありましたが、現在は「1月から徐々に動き出す」という話になっています。そのため、我々の順番がいつ回ってくるのかが今後の大きな課題になると考えています。
地域別業績
地域別の状況です。日本は少しずつ回復してきています。これは、海外の会社から日本での治験を打診され、それが動きつつあるためです。
一方で、米国は最も厳しい状況にあり、まったく動けていません。欧州については若干復活の兆しが見られます。ただし、米国で行われている試験の多くが欧米試験であり、先ほどお話ししたVerbal Awardで止まっている案件の中には、欧州での売上が見込まれていたものがかなり含まれています。
韓国では、政権交代の影響もあって、徐々に回復傾向が見られます。台湾と中国については、一時の最も厳しい状況を抜け出しつつあり、日本から台湾、米国から台湾、日本から中国、米国から中国へと試験が増加してきています。米国のFDAがさらに動き出せば、完全回復が見込めるのではないかと予測しています。
地域別業績概要
地域別業績の概要です。日本においては増収となり、赤字を縮小するため一生懸命に手を打っているところです。特に国内企業からの案件数自体は大きく変わらないものの、赤字を埋めるためには、先ほど述べたように海外企業から日本に試験を誘致する必要があります。
ご存じのとおり、ドラッグロスと呼ばれる課題があり、これがなかなか解決に至っていません。厚生労働省も努力を続けていますが、最初の一歩となる部分が進展せず、課題が残っているように感じます。
例えば、韓国や台湾では、FDAに申請したグローバル向けの資料をそのまま国内申請用として使用することができます。しかし、日本では日本語に直さなければならないという問題が存在します。
日本、欧州、米国が主導して「International Council for Harmonisation」というルールを決定したにもかかわらず、日本ではいまだに申請資料を日本語に翻訳するよう求められるケースがあります。数万ページにも及ぶ資料を翻訳するのは非常にナンセンスであり、こうした点については早急に解決してほしいと考えています。
一方で、超希少疾患と呼ばれる極めて稀な疾患に関する場合、海外のデータを基に、日本では臨床試験をスキップして承認できるという、一歩先を行く対応も見受けられます。また、グローバル試験において、モンゴリアンのデータがある場合には、従来の日本で必須とされていたフェーズ1に付属する薬物動態試験について、条件によっては実施をスキップできるという若干の進歩もみられます。
しかし、もう1つの大きな課題である複雑な薬価の問題については未解決であり、日本におけるドラッグロス問題が早急に終息する兆しは見えない状況です。そのため、海外から日本に試験や案件を誘致することに注力する必要があると考えています。
米国では何十ミリオンUSドルもの業務が停止しており、現状では手の打ちようがありません。FDAによる試験計画審査の遅れについては、1月から徐々に回復すると言われており、現時点ではその回復に期待するしかない状況です。
欧州では若干の増収傾向にありますが、欧米での試験において、米国側が動かないと欧州のEMAと呼ばれる組織も対応が進まない状況です。そのため、試験期間の延長などが発生していますが、赤字は今後縮小していくと見込んでいます。ただし、これもFDAの動向に依存しており、FDAが早急に業務再開を許可しない限り、急速な回復は見込めない状況です。
一方で、FDAが急速に回復すると、数十ミリオンUSドル規模の仕事が動き始め、当社の受注残高が一気に上積みされることが見込まれます。そのため、来期あるいは第4四半期から回収が始まる可能性があります。現在、数本のプロジェクトで3月から売上が見込めるのではないかと予測しています。
地域別受注残高の状況
地域別の受注残高についてです。日本は若干増加しています。特に、前述したようなベクター技術を持つ会社を日本に誘致したいと考えています。
プラットフォームの会社は非常に有利で、製薬会社が新規の物質を見つけて開発するような事業形態とは異なります。従来品をベクターに乗せて治療に使用することで、パイプラインが一気に広がる可能性があります。そのため、こうした受託業務を早急に進める必要がある状況です。
また、オーストラリアに設立した拠点が徐々に稼働し始めています。現在手元にある案件には、日本企業から受託したものもありますが、米国、欧州、アジアから試験を受託しています。
さらに、欧米を含む大型の国際共同治験の受注に注力したいと考えています。これらの市場は非常に大きく魅力的ですが、FDAの停止が非常に残念な状況です。現状、中止やキャンセルが月に約20ミリオンUSドル発生しています。一方で、受注の見込みとして5ミリオンUSドルから6ミリオンUSドル程度がVerbal Awardの状態で進んでいます。
月に20ミリオンUSドルの中止・キャンセルがあるということは、年間で240ミリオンUSドルという莫大な損失です。競争は非常に激しい状況であり、その中でさらに自社の強みを築いていく必要があります。今後の施策については、後ほどお話しします。
アジアについては、韓国は依然として厳しい状況が続いています。当社はスペインにのみデータセンターを持っていましたが、時差の問題で、使い勝手が非常に悪いとの指摘をAPACのスポンサーの方々から受けたため、現在は韓国にアジアのデータセンターを設置しています。これにより日本、中国、台湾から多くの案件を受けるようになり、今後さらに増えていくことで、韓国も復調するのではないかと考えています。
台湾については中国と類似した状況です。ただし、台湾国内でマーケットを開拓する話には、なかなか至りません。その理由として、台湾の人口が約2,500万人であることが挙げられます。そのため、台湾では基本的に米国市場を目指して臨床試験を進める状況にあります。
現在、台湾のスポンサーが米国で実施する臨床試験が数件進行中です。ただし、時差があるため、当社の台湾子会社がマネジメントするというビジネスモデルです。これが徐々に動き出しており、現時点ではまだ大きく成長する段階には達していませんが、黒字化は安定しつつあると思います。
通期予想
今回、通期予想を下方修正した結果、売上高は93億円程度になる見込みです。米国が再稼働しない限り、厳しい状況が続くと見ています。
(参考)のれん残高と残存償却期間(2025/3期末)
のれんについてです。韓国に関してはすでに処理が完了していますが、欧州・米国ではのれんがけっこう残っている状況です。なお、欧州を買収した際に銀行から借り入れた資金については、すべて返済を終えました。
成⻑戦略
成長戦略についてお話しします。まず、サービスを拡大しつつ収益性を向上させる組織体制を構築します。今後はAI時代への対応や、労働集約型モデルからの脱却が当社にとって非常に重要な課題であり、これらの分野に積極的に投資していく計画です。
また、クライアントへのきめ細かな提案力を強化し、大手グローバルCROとの差別化を図ります。さらには、AI、IoTなどのデジタル技術を活用し、効率化を推進するとともに、利益率の向上を目指していきます。
成⻑戦略_ガバナンス
ガバナンスについては、各拠点のコミュニケーション力の強化に取り組みます。当社の事業構造上、どうしても時差が課題となります。日本の朝7時は米国では夜7時、欧州では夜中です。そのため、コミュニケーションの強化を図り、各拠点が協力できる体制を構築することで、さらに成長できると考えています。
また、人材の確保・育成も非常に重要です。特にAIやITの分野で優秀な人材を確保し、採用した人材の下にさらに優秀な人材を配置して、教育を進めていきます。そして、インターネット社会でしっかりと活躍できる体制を作ることを目指しています。
さらに、サービス間での協業にも取り組んでいます。モニタリング業務に加え、創薬支援やデータマネジメントなど、一連の流れがスムーズに動くように進めていきたいと考えています。
成⻑戦略_営業
営業力の強化については、グローバルでの営業が非常に重要であると考えています。特に米国における莫大な案件に対応するため、米国を中心に当社の子会社が試験を獲得できる仕組みをしっかりと構築する必要があります。
また、顧客ごとの営業戦略も非常に重要です。新興製薬会社には新しい物質を見つけるというニーズがある一方で、薬物輸送やDDSプラットフォームを提供する会社へのプライオリティを高め、営業戦略を充実させていくことが求められています。
さらに、グローバル営業人材の育成として、日本から数名の社員を米国に出向させ、優秀な営業人材になるための勉強を進めているのが現在の状況です。
成⻑戦略_ IT投資
今後、IT投資が当社の重要な要素になっていくと考えます。デジタル技術を活用した臨床試験の効率化は非常に重要であり、労働集約型の作業からの変革を図っていきたいと考えています。
具体的には、AIの活用を当社の米国子会社ですでに進めており、いくつかのプラットフォームを利用して、各医療機関とのスタートアップのプロセスをAIで実施しています。
また、SDV(ソースデータベリフィケーション)、つまりカルテとデータが一致しているかを確認するプロセスについても、リスクベース手法を用いて、どこにリスクがあり、どこを確認すべきかをAI技術で抽出する仕組みをすでに進めています。
その他の分野においても順次AIを取り入れ、これまでの労働集約型からの脱却を目指しています。そのため、当社ではテクノロジーと臨床開発の両方に精通した、大谷翔平選手のような二刀流の人材を探し出す必要があると考えています。このような人材を見つけることは非常に難しいですが、なんとか探し出したいと思います。
ちなみに、冒頭で触れたISO/IEC 27001認証については、実際にはわずか半年程度で進められ、セキュリティに関しても米国における有数の人材が中心となりスムーズに対応しました。その結果、大きな問題もなく承認を取得することができています。このことから、米国には優秀な人材が必ず存在すると考えており、二刀流人材の確保に努め、次世代の育成にも励みたいと考えています。
また、各ファンクションにおけるDXの推進として、グループ全体で統一したツールを積極的に導入していきます。
さらに、協業関係の強化として、DCTやAIに必要なパートナーとの連携を強化していきたいと考えています。現在、パートナーは数社に選別され、これからさまざまな契約が進んでいく段階です。
臨床試験におけるAIの活用
試験におけるAIの活用については、スライドに記載の内容がCRO内で進行中です。試験デザイン策定では、AIモデルが試験文書や膨大な論文を読み込み、その情報をプロトコルに反映していきます。
症例登録では、AIが各医療機関に存在する膨大な患者データを把握し、例えば「この病院に行けばこれだけの症例数が獲得できる」といったかたちで、症例獲得を迅速化する仕組みを提供します。データアナリシスでは、AIが膨大な試験データを分析し、投与の段階で副作用が発生するパターンを推測します。
リスクモニタリングでは、リアルタイムで臨床試験のデータをモニタリングし、安全性に関するアラートを発する仕組みを構築しています。レギュラトリーでは、AIが不整合やその他のエラーをチェックし、規制遵守をサポートします。
今後は、これらの仕組みをしっかりと社内で運用できるようにする方針です。これにより労働集約型の業務を回避することで、成長戦略が明確になっていくと考えています。
質疑応答:資本コストや株価を意識した経営方針と今後の期待感について
司会者:「東証から資本コストや株価を意識した経営を実現するよう上場企業へアナウンスがありますが、中期経営計画の策定をはじめ、現状の経営陣のIRの姿勢には改善の余地があると考えています。株価が低迷している中、どのように改善していくかを提示してください。御社が業績により結果を出していく方針であることは理解していますが、現状として結果が出ていない中で、どのように株主に納得感のある期待を抱かせていくのでしょうか?」というご質問です。
秦野:資本コストおよび株価を意識した経営方針や中期経営計画の開示については現在検討中ですが、まだ最終的な結論には至っていません。しかし、デジタル技術を活用した開発業務の効率化や労働生産性の向上が非常に重要であると考えています。具体的には、労働集約型の業務を避け、生産性を向上させることが重要です。
株主のみなさまにどのような期待感や納得感を持っていただけるかについては、まずは米国市場が動いてくれることで、当社としても十分に期待感を抱いていただける施策になると考えています。そのため、営業体制の強化を進めるとともに、さまざまな海外企業とのコラボレーションを通じて、海外企業からの受託を拡大していきたいと考えています。
質疑応答:細胞・遺伝子治療の開発状況と今後について
司会者:「細胞・遺伝子治療については、一部の製薬企業で開発中止や延期を進めている動きがありますが、その背景と今後の見通しについて教えてください」というご質問です。
秦野:ベクターを使用する分野では、多くの製薬企業やベンチャーバイオテック企業が失敗を経験していると思います。しかし、10月末にベクターを用いた超希少疾患に対する治療として、日本で4例ほど投薬され、そのデータを基に米国と日本で承認を受けている企業がすでに存在します。
当然、トライアルアンドエラーは繰り返されると思いますが、このような遺伝子治療では、特にHSVベースのベクターを用いて局所的な疾患や超希少疾患に対処して承認を取得しています。このような成功事例が今後さらに増えていくと思います。
また、心臓領域の再生医療については、再生医療等製品「ハートシート」はデータが思わしくなかったという話をテレビで見た記憶があります。一方、当社が取り組んでいるiPS細胞を用いたHeartseed社のプロジェクトは順調に進んでおり、先日も朝の情報番組で取り上げられ、さらに日本経済新聞などにもいくつか記事が掲載されている状況です。したがって、工夫と手法が非常に重要だと考えています。
1社に特化することは失敗のリスクを伴いますが、複数の企業と関係を築くことで、そのリスクを軽減できるのではないかと考えています。かつてベクターを使った治療法が次々と失敗に終わった時代は、すでに終わったのではないかと感じています。
質疑応答:外部環境による影響について
司会者:「米国ではバイオベンチャーへの投資が軟調で、ワクチンに対する投資も減少していると理解しています。足元ではFDAの問題以外に、外部環境で御社に何か影響が出ている事項はあるのでしょうか?」というご質問です。
秦野:外部環境による影響は明確にあります。それは政府補助金が停止していることです。当社の試験受託までの手順の中で、営業活動によりRFPを入手し、プロポーザルを作成して提出する過程で、Bid Defenseが行われる際に、複数の企業からファンディングの問題が提示されました。そのファンディングの内容を見ると、多くが資金調達に関連しており、その中には政府補助金をあてにしているケースが見受けられます。そのため、これが動き出さないと影響が出ると思います。
質疑応答:中国での営業戦略について
司会者:「中国では、製薬会社やバイオベンチャーの開発が活発化していると理解しています。御社における中国戦略について詳細をお聞かせください」というご質問です。
秦野:中国では1ヶ月から2ヶ月ほど前に、営業担当者を採用しました。今朝もオンライン会議で話しましたが、英語が非常に流暢で、営業力があり、中国の企業ともスムーズにコミュニケーションが取れています。現在、彼は中国の各企業を訪問してくれており、おそらく早い段階でRFPが出てくると考えています。
また、武田薬品工業社のプレスリリースでは、中国のバイオテック企業が進めるプロジェクトについて、グローバルで展開していくというニュースもありました。もちろん、我々も中国のバイオテック企業を今後のターゲットとして注力していきたいと考えています。
一方、中国だけに限らず、医薬品開発においてはFDAの見解が最も重要と言えます。そのため、FDAの見解を得るには、米国での臨床試験が必要になると思います。このような背景を踏まえ、中国で採用した営業担当者には、中国発の米国を含むグローバル試験の獲得に注力してほしいと期待しています。
質疑応答:米国でのビジネス停滞の見通しについて
司会者:「トランプ政権は米国内での医薬品製造を求めて100パーセント関税をかけています。臨床試験に障害が生じているならば、いずれその障害を取り除くような政策がとられそうにも感じるのですが、米国内での御社ビジネスの滞りはどの程度先まで続くと見ていますか?」というご質問です。
秦野:医薬品製造についてはスポンサー側の責任となりますので、当社が直接関与することはありません。ほとんどの場合、企業は米国で成功するとCMOと呼ばれる受託製造会社に製造委託を行います。そのため、米国で製造することが一般的です。
つまり、自社で工場を設立して供給するか、CMOを利用して供給するかの違いだけであり、このことが医薬品開発に大きな悪影響を及ぼすことはないと思います。それよりも、FDAのコンサルテーションが非常に重要であり、これが進まなければどうしようもない状況だと考えています。
質疑応答:最恵国待遇の導入によるドラッグロスについて
司会者:「米国の最恵国待遇(MFN)価格政策に関して、米国の製薬企業が日本での新薬導入にさらに慎重になって、さらなるドラッグロスにつながる可能性がありますが、現時点でそのような話が顧客とのコミュニケーションで出てきているのでしょうか?」というご質問です。
秦野:当社の顧客との間では、なかなかMFNについて話題に上がることはありません。先ほど、ベクター技術を持った会社が日本でも承認を取得したとお伝えしましたが、米国でも承認を取得しています。この会社は米国の企業ですが、欧州では現在EMAに申請中です。
さらに、この会社はすでに日本子会社を設立しています。今後、日本でもベクターを利用した臨床試験を行い、承認を取得しながら積極的に展開していこうとしているように感じます。
また、これは確か米国の会社だったと思いますが、1週間ほど前に慢性閉塞性肺疾患あるいは喘息関連の薬で日本での開発に成功し、承認申請が通過したという話がありました。米国でも承認申請を取得したそうです。それに伴い、日本でMRを100人採用するという記事も出ていました。
このように考えると、円安を背景に日本での事業展開を積極的に進めようとしているバイオテック企業が増えてきているのではないかと思います。ご質問の意図とは逆の答えになっているかもしれませんが、感覚としてはこのとおりです。
質疑応答:来期以降の配当方針について
司会者:「御社は有価証券報告書上で、業績を勘案した安定的な利益還元を配当政策ポリシーとしていますが、前期の1株16円、総額3億6,000万円の配当を来期以降も継続することは、現状の業績に鑑みると継続性が懸念され、減配の可能性が高まっているようにも感じます。来期以降の配当方針を教えてください」というご質問です。
秦野:減配の可能性が完全にゼロであるとは言い切れませんが、原則的な考え方は従来どおりです。