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JAは本当に「悪役」か?米価高騰でも農家が儲からない“中抜きシステム”の闇と政府の思惑=原彰宏

コメ不足と価格高騰で起きている「令和の米騒動」。その渦中でJA全中会長が放った「今のコメの価格は決して高くない」という発言が、国民の猛反発を招きました。しかし、この騒動の裏側には、農家・JA・政治の複雑な利害関係が絡み合っています。市場価格が4,000円を超えても農家の収入は変わらず、儲かるのはJAだけです。金融事業で農業事業の赤字を補填し、准組合員が正組合員の2倍という実態があります。果たして守るべきは日本のコメなのか、それとも既得権益なのでしょうか。令和の米騒動から見えてくる日本農業の構造的問題を徹底解剖します。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2025年6月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

「令和の米騒動」…悪役は農協?

コメ不足や価格高騰によって発生した「令和の米騒動」で、どちらかというと「悪役」にされているのがJA(農協)の存在です。

そのトップであるJA全中会長の、「今のコメの価格は“決して高くない”」発言は、一般庶民の感情を逆なでするものとなり、ますますJA(農協)は“ヒール”扱いされるようになりました。

でも、コメの市場価格高騰をもう少し冷静に考えた場合、それぞれの立場によって見える景色が違ってきます。

生産者側と、消費者側…。
農家からすれば、コメは高く売れるほうが望ましい。
消費者からすれば、コメは安く買えるほうが望ましい。

JA全中会長の発言は、その立場から、生産者の意見を代弁したとも取れます。

でも農家がJA(農協)に納めるコメの代金は、「概算金」としてJA全農から前払いされています。

概ね1等米60Kgあたり、1万6,000円〜2万2,000円程度とされています。5Kg換算だと1,333円から1,833円になります。「等米」とはコメの品質等級を表す言葉で、整粒割合(整った米粒の割合)や水分量、被害粒の割合を基準として4等米(規格外)にまで分類されます。“1等米”が最高です。

「概算金」とは、販売委託を受けた農協が生産者へ渡す“前払い金”のことで、販売を取りまとめるJA全農が各農協に支払う「JA概算金」を示し、各農協がそれを基に、実際に生産者に支払う「生産者概算金」を決めます。

市場価格が4,000円を超えていますから、市場価格が高騰することで、農家の実入りには関係ありませんが、JA(農協)の儲けが増えるということになります。

いま話題になっている備蓄米も、すでに買い取って備蓄しているものですから、市場で1,800円台で取引されようが3,000円台で取引されようが、生産者である農家にとっては、何ら関係はありませんからね。

JA(農協)を通さない「農家直販」という販売ルートもあります。

確かに、農家が販売する際にJA(農協)を利用するのは、販路を確保し、売れ残りリスクを軽減できるメリットがあります。

JA(農協)経由の販売は、農家にとって安定した販売ルートとして役立ちます。

しかし、農家が消費者に直接商品を販売する農家直販は仲介業者を挟まないため、農家は中間マージンを抑えられ、より高い収入を得ることができます。

消費者にとっては、新鮮な野菜や果物が手に入り、生産者の顔が見える安心感を得られるというメリットがあります。

しかし現実は、地方の小規模農家、家族経営農家ほどJA(農協)に依存しているところが多く、なにせ“前払い”ですからね。

小規模農家、家族経営農家ほど、直販ルートを切り開く資金力やアイデア力に乏しいと言えます。

ここに、JA(農協)と“あまた”ある小規模農家との強いつながり、しがらみとも言うべき関係が存在するのです。

「『パチンコと風俗』以外、すべて取り扱っています」

ここでJA(農協)の仕組みを説明します。

JA(農協)とはご存じの通り、Japan Agricultural Co-operatives(日本の農業協同組合)の略で、農家の営農と生活を守り、より良い地域社会を築くことを目的とした協同組合です。

相互扶助の精神のもと、さまざまな事業や活動を通じて、農業者の経済的、社会的地位向上に貢献しています。

・総合商社と金融機関が一緒になったもの
・地方農家の人を「ゆりかごから墓場まで」をトータルコーディネートする商社
・どんなに信用がなくても、地方の家族経営農家に年収の何倍もの融資やリースを組んでくれる金融機関

……JA(農協)を表現するものはいろいろありますが「『パチンコと風俗』以外、すべて取り扱っています」というのもあります。悪意を感じますけどね。

Next: JA(農協)はどんな組織?コメ価格高騰の真相が見えてくる…



JA(農協)は、縦割りのピラミッド型の構造になっています。

底辺に位置するのは「地域のJA(農協)」、街中でよく見る「JA◯◯(地名)」といった具合です。

かつて全国に1万以上もあったJA(農協)ですが、だんだん減ってはいるものの、経営悪化で単独で存続できないJA(農協)は近隣のJA(農協)と合併することで、全国JA(農協)の空白地帯は存在しない状況ではあります。

どれほど“へんぴ”な山間・離島であっても、そこに人の営みがあれば、JA(農協)は何かしらのサービスや商品を提供しているのです。

各地域に存在するJA(農協)を束ねている組織は、その役割業務別の3つに分かれます。

<経済事業>

本業とも言える農業関連事業、組合員農家が生産した農産物を農家にかわって販売したり、組合員の営農や生活に必要な資材や物資を供給したりする役割を「経済事業」といいます。これが「JA全農」です。

<信用事業>

次に「信用事業」、組合員からの貯金の受け入れ、生産や生活に必要な資金の貸付、為替の取り扱いを主な事業とし、また、手形の割引、債務の保証、金・国債等の取り扱いも行います。主に銀行業務で、農林中央金庫(農林中金)がこの役割を担います。農林中央金庫は、農業従事者以外に、漁協・森組も会員となっています。「JAバンク」は全国に民間最大級の店舗網を展開しているJAバンク会員(JA・信連・農林中金)で構成するグループの名称です。「信連」とは、JA(農協)の信用事業をサポートする組織です。具体的には、都道府県単位の連合会組織として、JA(農協)と連携して金融サービスを提供したり、JA(農協)の事業運営をサポートしたりします。なんだか天下りの“受け皿”的みたいな、いろんな組織がたくさんあるように思えますね。

<共済事業>

そしてあと1つは「共済事業」、いわゆる「保険」JA共済ですね。病気やケガ、火災や自然災害などのリスクに備えて、組合員が相互扶助の精神で保障し合って、損害を回復し、農業経営と生活の安定をめざそうというものです。

さて、各事業ごとの採算は以下の通りです。

信用事業:黒字
共済事業:黒字
経済事業:赤字

令和5事業年度の内容が、農林水産省のホームページに記載されています。損益計算書によると、以下の通りです。

(令和5年事業年度)
事業総利益:1兆6,298億円
信用事業(銀行業務):6,846億円
共済業務(保健事業):3,697億円
経済事業(購買事業):2,753億円
販売事業:1539億円

部門別損益は以下の通りです。
信用事業:+2,379億円
共済事業:+1,053億円
経済事業:▲1491億円

つまり、農業本体である「経済事業」の赤字を、金融部門である「信用事業」「共済事業」で支えているという構図になっています。

郵便局も、本来の郵便事業を金融部門が支えていましたね。「信用事業」と「共済事業」……外資は欲しくはないですかね。

JAは民間ですので「民営化」という表現はありえませんが、農業に株式会社が参入することに反対している勢力は、外資の参入をおそれているということも強く訴えているようです。でも農業に株式会社参入を拒んでいる本当の理由は、もっと他のところにあるようです。

最後に、JA(農協)に関して触れなければならないことですが、JA(農協)の組合員数は令和5事業年度で1,021万3,000人、前年度に比べて5万9,000人(0.6%)減っています。

毎年、減っているのです。

Next: 膨大な組合員を抱える巨大組織……コメ価格は下がるのか?



JA共済は、農業従事者でなくても契約することができます。農業従事者でなくても、JA共済のバンクで住宅ローンを組むことができます。

農業従事者を「正組合員」、農業者以外を「準組合員」といいます。

令和5事業年度の「正組合員」の数は約385万人、「准組合員」の数は約636万人、正組合員の2倍近くです。

その組合員に対して、役員数は1万3,965人、職員は16万6,761人。減っているとはいえ、これだけの人数を組織としては抱えているのです。

組織を維持するだけでも大変です。そりゃあれだけ“中抜き”をして溜め込まないとやっていけませんわなぁ~。

組織を維持するための過酷なノルマ…

金融が農業事業を支えている……そこで気になるのが「ノルマ」の存在です。
※参考:「もはやパワハラ」JA共済の過酷ノルマ 国の是正策から1年、いまも続く「自爆営業」…職員は訴える<ニュースあなた発> – 東京新聞デジタル(2024年3月22日配信)

JAの「共済事業」、いわゆる保険業務において「自爆営業」なるものがあります。職員が不必要なJA共済の契約を、自腹で結ぶというものです。当然、国からの是正要請は出ているものの、過剰な営業ノルマの強要が今も続いているようです。

金融が農業事業を支えている……「貯金・年金・共済取れるまで回らす事」「数字が全てです」。もはや指示ではなくパワハラです。

そして組織図上、ピラミッドの頂点に位置するのが「JA全中」です。

一般社団法人 全国農業協同組合中央会(JA全中)は、わが国の農業協同組合(JA)が結集した組織です。組織・事業の枠を越えて連帯するJAグループの代表として、協同組合原則にもとづき運営されています。ホームページには「組織理念」として「JA全中は、組合員の願いである農業振興と豊かな地域社会の構築を実現するため、地域・事業の枠を越え、代表・総合調整・経営相談の3つの機能を誠実に果たします。」と書かれています。

「今のコメの価格は“決して高くない”」と発言したのが、JAのトップであるJA全中会長の山野徹代表理事です。ちなみに職員数は158名です。

農業関連事業の「経済事業」について触れておかなければならないことは、高いコストの農機具や肥料などを、農家はJA(農協)から買わされているということです。

「物価高」は、生産者(農家)側にとっては「コスト高」として利益を圧迫し、消費者側は「コスト高分の販売価格転嫁」として家計負担の増大に表れてきます。

農家にとっては、JA概算金が決まっているので、生産コストを下げて利益をあげたいところですが、コメの生産コストがおさえられないでいるのです。

小泉農水大臣が農林部会長に就任した2015年のときに、JA全農が農家に販売する肥料などの生産資材が町のホームセンターに比べて高いことなどを問題視していたという発言がありました。

この発言に、ことの真髄があるようですね。

農業関連の「経済事業」では、家族経営の農家もJA(農協)の機材を買わなければなりません。そのためのファイナンス、ローン付は全部JA(農協)がつけてくれます。なにもかもJA(農協)が面倒を見てくれるのです。

コメを作る、野菜を作ることに関しては“生産から販売”まで、農家の個人のライフプランに関しては“ゆりかごから墓場まで”、JA(農協)が全部面倒を見てくれるのです。

JA(農協)との関係が“がんじがらめ”になっていますね。

Next: 自民党に票が流れる仕組みとは?コメの適正価格はいくらか



農家の戸別所得補償など、自民党は農家を守ってくれます。農家が大規模化してコストカットを図り効率的経営をされたら、そもそもの家族経営農家は減り、農業経営指導をしてくれるJA農協の存在意義が薄らいできます。

家族経営農家の数が、自民党の票の数になります。農業の株式会社化なんて“もってのほか”です。

家族経営の小規模農家 → JA農協 → 自民党

この流れの潤滑油が「自民農林族」議員なのですかね。

2015年の小泉進次郎農林部会長時代の農協改革に関して、その後、JA(農協)から支援を受ける自民党農水族の強い反発もあり、JA全農の株式会社化をもくろんだ農協改革は見送られ、JAグループトップである全国農業協同組合中央会(JA全中)の地域農協への監査権限はく奪といった骨抜き的な改革に終わったところに「JAの闇」を垣間見ることができます。

コメの適正価格はいくらか

今回のことでもう一つ触れておきたいことは、コメの適正価格についてです。

いま話題になっている備蓄米も、すでに買い取って備蓄しているものですから、市場で1,800円台で取引されようが3,000円台で取引されようが、生産者である農家にとっては、何にも関係ありません。

備蓄米の市場への放出は30万トン、日本の年間コメ消費量はおよそ796万トン、ほんのわずかの量なのですが、小泉大臣はこれでコメの流通価格は下がると豪語しています。

何事においても流通価格は「需要と供給」のバランスで決まります。

コメに関しては供給不足による販売価格の高騰が見て取れます。生産調整という農水省の農政政策の失敗が取り沙汰されていますが、流通において目詰まりがあることも指摘されています。

飲食店などが直接農家から買い取っていることで市場にコメが出回らないことや、投機筋が買い占めて価格高騰を狙っているという話もあります。

備蓄米放出で強制的に流通価格を下げることで、投機筋の買い占めているコメを市場に放出させる狙いが、小泉大臣にはあるのかもしれません。

でも市場価格は「需給」で決まります。

「平成の米騒動」と言われたのが、1993年の冷夏による大凶作をきっかけに発生した全国的なコメ不足です。翌1994年に深刻な状態となりました。低温と日照不足による自然災害によるコメ不足でした。

「令和の米騒動」といわれるものは、減反政策や農家高齢化、気候変動による影響など、複合的な要因で需給が逼迫しています。

どちらもコメ供給不足により、コメ価格が高騰しているのは確かです。

その後、2023年の猛暑などでコメの流通量が落ち込み、2024年夏から全国的に品薄状態となり、米価が上昇しました。

「平成の米騒動」のときは、自然災害でコメの供給量が極端に減りました。「令和の米騒動」では、農家側の供給量も減ったのでしょうが、流通の問題で市場に出回る量が減ったことも考えられます。

これがいったん流通の改善や投機筋の動向、直販体制の変化などで、市場に出回るコメの量が増えたらどうなるでしょう。

価格は一気に乱れます。

Next: 政府が守りたいのは、日本のお米か、農家か、消費者か、票田か…



石破総理「5Kg 3,000円台 でなければならない」
小泉新農水大臣「いやいや 5Kg 2,000円台 」

果たして国が市場価格を決めていいのでしょうか。

国がすることは、減反政策によるコメの価格調整ではなく、農家のコメの生産量を増やすことと、流通における目詰まりを調整することではないでしょうか。

農家がコメをどんどん作っても儲かる仕組みを作る、JA(農協)独占の競争力がない世界を守るのではなく、もっと効率的な農業経営を模索して、例えば販路を世界に求める可能性を見出すなどをすることではないでしょうか。

そのためには、農業生産過程における大規模化を模索する価値は、十分にあると思います。

守りたいのは、日本のコメですか。生産者である農家ですか、消費者ですか。それともJA(農協)ですか、集票システムですか…。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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