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東京五輪の費用、当初7000億から3兆円へ。予算も気候も偽って誘致した責任は誰が取るのか

会計監査院が2020年東京五輪関連の支出額が8,011億円に上るとの試算を発表。既に誘致時点での試算額を超えており、さらに全体で3兆円まで増えるとしています。(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2018年10月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

最高責任者はいない? 酷暑・ブラックボランティアほか問題山積

誘致時想定予算の7,000億円が、いつの間にか「3兆円」に…

今月4日、会計監査院は2020年東京五輪・パラリンピックをめぐる国の支出額が8,011億円に上るとの試算を明らかにしました。これまで国は、大会関連予算を1,127億円と説明していますが、なんと現状は7倍以上に膨れ上がっているということです。

驚くのはここからで、このままだと、東京都と大会組織委員会の負担分を合わせると、全体の支出が2020年までになんと3兆円に達すると報じられています。

さ、さ、3兆円ですよ…!確か「コンパクト・オリンピック」とか言ってませんでしたっけ。

以下、2012年7月28日の猪瀬直樹東京都知事(当時)のツイートです。

東京五輪誘致のとき、たしか7,000億円でできると言っていたような気がします。

細かい部分で「なぜこんなに膨れたのか」よりも、もっと大きな部分で考えたいと思います。そもそも数字の桁が違います。計算間違いの度を越えています。見誤るとか、見通しが甘いのレベルではありません。

イレギュラーなことが起こったとか、追加事業が増えたとかのレベルではない数字の開きです。0.7兆円が3兆円ですからね。

最初からわかっていた「確信犯」としか思えません。

なぜ東京オリンピックの予算は3兆円に膨らんだのか

これ、一般企業なら絶対にありえない話で、誘致担当者が「クビ」で済むレベルではないです。誰も責任を取れないでいます。今の段階で、責任を取る話なんてどこからも出てきてはいません。

東京都も国も、東京都民も国民も、皆が「仕方がない」という空気感でいっぱいです。一般企業なら、この事業そのものが中止になる話です。

数字の取り方や中身の問題はひとまず置いておいて、なぜ7,000億円が3兆円にまで膨れ上がったのか。その「心の隙間」を考えてみましょう。

<「オリンピック」だから>

この言葉は、多くの批判を封じ込める「印籠」のようなものです。幕末における新政府側の「錦の御旗」と同じです。「選手のため」と言われると批判しにくい風潮が作られました。

オリンピックの前では、何をしてもよいのでしょうか…。

<誘致しやすいように予算を低めに算定>

競合に勝つためには必要な手段であることは理解はできますが、予算と見積もりと実際の費用とがこんなに違うということは、どう説明できるのでしょう。

Next: そもそも最高責任者がいない?/ほか大会の経費と比較すると…



東京五輪の最高責任者は誰なのか

まず、オンブズマンが機能していないと言われています。

オンブズマンは、スウェーデンで始まった国民に代わって行政活動を監視し、また国民からの行政機関に対する苦情を処理する者のことです。

ただ、この東京五輪・パラリンピック全体の事業に対して、最高責任者が不在であることが驚きです。

2020年の東京大会には、東京都2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会日本オリンピック委員会(JOC)日本パラリンピック委員会(JPC)という4つの団体がかかわっています。

つまり、「誰が最高責任者なのか」はあいまいで、予算が増えようが誰の責任にもならない状態でした。

東京都は、ほかの地方自治体と比べて桁違いに予算が潤沢にあり、経済的な危機意識が希薄だったのではないかという意見もあります。

「知事交代が続き空白期間を生んだ…」「有名人が知事になったから…」。これが費用が膨らんだ理由になるのでしょうか。もうわけがわかりません。

オリンピック・パラリンピックは東京都の問題で、日本全国の関心事ではないというところに、ある意味、盲点があったのかもしれません。

また、当初予算には維持費を考えていないという話もあります。

今までの大会経費は…

運営費の史上最高額は2014年のソチ冬季オリンピックで、約5兆円が投入されました。なかでも交通インフラの整備が最も高く、約3兆円が投入されました。

この大会は、プーチン大統領が国を挙げて世界にロシアをアピールする要素もあり、オリンピックをきっかけに国内のインフラ整備を大規模にオリンピック費用として計上させたことも考えられます。

オリンピック経費に何を見積もるのかは国によって異なるので、一概に横並びに比較できません。楽天証券が「オリンピックの運営費比較」をホームページに掲載しているものを見てみますと…

2014年冬季:ソチ五輪 500億ドル
2008年夏季:北京五輪 430億ドル
2004年夏季:アテネ五輪 150億ドル
2016年夏季:リオデジャネイロ五輪 108億ドル
2012年夏季:ロンドン五輪 104億ドル
2000年夏季:シドニー五輪 66億ドル
2006年冬季:トリノ五輪 36億ドル
2010年冬季:バンクーバー五輪 17億ドル
2002年冬季:ソルトレイク五輪 12億ドル

となっています。楽天証券以外にもいろんなところが同様の比較を掲載していますが、その数字はバラバラで、何を費用に含めるのかで全然違ってきています。

韓国のソチ五輪は新幹線整備費用も含まれているという話ですし、リオデジャネイロ五輪では経費に含ませていないものが多々あるようです。

また、開催後にも予定外の費用が出てくるようで、オリンピック費用は正確に把握できないもののようです。

ただ、東京五輪・パラリンピックに関しては、なぜ、7,000億円が3兆円にまで増えるのか。それなのに、どうして組織委員会は、3兆円ではなく、1.6~1.8兆円で開催できるといまだに言っているのでしょうか。さっぱりわかりません。

猪瀬都知事(当時)は「われわれは45億ドル(約4500億円)の開催準備金をすでに積み立てている。これはキャッシュで銀行にある」と述べていましたね。

東京五輪費用は少なめに、大会開催後の予定収入は多めに…」。これですべての収支を合わせようとしている感じです。

Next: 解決しない気候問題。なぜ誘致の際に「酷暑」と伝えなかったのか…



理想的な気候?

東京都がオリンピック・パラリンピック誘致の際の「立候補ファイル」第1巻の中の「テーマ2:大会の全体的なコンセプト」に以下の記述があります…。

2020年東京大会の理想的な日程

東京での2020年オリンピック競技大会は、7月24日(金曜日)の開会式に続いて、7月25日(土曜日)から8月9日(日曜日)までの16日間で開催し、閉会式は8月9日(日曜日)に予定する。また、パラリンピック競技大会は、8月25日(火曜日)から9月6日(日曜日)までの開催を予定する。

この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である。また夏季休暇に該当するため、公共交通機関や道路が混雑せず、ボランティアや子供たちなど多くの人々が参加しやすい。さらに、この時期は日本全国で伝統的な祭が多く開催される時期であることから、祝祭ムードが漂っている。また、重要な点として、この開催期間は他の大規模な国際競技大会とのスケジュールと重複しておらず、東京においても大会開催に影響を及ぼすような大規模イベントの開催を予定していない。

出典:立候補ファイル第1巻 Tokyo 2020 – 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(PDFファイル)

日本列島が連日猛暑に見舞われているこの時期を、「温暖でアスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」とプレゼンしています。

ちょっと嫌味な表現ですが、温暖で理想的な気候としながらも、国土交通省は2015年から複数回にわたり有識者会議を開き、オリンピック期間中の暑さ対策について話し合ってきました

有識者の話し合いの結果、導き出された答えは、「打ち水のほか、浴衣、よしずの活用など日本ならではの対策を盛り込み、観光PRにも生かす」…というものです。期間限定のサマータイム導入という話もありましたね。

猛暑の真夏に開催せざるを得ない事情

ちょうど今の時期(秋頃)に行われた前回の東京オリンピックと違って、なぜ今回の東京五輪・パラリンピックを夏開催で誘致をしたのか。その背景にはアメリカの事情があると、陸上の元日本代表選手である為末大氏はTwitterで次のように呟いています。

NBCはアメリカの3大ネットワークのひとつです。アメリカのテレビ局の「夏枯れ」対策との指摘もあります。

もっとも日本側としても、東京誘致を確実にするために、7月から8月の間に開催する日程でないと東京にオリンピックは呼べないと認識したうえで、東京は野外で激しい運動ができるような気候ではない(猛暑である)ことを言わないでプレゼンしたのでしょうね。

Next: 「オールジャパン」とは何か? ブラック化するボランティア…



「オールジャパン」って何?

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会が文部科学省に文書を出し、それが都道府県などを通じて、全国の学校にも配布されました。

表題は「2020年東京大会の開催におけるご理解・ご協力のお願いについて(PDFファイル)」です。

その内容は、東京五輪開催中の2020年7月18日(土)から8月10日(月)の期間中は、学校における部活動やサークル活動などの夏季合宿や林間・臨海学校、修学旅行や遠足などの教育関連旅行を自粛して欲しい、つまりは「やめてほしい」というものです。要は、バスが足らなくなるといけないからということです。

文章中には「オールジャパン」で東京五輪・パラリンピックに取り組もうと書かれています。金メダルを作るために、携帯やスマホ、PCなどを積極的に回収しようという動きもありますよね。「都市鉱山」とよばれる金山(きんざん)発掘ですかね。

ブラック・ボランティア

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたボランティアの募集が9月26日から始まりました。

目標は11万人。競技会場や選手村で競技運営や観客のサポートをする「大会ボランティア」が8万人、空港や会場の最寄り駅などで交通案内をする「都市ボランティア」が3万人。前者は大会組織委員会、後者は東京都がそれぞれ運営主体になっています。

2012年のロンドン五輪が約7万8000人、2016年のリオ五輪が約5万人だったそうです。今回のボランティアの多さが際立ちます。

ボランティアの数は、その大会の国民の支持の表れを示すそうです。ボランティア11万人は、東京五輪・パラリンピックは、日本国民に広く支持されていることのアピールでもあるのです。

大会ボランティアは1日8時間程度(休憩・待機時間含む)で10日以上都市ボランティアは1日5時間程度(休憩時間含む)で5日以上活動できることが基本条件となっています。

支給されるのは、ユニフォーム一式、活動中の飲食物、ボランティア活動向けの保険と、1日1,000円の独自のプリペイドカード、それ以外にかかったもの(宿泊費等)は全て自腹です。

ちなみに、2016年のリオデジャネイロ五輪では日本の都市ボランティアにあたる「シティ・ホスト」はリオ市が有償で雇用しており、2018年の平昌冬季五輪では交通費が支給され宿泊施設も用意されました。1998年の長野冬季五輪でも宿泊が必要な県外からの参加者には県が支援をしています。

五輪ではないですが、今夏にジャカルタで開催されたアジア大会では路線バスの無料パスに加え、1日あたり30万ルピア、日本円にして約2300円の日当が支払われたそうです。これは現地の会社員が1日に稼ぐ金額に相当するそうですよ。

これも、東京五輪・パラリンピック経費高騰の「しわ寄せ」でしょうかね。ボランティア保険に関しては詳細はわかりませんが、熱中症対策は万全なのでしょうか…。

Next: 国を挙げてボランティア募集へ。東京五輪はレガシーになりうるのか?



ボランティア募集で国が動くすごさ

2018年7月、文部科学省とスポーツ庁から、国公私立大学長と国公私立高等専門学校長宛てに通知が出されました。

大会期間中に授業や試験を行わないよう授業開始日を繰り上げたり、祝日授業実施の特別措置を学則の変更や文科大臣への届出無しでできること、またボランティアに参加する学生に単位を付与することができると強調しました。

都内大学には、授業や試験日をずらしたり、スポーツボランティア養成講座を設け、ボランティ参加で単位を付与するところもあるそうです。「五輪ボランティアに参加すれば就活に有利になる」という話も出回っています。

中高生に対しては、部活やクラスでの動員による同調圧力が働く危険性の危惧もあり、参加しなければ内申書に響くことを懸念する保護者もいるようです――

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東京五輪にマイナンバーの活用まで?

レガシー(遺産)にお金を使う意義

今週の重要指標&予定

度肝を抜いた世界株大暴落

大暴落の要因はイタリア、中国、米長期金利

債券市場は株式市場よりも賢い

今週の相場シナリオ

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※本記事は、らぽーる・マガジン 2018年10月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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らぽーる・マガジン』(2018年10月15日号)より一部抜粋
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