世界トップクラスの大企業である「Google」(以下・グーグル)といえば、優秀なスペシャリストが集まる企業としても知られています。そんな最強ともいえる人材を確保しているグーグルではどのような基準で採用を行い、どれほどの信頼度の高い面接官が求められているのでしょうか。今回は、グーグル日本法人元代表取締役社長の辻野氏が、日本企業が感じる“採用の行き詰まり”を解決するヒントを語ります。(『 「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』辻野晃一郎)
※本記事は、『「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~』 2023年5月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にご購読ください。
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。著書『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(2010年新潮社、2013年新潮文庫)など多数執筆。
「組織は人なり」に徹底的にこだわるグーグルの採用
「組織は人なり」とはよく使われる言葉ですし、実際その通りです。今いる人材を育成することも重要ですが、その前にもっと大切なのは「入り口」、つまり誰を新たな仲間として加えるかということです。すなわち、「採用」ほど、会社経営にとって重要なことはありません。
しかし、一般的な企業で、採用には一切妥協していないと胸を張れる企業は、ほとんど存在しないのではないでしょうか。その点、グーグルは採用に一切妥協しない、稀な企業の一つと言えるでしょう。
これはグーグルということではなく、シリコンバレー界隈でよく聞く言葉ですが、「Aクラスの人材は、自分よりも優れた人材を求める。Bクラスの人材は、Cクラスの人材を求める」というのがあります。聞きようによっては嫌味に聞こえる言葉ですが、真意は、「一流の人材は、より優れた人材と切磋琢磨して自己の成長を目指すものだが、二流の人材は、自分の立場を脅かされないために、自分よりも劣る人材を好む」といったところです。
二流の人材が三流の人材を求める連鎖のことを、「Bozo Explosion」(無能の連鎖)と呼ぶことがありますが、シリコンバレーの投資家でアップルOBのガイ・カワサキ氏が、以下のビデオでわかりやすく説明しています。50秒程度の短いものなのでぜひ観てみてください。
アマゾンを創業したジェフ・ベゾス氏も「誤った人間を雇うくらいなら、50人を面接したとしても1人も雇わないほうがましだ」と言っています。
中小企業ほど、採用時に慎重な人選を意識するべき
そんなことは人気企業だから可能なんだろう、我々中小零細企業ではそんな贅沢はとても言ってられない、と思う読者の方もいるかもしれません。その気持ちはとてもよくわかります。
でも、人数の少ない企業ほど、このことは肝に銘じておかねばなりません。当然ながら、人数の多い企業よりも一人当たりの比重が重いからです。少なくとも、人を採用するときには、ぜひこの話を思い出していただき、慎重な上にも慎重な人選を心掛けて欲しいものです。
私が在籍した頃は、グーグルの採用基準はシンプルに「GCA」「RRK」「リーダーシップ」「グーグリーネス」の4つでした。GCAは、General Cognitive Abilityの略で、いわゆる「地頭の良さ」という意味です。知識が豊富ということよりも、解が無いような問いに対して、解を導き出していく論理的な思考能力があるか、というものです。
RRKは、Role Related Knowledgeの略で、専門的な知識や実務的な知識、仕事の実績だけでなくボランティア活動なども含めて、これまでどんな経験を積んできたか、ということです。リーダーシップは、チームをまとめていく力だけでなく、課題発見能力や受け身ではなく自律的・能動的に行動できるか、ということです。
最後のグーグリーネスというのは、グーグルのカルチャーがフィットするかということで、特に人とうまくやれるコミュニケーション能力が重視されました。
採用プロセスとしては、最初に書類選考がありますが、完全な学歴主義で、世界中の大学が国ごとにランキングされています。ランキング上位の大学出身で、かつGPA(Grade Point Average)が3.5以上(満点は4)ないと不利だと言われていました。書類選考を通過した候補者は、5人から8人くらいの採用面接官と1:1での面接を重ねます。
その結果、面接官全員から推薦をもらえると、オペレーティング・コミッティ(経営会議)に候補者のパッケージが送られます。そこで最終選考に残ったパッケージに、創業者の一人であるラリー・ペイジ氏がすべて目を通してさらに絞り込む、という流れで決められていました。推薦は歓迎ですが、正規の採用プロセスを経ない縁故採用は禁止されていました。
パッケージというのは、候補者の履歴書や大学での成績証明書をはじめ、候補者を知る第三者からの推薦状、すべての面接官の評価シート、その他、候補者を選考するのに必要なすべての資料を1パッケージにしたファイルです。
大学ランクやGPAが必ずしも良くない候補者には、他に候補者の能力や実績を証明する補助資料(査読論文や受賞歴など)を添付することが推奨されました。
Next: 「できない人」ほど自分より格下を採用する?
自分よりも優秀な人材を採用しろ
私も米国本社に面接を受けに行きましたが、世界中からツワモノたちが集まって来ていて、なんだかプロ野球のトライアウトを受けに来たような気分になりました(笑)。本社の役員連中たちとの丸一日かけた面接ラリーが終わった時には、疲労困憊でへとへとになりました。
ひとたびグーグルに入社すると、今度はすべての社員が採用への貢献を求められます。すなわち、グーグルに入社して欲しい人材を採用部門に推薦したり、さらには、自分自身が面接官となって候補者の採用面談に協力したりしなければなりませんでした。採用活動にどれだけ貢献したかは、その人の査定での評価項目にもなっていました。
先ほど、「Bozo Explosion」の話をしましたが、本社の経営幹部からは「自分よりも優秀な人を推薦しろ」「自分よりも優秀な人を採用しろ」とうるさく言われます。
また、面接官として面接スキルのトレーニングを受けますが、おのずと面接の上手い人とそうでもない人、評価を甘く付けがちの人と、辛く付けがちの人に分かれます。そこで、グーグルでは、信頼度の高い面接官のリストが作られていて(随時更新される)、おのずとそのような人たちに面接の依頼が集中するようになっていました。
1回の面接に当てる時間は原則30分が目安で、面接後48時間以内に面接記録を決められたフォームに英語で入力する必要がありました。時間が経過するほど面接の印象が薄れてしまいますので、優秀な面接官は出来る限り面接直後に記録を入力するようにしていました。
私の場合も、さまざまな部署から採用部門経由で日々何人もの候補者との面接を依頼されました。次第に手慣れていくので、徐々にスピーディに入力できるようになりましたが、最初の頃は、この面接記録の入力はいろいろと神経も使うために、かなりの負担でした。
採用に関するアクションの中で、一つびっくりするようなワーキングセッションがありました。採用部門主催で、まだグーグルに入って間もない人たちが集められ、自分が生れてから今日に至るまでに出会ったすべての人の中から、グーグルに入ったら貢献してくれそうだと思える人のリストを作らされるのです。
そのリストは、後日、採用部門が精査した上で、接触可能な人には片っ端から接触してグーグルに勧誘するために使われる、と聞きました。実際には個人情報の問題もあるでしょうから、あまり大っぴらにはしていないと思いますが、「ここまでやるか」と唸りました。
グーグルという会社をより立体的に理解するために、グーグルの良い面ばかりでなく、ブラックな部分についてもお伝えしていく予定です。一方、別にグーグルの話をするためにメルマガを始めたわけではありませんので、それ以外の話題についてもどんどん取り上げていく予定です。どうぞお楽しみに!
※本記事は、辻野晃一郎氏のメルマガ『「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年5月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に購読を。
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「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~
「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~
』(2023年5月26日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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