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未来を行くなら『ソニー』に学べ。日本の家電産業のように凋落しないために必要なこと=辻野晃一郎

かつて家電の常識や歴史を塗り替えるような画期的なマシンだった『CoCoon(コクーン)』。録画機としてだけでなく、「ソニーが提案する次世代の新しいテレビ」として開発された同機は、現在の”見る側”の常識を作り上げたといっても過言ではない逸品でした。
しかし、かつて栄光の時代を歩んだソニーは、昭和の時代を引きずりながら暗い道を進んでいくことに。今回は、日本の家電産業が凋落していった理由を紐解いていきます。(『 「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』辻野晃一郎)

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※本記事は、『「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~』 2023年7月21日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にご購読ください。なお、2023年7月のバックナンバーはこちらから購読できます。

プロフィール:辻野晃一郎(つじの こういちろう)
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

家電の常識を覆したマシン『CoCoon』はなぜ生まれた?

前回では、日本の家電産業が凋落した要因を外的要因と内的要因に分けて解説しました。そして最後に、私が体験した具体事例の紹介を少ししたのですが、今回はその続きです。
実は、この話は私にとってはあまり思い出したくない話でもあります。また、私が最初に出した著作『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(2010年新潮社/2013年新潮文庫)でも、既にある程度詳しく書いた内容になります。ですから、できるだけ重複が無いように書きたいと思いますが、脈絡を理解していただくためには、ある程度重複する部分も止むを得ないかと思いますのでご容赦下さい。一方、今までどこにも書かなかった話として、私のメルマガを購読していただいている読者の方だけにお伝えする内容も新たに付け加えたいと思います。
アップル対抗の陣頭指揮を頼まれる少し前、私は『CoCoon』や『スゴ録』の開発をしていました。アップル対抗プロジェクトで起きたことを正しく伝えるためには、その前にこの『CoCoon』で起きたことを伝える必要がありますので、まずはその話から始めます。

CoCoon「CSV-EX11」image by:SONY

CoCoon「CSV-EX11」image by:SONY

今から振り返っても、この『CoCoon』は、それまでの家電の常識や歴史を塗り替えるような画期的なマシンでした。これは決して自画自賛ではなく、当時このマシンの開発に携わってくれた、あらゆるエンジニアやデザイナーたちの名誉にかけて、あらためて断言しておきます。
先日、「まぐまぐ!」の特別企画で、マイクロソフトOBで、伝説の日本人プログラマーと言われている中島聡さんと対談する機会がありました。MAG2NEWSの記事やメルマガでも特別号として配信されていますが、対談の合間に彼と雑談しているときに『CoCoon』の話になり、彼も「『CoCoon』は画期的でしたね!」と言ってくれました。また、この原稿に目を通した「まぐまぐ!」の編集者の方からも、「私は当時、AV機器のライターをしていて、録画機についても全社の最新機種を知っていたのですが、CoCoonは本当に衝撃でした。ついにソニーはこっちに舵を切るんだ!と興奮したのを覚えています。従来の録画機の概念を覆す革命的な商品でした」とのコメントをいただきました。

『CoCoon』を知らない読者のために、簡単に説明しておくと、『CoCoon』は「録画機」の範疇で扱われがちでしたが、機能的にはそうであっても、商品コンセプトとしては「ソニーが提案する次世代の新しいテレビ」として開発したものです(ディスプレイは別途外付けです)。従来の単純に放送波を受けて表示するだけの受像機としてのテレビではなく、チューナー以外にCPUやメインメモリ、ローカルストレージ、ネットワーク機能を標準で持ち、Linux OSを搭載し、今では当たり前ですが当時はまだ珍しかったEPG(電子番組表)を活用した、新たなネットワーク家電、コンピュータ家電としてテレビを再定義したものでした。

「バーチャル・チャンネル」「テレビ・オン・デマンド」などの概念によって、ユーザーのテレビ視聴習慣を根本から変え、ユーザーの好みを学習しながら機能が進化するテレビでもありました。放送の送り出し側には何の変更も加えずに、受信側だけの工夫で、疑似的に自分専用の放送チャンネルを作り出すものとも言えました。
好みのキーワードを登録しておけば、それに応じて番組を自動録画してくれ、シリーズ物であれば続きも自動録画してくれます。録画しても一定期間視聴しない番組は消去して、ローカルストレージの空き容量を自動的にコントロールするなどの機能も盛り込みました。

また、ハードウェアだけでなく、専用ポータルも併せて準備して、ファームウェアのアップデートをオンラインで可能にしただけでなく、将来的にはデジタルコンテンツの配信も視野に入れていました。好きな番組についてユーザー同士が交流できる今で言えばSNS的な機能も盛り込みました。ビジネスモデル面でも、従来の単なるハードウェアの売り切りビジネスから脱却して、ハードウェアセールス以外の新たな収益源を開拓していくものでなければならない、と考えていました。

さらには、他の事業部や、あるいは他社からもさまざまなコンピュータ家電、ネットワーク家電が出てくることを想定して、インテルの協力なども取り付けながら、密かに次世代家電の共通プラットフォームの確立を目指したものでもありました。

ソニーの実例から見る日本の家電産業凋落の理由

しかし、開発直後、ソニーの経営幹部の中には、当時のCEOであった出井伸之さんを始め、このマシンの事を正しく理解してくれる人はほとんどいませんでした。出井さんは社長になったときに、「デジタル・ドリーム・キッズ」という新たなスローガンを掲げて、デジタルやインターネットに対して積極的な姿勢を内外に示していました。トリニトロンで連戦連勝を続けてきたソニーの目玉商品であったテレビについても、「コンピュータとしてのテレビ」に変えていかねばならないという考えを、「次世代のテレビにはアーキテクチャ(構造)が必要だ」などという表現で声高に主張していました。

私もこの主張には大いに共感していました。単なる受像機ではない次世代のテレビとは何か?この命題に対する当時の私の答えが『CoCoon』だったのです。

そもそも、「大崎テレビ村」と呼ばれていたテレビグループの大改革のために、VAIOパソコンの事業責任者をしていた私をテレビのグループに強引に異動させた張本人は出井さんでした。VAIOを2年で軌道に乗せたあと、とある社内イベントのパーティ会場で、彼から「VAIOはもういいから次はテレビをやってくれ」と声を掛けられ、実際にその後テレビグループに異動することになったのです。

出井さんが一番の応援団になってくれることを期待していたら、現実はなんとその真逆でした。『CoCoon』の試作機が完成するや否や、真っ先に見せに行った時のことです。諸手を挙げて「よくやった」と言ってくれることを想定し、モチベーションアップにつなげるため、開発を担当した若手エンジニアも数名連れて行きました。
しかし、出井さんの反応はーー
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「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』(2023年7月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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