今回は「紅麹」をめぐる健康被害騒動に揺れる小林製薬を分析します。株価は20%の暴落となっていますが、投資しても良いでしょうか?(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
騒動の発端は2016年に遡る
紅麹は米などで紅麹菌を繁殖・発酵させたもので赤い色をしています。コレステロールの抑制作用や血圧低下、リフレッシュ効果に加え、赤い色素成分にも抗酸化作用があるとされています。
出典:小林製薬 紅麹の成分と作用
紅麹事業は2016年にグンセ株式会社から譲り受けたものです。そして「紅麹コレステヘルプ」を発売したのは2021年でした。
科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品であるものを機能性表示食品と言います。この制度が発足以来、初めて紅麴由来の成分を関与成分として表示したものが、紅麹コレステヘルプです。
しかし、2024年3月22日にこのサプリを摂取した40〜70代の男女13人から、腎疾患などの報告が出ていると発表されました。24年3月29日時点で、5人が死亡、のべ93人が入院していたことがわかっています。
3月26日には、台湾当局が小林製薬の原料を輸入していた4社などに向けて、紅麹の回収指示を出すなど海外にも影響が広がっています。
小林製薬は自主回収を実施、製品を使用しないよう呼びかけており、約30万袋の自主回収などに約18億円を充て、補償を含めた対応も検討している段階です。
また、よくない事に紅麹原料の生産の8割は他社に販売していました。この影響を受けて、宝酒造では紅麹を使ったスパークリング日本酒、松竹梅白壁蔵「澪PREMIUM」の自主回収を発表するなど、業界全体に騒動が波及しています。
3月22日の翌営業日の株価はストップ安です。29日(金)にかけても同じ水準で推移しています。この問題は、株価にも悪影響を与えています。
これが、ここまでの騒動の大まかな流れです。
では、過去に似たようなケースは無かったのでしょうか?良い対応と悪い対応を考えてみましょう
良い対応:ジョンソン&ジョンソンのタイレノール事件
過去の医薬品関連の健康被害問題で、最も優れた対応を行ったのは、アメリカのヘルスケアメーカー、ジョンソン&ジョンソン(以下、J&J)ではないでしょうか?
その健康被害問題とは、1982年に発生したタイレノール事件です。J&Jが製造したアメリカトップシェアの解熱鎮痛剤であるタイレノールを服用した人が、相次いで死亡したのです。
この事件を受けて、J&Jはマスコミを使って積極的に情報公開を行いました。例えば新聞の一面広告や全米85%の世帯が2.5回みた計算になるほど大量のTV放送などの対策を講じました。
また、開発製造に関わる部門やラインを国家の検査機関に全面委託し、その製法の秘密やその他企業機密のすべてを公開するに等しい決定を下します。
結果的に第三者によって毒が混入されたことが判明、本件は薬害ではなく殺人事件であったとされています。
その後、J&Jは自社の商品の安全性を説明するために、営業部隊は消費者や医師に向けてのプレゼンテーションを行いました。なんとその回数は計100万回以上にも登り、その誠実な対応をアメリカ全土に見せつけるかのように次々と施していったのです
全面的に捜査へ協力する姿勢、消費者を守るためのスピーディな行動、事件発覚後のフォロー活動が実り、事件から2ヶ月後1982年12月には、なんと事件前の売上の80%にまで回復したのです。