普段私が取り上げている企業は、やはり皆さんが注目する企業ということになりますが、実際の投資は必ずしもそういった動きにはならないかもしれません。むしろ、多くの人が注目しないところにこそおいしいものが転がっているというのが投資の世界です。今回からシリーズとして、投資家がどのようにして投資する銘柄を選ぶのかをお伝えしたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
人の行く“裏の道”を行くべし
今回は中小型株に注目します。
なぜ中小型株かというと、まさに人が注目していない、あるいは悲観的になっている場所だと感じられるからです。
有名な投資の格言として、「人の行く裏に道あり花の山」というものがあります。
多くの人が注目していないところに宝が眠っているということです。
特に初心者の方が投資先を選ぶときには、やはりどうしてもSNSやマネー誌などで取り上げられる注目企業に目が行ってしまいます。
短期の投資であれば、注目企業の方が変動が大きく面白みもあるかもしれませんが、一方で長期投資では、安く仕込むということが重要な観点となります。
となると、多くの人に注目されて既に株価が上がっている企業に下手に投資してしまうと、反動の下落に巻き込まれる可能性が出てきます。
だからこそ、長期投資家の私たちは多くの人が注目していないところに目を向けるべきだと考えられます。
私の尊敬する投資家の一人にジョン・テンプルトンという方がいます。
彼は『テンプルトン卿の流儀』という本の中で、「人はいつも見通しが明るい銘柄はどれかと私に聞く。だが、その質問は間違っている。本当は見通しが暗い銘柄はどれかと聞かなければならないのだ」と言っています。
つまり、注目されて株価が上がっているような企業ではなく、むしろランキングの下の方にある、株価が下がって全く注目されていない、あるいは悲観的に見られているところから掘り出し物を探すということです。
人の感情というものは“行き過ぎる”もので、良い時は良い方に、悪い時は悪い方に行き過ぎてしまいます。
だからこそ株式市場はこれほどアップダウンを繰り返すわけです。
そう考えると、悲観が溢れているところに注目できれば、お宝を見つけられる、少なくともかなり安い価格で買える確率が上がることになります。
価格が下がっているということは、誰かが売っているということであり、ウォーレン・バフェットの師匠であるベンジャミン・グレアムはこのような言葉を残しています。
賢明な投資家は現実主義者であり、楽観的な人に売り、悲観的な人から買うということを意味しています。
悲観的な人が投げたところをコツコツと拾っていくのが賢い投資家であるということです。
バフェットの動きもこれに倣っているように感じられます。
テンプルトンは日本のバブル前の、日本株がまだ認知されていない時にアメリカから投資先として注目し、バブルにかけての大きな上昇を得ることができました。
中国でも同様に大きく上がる前に投資してかつての上昇に乗れたというところがあります。
テンプルトンの場合は世界を見渡しましたが、日本の中でも様々なセクターを見渡すことが重要になると思います。
セクターローテーション
これは、毎年のセクター別の業績パフォーマンスを年ごとに示している図です。
過去の都市にパフォーマンスが悪かったセクターが、翌年や翌々年にかけて逆に大きな伸びを記録していたりします。
これは「セクターローテーション」とも呼ばれ、良いセクターと悪いセクターは入れ替わっていて、ずっと良いセクター・ずっと悪いセクターは無いということを示しています。
今は例えば半導体が注目されていますが、これから先もずっと半導体が良いということも必ずしもなく、良い時もあれば悪い時もあるというのが相場の特徴です。
【相場の格言】
谷深ければ山高し 山高ければ谷深し
上図の具体的な部分を見てみますと、例えば電気・精密は2018年は-21%と非常に悪いパフォーマンスでした。
それに対して2019年は+37.61%と一気に上位となりました。
このように、ランキングで下位だったセクターが翌年に急上昇することも多く、注目すべきところは上位のセクターよりむしろ下位の方ということになります。
今回はあくまで中小型株についてということですが、この分類は実は曖昧なもので、「東証33業種」のようにはっきりと区分されているものもありますが、実際に投資家が売買する時は必ずしもこの区分に沿った話をしているとは限りません。
例えば私が言う「中小型株」というのも、例えば東証グロースや東証スタンダードに上場している企業ということではなく、「若い企業」や「これまで成長してきた企業」といった同じような特性を持つ企業という大枠の括りになるかと思います。
例えばエムスリーは時価総額で言うととても大きいですが、動きの特徴としては中小型株として扱えるかと思います。
(セクターというよりは)クラスターという分け方の中で、中小型株の特徴を持つ企業が今売られているところです。
はっきりとした分類が無い中でも、一つの指標となるのが「東証グロース指数」かと思います。
これは東証グロース市場に上場する企業の時価総額加重平均のグラフです。
2020年のコロナショックで大きく下がった後は3倍近くに大きく上がりました。
しかし、そのブームは長く続かず、2021年から2022年にかけてものすごく大きく下落しています。
そのどん底から全く這い上がれておらず、直近でもコロナショック以降の最安値を更新しています。
かたや日経平均はバブル期以来の高値となっている時に、東証グロースは惨憺たる状況です。
そこまで経済が悪いわけではない中で、コロナショック時並みに下がっていて、割安感としては非常に大きくなっています。
東証グロース市場に上場している企業が成長して大きくなると、東証プライムに移ることになり、グロース指数にとってはマイナス要因となってしまいます。
良い企業が抜けていってしまうので、「指数」としてはあまり役に立たない面もあります。
一概にコロナショックの時と比べられるわけではありませんが、大きく下がっていることは間違いありません。
実際に中小型株を持っている方はうんざりしているかもしれません。
しかし、そのうんざりしている状況というのは投資において最もチャンスになり得るもので、その中に光り輝くものがあったのなら、次のローテーションが来た時にはポートフォリオを大きく引き伸ばす銘柄になります。
もちろん、その企業がこれからも成長する良い企業であるということが前提となりますが、そこを見極めることが大事です。
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