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コメ不足解消、実は楽勝?米価高騰で露呈した農政の大失敗…小泉農相の「直撃弾」は奏功するか=勝又壽良

小泉進次郎農相の就任により、混乱を極めた米価問題が大きな転換点を迎えている。5月26日、政府は保有米を直接小売業者に売り渡すと発表、玄米5キロ当たり2,000円という意欲的な目標価格を設定した。これまで半世紀にわたって続いた減反政策の限界が露呈する中、2023年の記録的猛暑による不作が引き金となった「令和の米騒動」は、日本農政の根本的な見直しを迫っている。高齢化が進む農業従事者の現実と、エンゲル係数が43年ぶりの高水準となった消費者の負担増。この危機を乗り越える道筋はあるのか。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

小泉農相の「直撃弾」が米価問題に風穴

混乱した米価問題は、小泉農相の登場によって大きく局面転換し始めた。

5月26日には、政府保有米(21年産米や22年産米)を直接、小売業者(年間1万トン以上の扱い業者50社以上)に売り渡すと発表した。最終の小売価格は、玄米で5キロ当たり2,000円見当にするという意欲的目標である。この効果が的面に出て、27日夜には募集を打ち切るほどの盛況である。第2弾は、小規模小売店を対象に再開する方針だ。

これまで、政府保有米20万トンを全農(全国農業協同組合連合会:JA)へ売り渡してきたにもかかわらず、小売価格が値上がりし続ける異常事態は解消しなかった。政府はそこで、随意契約によって小売業者へ直接売り渡す「直撃弾」を投げ込んだ。一連のコメにまつわる混乱は、日本農政の政策手詰まりの結果である。

農水省は、1971年から2017年までの46年、実に半世紀もの間にわたる減反政策によって、生産過剰状態のコメを消費量に合わせて減らし米価を維持してきた。国内の主食用のコメ需要は、人口減を背景に年10万トンペースで減ってきたからだ。農水官僚にとって、減反政策が米価維持の唯一の政策となっていた。

これが、23年のコメ不作によって需要減を前提とした農政の弱点を露呈させた。これまでの「減反による価格維持」政策は、農政の骨格になってきた。ここから「逸脱した」形の政策は論外であった。農水省自らが、コメが足りないと認めることは、半世紀にわたり固守した「減反政策」に反するからだ。こうした硬直姿勢に対して、天候異変で不作になるという、ごく普通の現象を突きつけられた。農政の混乱はここから始まった。

23年の夏は、記録的猛暑に襲われた。日本で3割も作付けされている「コシヒカリ」は、寒さには強いが、暑さに弱い品種である。コシヒカリの主産地は、秋田・茨城・栃木などで、猛暑によって品質低下が起ったのだ。米作の3割が「不作」となれば、日本全体でコメ不足に陥って当然であろう。

農水省は、前述のような事態が起こっていても、コメの供給不足を認めることはなかった。過去の減反政策を拠り所にして、政府備蓄米を大量放出したり、減反の手を緩めたりすれば、コメの生産量が増え、米価が下がると危惧したのだ。農水省にとって、最も重要なのは米価維持という生産者側の論理に立っていた。

ここには、米価の高騰で苦しむ消費者目線はゼロであった。

Next: ただ「米価を下げたくない」だけ。コメ消費者への配慮はゼロ…

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