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金利上昇「銀行株」は今が買い?本当に割安か?決算書に隠された“5つの危険信号”の見抜き方=栫井駿介

ここ1〜2年、銀行株の価格が大きく上昇し、多くの投資家の関心を集めています。ご存知の通り、これは長らくゼロ近辺に抑えられていた金利の上昇期待が背景にあります。実際に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の業績を見ると、15年近く横ばいだった利益が、ここ数年で大きく伸びています。

しかし、この表面的な楽観論だけで投資するのは典型的な「罠」です。銀行の決算書は他の業種の企業とは全く異なり、専門知識のない者にとっては地雷原のようなもの。表面的な数字だけを見て「業績が悪い」と誤解したり、逆に隠されたリスクを見逃してしまったりする投資家は後を絶ちません。

今回は、投資のプロが銀行の決算書を分析する際に注目する、5つの意外な、しかし極めて重要な真実を解説します。これを読めば、決算短信の数字の裏に隠された銀行の本当の収益力とリスクを見抜く力が身につくはずです。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

1.「普通の利益」は信じるな!? 見るべきは「実質業務純益」

銀行の決算短信を見て、まず目につく「経常利益」。しかし、これを一般企業の営業利益と同じ感覚で見ていると、銀行の実力を見誤ります。例えば、最近のMUFGの決算短信では、経常利益が減少しているように見え、「思ったほど業績が良くないのでは?」という印象を与えかねません。

しかし、これは銀行の本当の実力を示してはいません。

銀行の基本的なビジネスモデルは、預金者から低い金利でお金を集め、それを企業や個人に高い金利で貸し出したり、有価証券で運用したりすることで、その金利差(利ざや)を稼ぐことです。本当に重要なのは、この本業でどれだけ安定して「利ざや」から利益を生み出せているかです。

その真実を知るために見るべきなのが、決算短信と同時に発表される「決算説明資料」です。ここには、銀行独自の詳細な損益計算書が掲載されています。そして、私たちが注目すべき最重要指標が「実質業務純益」です。これは、店舗の維持費や人件費などの経費を差し引いた後の、銀行の本業における純粋な儲けを示す数字であり、一般企業の「営業利益」に相当します。

ただし、プロはここでもう一歩踏み込みます。この実質業務純益ですら、国債などの売買による一時的な利益(国債等関係損益)によってかさ上げされることがあるからです。これは本業の利ざや稼ぎとは異なるため、真の基礎体力を測るには、実質業務純益からこの国債等関係損益を頭の中で差し引いて評価する必要があります。これが、銀行の本来の稼ぐ力を最も正確に把握するプロの視点です。

2.「最終利益」は操作可能?隠れたリスクを見抜く方法

決算書の一番下に表示される「当期純利益(最終利益)」も、そのまま鵜呑みにするのは危険です。なぜなら、この数字は銀行の裁量である程度コントロールできてしまうからです。主に、以下の2つの手法が用いられます。

  • 与信関連費用(貸倒引当金)の調整
  • 与信関連費用とは、貸出先が倒産した場合などに備えるための「引当金」です。これは将来の損失に対する「見積もり」であり、銀行自身の判断で計上されます。つまり、銀行が「この貸出先はまだ大丈夫だろう」と判断すれば、費用計上を先送りし、利益を実態より良く見せることができてしまうのです。

  • 保有株式などの売却益
  • 銀行は多くの企業の株式や債券を保有しています。これらを売却して一時的な利益(株式等関係損益)を生み出し、最終利益をかさ上げすることも可能です。しかし、これは本業の儲けではなく、一度きりの利益に過ぎません。

これらの操作は、本業の収益力が低下している事実を覆い隠すために使われることがあります。アナリストが特に地方銀行において、これらの要因に大きく依存した高い純利益を見つけた場合、それは中核事業が弱体化している可能性を示す即時の危険信号(レッドフラッグ)と見なします。一見してPER(株価収益率)が低く割安に見えても、その利益が作られたものであれば、その株は決して「お買い得」ではないのです。

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