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日本におけるFX(外国為替証拠金取引)の誕生に深く関わった人物、猪首秀明氏。1990年代後半、まだ誰も想像していなかったFXという金融商品が、日本でどのように生まれ、どんな混乱と成長を経て現在に至ったのか。黎明期を内側から見続けてきた“当事者”が、業界の裏側、健全化の過程、そして海外FXを巡る本質的なリスクについて率直に語ります。本当に必要な金融リテラシーとは何か──その原点に迫ります。
猪首秀明氏プロフィール

1998年の外為法改正に伴い、ひまわり証券時代に日本初となる外国為替証拠金取引(FX)を商品化させ、その普及に貢献する。2012年に東岳証券の代表取締役に就任。2022年からはWikiFX Japan株式会社顧問の他、複数のFX関連企業の顧問を兼任。延べ3000人を超える個人投資家と接した経験から、個人向けの金融トレード運用アドバイザーとしても活動中。【著書】FX初心者でも問題なし! MT4自動売買スタートマニュアル
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※ FX雑誌『外国為替』vol.7より再構成/インタビュー日:2023年9月20日
外為業務の自由化が、日本にFXを誕生させた
─まず、猪首さんが関わられた、日本でFXが生まれた経緯について教えてください。
猪首 日本で外国為替証拠金取引、いわゆるFXがスタートしたのは1998年です。それ以前から欧米を中心に、海外ではFX取引が存在し、すでに活発に行われていました。
私自身が外国為替証拠金取引という商品を初めて知ったのは、1995年から96年ごろだったと思います。とある投資専門誌で、海外の金融商品を紹介する記事を目にしたのがきっかけでした。偶然にも、その記事を書いていたのが知人だったこともあり直接連絡を取って詳しい話を聞いたんです。
世界最大の取引量を持つ金融マーケットであり、株や先物取引の取引所取引には無い24時間連続取引が可能。それを個人投資家でも証拠金を使って気軽に取引ができる。こんな魅力的なトレード商品が日本でもできたらいいのになあと、羨ましく感じたものです。
当時の外為法では、通貨の交換業務は一部の銀行にしか認められていませんでした。しかし1998年4月の外為法の改正によって、実質的な外為業務の自由化が実現します。そこで「これは日本でもFXを商品化できるのではないか」と考え、当時所属していた商品先物会社・ダイワフューチャーズの社内で協議を重ね、開発チームを立ち上げました。約半年間の開発と準備期間を要し、1998年10月8日に日本初となる外国為替証拠金取引「マージンFX」のサービスが誕生しました。今から25年前のことです。
─その時点で、猪首さんはすでに商品先物の世界に長くいらっしゃったのですか?
猪首 相場の世界に入ってから、今年でちょうど40年になります(編注:取材当時)。最初に勤めたのも、先ほど名前を出したダイワフューチャーズでした。このダイワフューチャーズが金融庁への証券業登録をし、ひまわり証券になり、今もFX業務を継続しています。
正直なところ、私自身も会社も、FXがこれほど巨大な市場に成長するとは想像していませんでした。当時は大豆やゴム、金といった先物取引を扱っていて、その銘柄が一つ増えたくらいの感覚です。ただ、為替相場のニュースは一般のニュースでも毎日流れていますし、事業として成長するのではないかとの期待感はありましたけどね。
ちなみに、いわゆる「○○記念日」的な資料では、ダイワフューチャーズが日本で最初にFXを始めた会社として記録され、その日が記念日扱いになっているそうですよ。
─「FX」という呼び方は、いつから使われるようになったのでしょうか。もしかして猪首さんが…?
猪首 私たちが始めたFXのサービス名は、「マージンFX」でした。この名前にあるように、最初からFXという名称は使っていました。なので、外国為替証拠金取引をFXと名づけたのは当時のダイワフューチャーズということになります。
認知拡大のため、日本全国を飛び回った時代
─FXが広まり始めた当時の状況について教えてください。
猪首 とにかく最初は知ってもらうことが最優先でした。PR活動のために日本全国を行脚していました。それが2年間くらい続いたと思います。その成果に加えて、ネットが普及してきたことでFXの認知度も高まっていきました。株のネット取引が広がり始めた時期でもあったので、時流に乗れた部分もあったんでしょうね。
同時に、同業他社の参入も増えていきました。商品先物会社にとって、証拠金取引やレバレッジという仕組みは馴染み深く、FXは比較的参入しやすい商品だったのだと思います。
─2003年ごろから本格的に普及したそうですが、当時の投資家層はどんな人たちでしたか?
猪首 トレードで利益を狙うというより、スワップポイント目的の方が多かった印象です。外貨預金よりもコストが低い点が魅力だったのでしょう。両替で片道1円かかる(ドル円の場合)外貨預金と比べたら、当時のダイワフューチャーズのスペックでも低コストだったのは確かです。
─当時の取引条件はどのようなものだったのでしょう。
猪首 最低取引単位は10万通貨、スプレッドは5pipsです。加えて、外付けで片道1万円の手数料がかかっていました。10万通貨換算だと、実質的には約15pipsですね。
─意外と高すぎない印象です。当時主流だった電話取引の株式売買と比べると、もっと高コストかと思っていました。
猪首 むしろ「そんなに安くて商売になるのか?」と、お客様に心配されたくらいです(笑)。口座開設の条件も今より厳しく、最低預託金は300万円でした。FXは大切に育てたい商品だったので、「資金力のない方は無理に来なくていい」という姿勢でしたね。
というのも、そのころの商品先物業界は、滅茶苦茶行儀が悪かったですから(笑)。お客さんから預かったお金は、最終的に溶かすまでやってもらうというスタンスだったところも多くて。しかもそれを営業マンの強引な勧誘でやっていたのですから、今では考えられないです。
FX会社にはA-Book(NDD)とB-Book(相対取引)がありますよね。当時の商品先物会社はB勘定といって、FX会社のB-Bookに相当する仕組みになっているところがほとんど。つまりお客さんとは利益相反するので、お客さんが損をするほど会社が儲かるわけです。お客さんが潰れるまで損をすると、会社の利益は最も大きくなります。
─今と比べると、業界の構造自体がまったく違いますね。
猪首 現在のFX業界はかなり健全化が進み、イメージ戦略も成功していると思います。乱暴だった業界ほどクリーンなイメージを前面に打ち出すじゃないですか、例えば不動産会社やパチンコ台のメーカーとか。FX会社がイメージ戦略の一環で洗練されたビルに入居して本社を構えるのも、その一環なのかなと。
─当時の商品先物業界では、まったく別の光景が広がっていたと。
猪首 皮肉なことに、行儀の悪い会社ほど業績を伸ばして上場を果たすという世界でした。逆に真面目にやっている会社も何社かあったんですが、そういう会社は生き残れなかったんです。「真面目にやる」といっても、お客さんのいうとおりに注文を出す、それだけです。このようにお客さんの意向どおりの仕事をする会社のことは、「切手屋」と呼ばれていたんです。郵便局の職員は、いわれたとおりの切手しか売りませんよね。行儀の悪い郵便局員がいて切手1枚を買いたいのに10枚を売りつけてくる、なんてことはありません。
また、顧客から預かった証拠金の全額で、1度のトレードでポジションを持たせたりとか。顧客の意向に反して、自社の利益だけを追求する会社は「大衆殺し店」、なんて呼ばれていましたね。結局こうした会社はどんどん淘汰されて、10分の1くらいに減ったのではないかと思います。
規制なき黎明期と、レバレッジ規制の衝撃
─そんな状況だけに、新たに登場したFXは商品先物業界にとって救世主だったわけですね。
猪首 自由化をきっかけに、商品先物業界からの参入が一気に増えました。それどころか、金融(トレード関係ビジネス)とは全く縁もゆかりもなかった一個人の素人さんが、個人で零細な個人商店レベルでFX会社を始めるケースまで出てきました。特に参入が多くて目立っていたのが、反社会勢力からの参入です。
暴対法による締め付けやバブル崩壊後に発覚した大手証券会社の損失補填問題などもあって、証券会社とも組めなくなった彼らにとっても、FXは救世主だったのでしょう。彼らはお金を取り扱うのも、刈り取るのもうまいですから。
─ギャンブルの扱いにも慣れていますしね。
猪首 FXをギャンブルと見るかどうかは意見が分かれますが、勝ち負けがあるのは事実です。その意味では、彼らにとって入りやすい世界だったと思います。
しかし、当然トラブルは多くなります。トラブルが多発していることを受けて金融庁がFXを監督するようになると、反社勢力は退場を余儀なくされました。しかし、彼らにとって新たな「シノギ」であるFXを簡単に手放したくはないはず。そこで活路を見いだしたのが海外でした。海外にFX会社を設立して、ネット経由で日本人をターゲットとしたビジネスにシフトしたわけです。現在、海外FX業者として無登録営業している業者のほとんどは、日本人が海外に出て行き、現地の人を代表に据えて設立されたものです。日本におけるFXの健全化は進みましたが、国内の健全化が進むほど海外FXのリスクが高まった構図です。
─FXの黎明期は、金融庁の監督下ではなかったのですか?
猪首 そうなんです。私たちもダイワフューチャーズでFX取引サービスを始めるのにあたって、金融庁にお伺いを立てに行ったんです。金融庁の回答は「今の日本にはFXを監督する法律がないので、一般事業会社として始めてください」というものでした。つまり、黎明期のFXは誰が何をやってもいい状態でした。
─その後、規制が強化されてFXはどう変わりましたか?
猪首 規制強化で一番影響が大きかったのは、レバレッジ規制ですね。それまでは300倍、400倍なんて当たり前でしたから。それがある日突然、上限50倍になり、その後25倍です。急なことだったので業界内での反発も、投資家からの反発もありました。しかし、金融庁はその規制を断行。その結果、レバレッジ規制を逃れるために一部の投資家が海外FXに流れたというのはあると思います。ハイレバレッジ取引を希望している人にとって、日本語でサービスが受けられて日本の規制を受けない海外FXは魅力的に映るでしょうから。
第2の黎明期で主役になったのはIT企業
─証券業界の参入も多かったと思いますが、実際はいかがでしたか?
猪首 自分たちが始めた当初からは想像もつかないほど参入業者は増えました。もちろん証券会社も入ってくると思っていました。最初に参入したのは松井証券で、次にオリックス証券。オリックス証券はすでに廃業していますけど、松井証券は社長の知名度の高さもあって、積極的に展開していたことが脅威にも感じました。
しかも、その後から大手証券会社も続々と参入してくるではないですか。日本を代表するような証券会社が参入してきて、これまで積み上げてきたものが全部取られてしまうのでは、と思ったものです。しかし、現実は違いました。証券会社とは全く違う業種の会社が伸びました。
─IT業界ですね。
猪首 そうです。GMOとかDMMとかライブドアとか…。特にこの3社はずば抜けていたと思いました。商品先物業界では、少なくとも小金持ち以上の人を対象にするのが常識でした。こういうと語弊がありますが、若い人は資金力のない人が多いということで、ターゲットにすることはあまりなかったんです。しかし、IT業界はそういう常識にとらわれることなく、若いユーザーをうまく取り込みました。1人あたりの単価は低くても数を集めることに注力したわけです。これが功を奏して、IT企業がFX業界の主役になったのです。
ひまわり証券も、その流れに比較的うまく乗れた方だと思いますが、FXの黎明期にそんな発想はなかったですね。しかしこのことは、FX業界の健全化に一役買っているとも思います。お客さんと同じ方向を向くことができていますし。
─「顧客と同じ方向を見る」ことを重視するようになったのはどうしてでしょうか?
猪首 商品先物業界に長く身を置く中で、従来のやり方に強い違和感を抱いていました。
会社が儲かるために、顧客を損させる。そのモデルに未来はないと思っていたんです。
そんな私が営業スタイルとして魅力を見いだしていたのが、実をいうとパチンコ業界なんです。確かにギャンブル産業ではありますが、お客さんは、どのパチンコ屋に入るのも、どの台を選ぶのも、どれだけお金を使うのかも、すべてお客さんが決めることです。店員さんから誘導されることも、強要される(苦笑)こともないわけです。
それを何度も会社に具申していたので上からはうるさがられていましたが、一つの店を任せてもらうという話になりまして。当時の主流だったワープロソフト「一太郎」を使って、手作り感いっぱいのチラシを虎ノ門周辺で配りましたね。やっていると少しずつ来店客も増えてきて、手応えも感じられました。周辺は官公庁も多いので、来店客の中には某中央官庁の運用担当や検査官もいました。(後編へ続く)
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