今回は、“石破銘柄”と呼ばれる三菱重工について分析します。直近で株価が大きく上がっていますが、これは石破政権への期待と、同時に業績も大きく上がっていることも要因としてあります。株価や業績はこのまま上昇していくのか、考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
“防衛族”石破氏が保有する銘柄
三菱重工の株価は、2023年の500円といったところから、今では4倍にもなっています。

三菱重工業<7011> 週足(SBI証券提供)
石破さんは元防衛大臣で、いわゆる“国防族”と呼ばれた方です。
首相になってからの政策としては、やはり防衛力強化というところを挙げています。
自衛隊を憲法・法律できちんと位置付けることが重要だとしていますし、日本の防衛力をつけることによってアメリカとの対等性を作っていこうということを著書の中でも主張しています。
日本の国防力をつけようとすると、日本の防衛産業に予算がつくと考えられます。
しかしそれとは関係なく、日本の防衛費はここ数年大きく上昇しています。
長い間、GDPの1%というキャップがついていたのですが、安倍政権・岸田政権下で大きく上昇しています。
特に直近では1%という上限が2%になるという話もあり、防衛費は数年前からすると1.5倍にもなっています。
しかも、東アジアや中東の情勢が不安定になっていて、国防力の強化という議論になりやすい局面です。
そんな中で“国防族”と呼ばれる石破政権が誕生し、内閣の中には国防族の面々が重要なポストに就いています。
岩屋外務大臣(元防衛大臣)、中谷防衛大臣(元防衛大臣)、小野寺政調会長(元防衛大臣)などです。
国防力の強化に拍車がかかることは想像に難くありません。
今回、“石破銘柄”ということで三菱重工を取り上げていますが、なぜかというと、総裁選の時に各候補者の保有銘柄が報道され、石破さんが三菱重工を保有していたからです。

出典:Bloomberg
保有銘柄からも防衛に興味があることがうかがえます。
防衛費増の追い風
三菱重工の業績を見てみましょう。
直近の業績は非常に好調で、コロナの真っただ中で赤字を計上していますが、その後大きく上がり、直近で最高益を記録しています。
最高益を記録した大きな要因としては国防費の増額が挙げられます。
「航空・防衛・宇宙」というセグメントが、2021年3月期は赤字ですが、そこから盛り返してきて、直近の期では大きなプラスとなり、業績に貢献しています。
自衛隊の設備に関して入札が行われ、三菱重工が受注し、それがやがて売上となり利益になるということです。
三菱重工というと、“三菱は国家なり”というくらい国の産業を支えています。
日本は軍を持たないので防衛産業が盛んではないところがありますが、三菱重工はその数少ない防衛産業の根幹を支える企業となっています。
近しいところに川崎重工やIHIといったところがありますが、防衛産業では三菱重工が頭一つ抜けています。
実際に何を作って作っているかというと、戦車や装甲車などの特殊車両です。
こういったものを新興企業や外国資本の企業に作らせるわけにはいかないので、三菱重工は国家にとっても重要な企業となります。
艦艇や戦闘機も作っていて、日本の防衛費が増えるということになると間違いなく三菱重工は恩恵を受けることになります。
また、日本の防衛産業がある程度儲かる形で存在していないと持続可能性が低いということで、海外に輸出して産業として成立させようという動きもあります。
実際に西欧諸国やオーストラリアなどに輸出できるように進めていますし、石破さんも著書の中で同様のことを言っていました。
いずれにせよ、政策的には間違いなく軍需産業、三菱重工にとって追い風となっています。
これは石破政権だけの話ではありません。
11月にアメリカ大統領選が行われますが、以前トランプ氏が大統領だった時には、NATOが軍事費用をもっと負担するべきだと言っていました。
日本にも相応の負担を求める発言もしていました。
つまり、日本の防衛費を上げろということです。
日本の防衛費が急増しているのはアメリカの圧力も当然あります。
まだどうなるかは分かりませんが、トランプ大統領の誕生というのも防衛産業には追い風となる部分があります。
このように、三菱重工の外部環境は良い方向に進みつつあり、株価にも追い風が吹いています。
ただ、これはあくまで憶測であり、そもそも軍需産業の収益性はあまり高くないと言われています。
これまでも日本の自衛隊の装備を担っていましたが、事業として目立つことはありませんでした。
むしろ、国産旅客機(MRJ)を作ろうという話が盛り上がっていて、これは失敗に終わった一方で、今になって防衛・装備品の話が大きくなっています。
航空・防衛・宇宙ということで、国の政策とは切っても切り離せない企業であることは実感できます。