過去最大の赤字に沈んだ住友化学<4005>を分析します。石油化学製品や医薬品を販売する住友化学は4月30日、23年度の最終赤字が過去最大となる3,120億円に拡大する見通しだと発表しました。しかしながら、25年3月期には700億円の黒字へと回復すると予想しています。長期投資家はどう判断すべきでしょうか?(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
住友化学は何をしている企業?
まずは、住友化学の事業内容を見てみましょう。
一言で表すと、大手総合化学メーカーです。業界首位は三菱ケミカルGであり、それに次ぐ2番手の立ち位置です。
住友化学が製造している素材は、医薬品や半導体材料、農薬など様々な産業に使用されています。セグメントも対象産業ごとに6つに分かれ、とにかく事業範囲が広いことがわかります。
では、一体どの事業で利益を出しているのでしょうか?
セグメントごとの利益推移を見てみましょう。
出典:各年度決算短信より作成
過去の推移を見てみると最大の収益源が医薬品事業であり、次にエッセンシャルケミカル事業や情報電子科学事業の利益が続きます。
しかし、24年通期予想では、収益源の医薬品事業とエッセンシャルケミカル事業が大きく赤字となっています。これが下方修正を引き起こしている原因と言えるでしょう。
ここからは下方修正の内容を見てみましょう。
下方修正の内容
4月30日に住友化学が発表した下方修正の内容を解説します。
売上予想は当初2兆9,000億円だったものが2兆4,400億円へ修正(マイナス15%)、営業利益は200億円の黒字予想が、4,890億円の赤字転落となりました。
出典:各年度決算短信、IRニュースより作成
今回発表された下方修正の内容は、大きく2つです。
- 北米事業における医薬品マイフェンブリー(子宮筋腫・子宮内膜治療剤)の特許権の減損とのれんの減損、研究開発の中止などが関係し、合計1,808億円の減損
- エッセンシャルケミカル事業の需要の低迷による収益性の低下による400億円の特損・減損が発生
一言でまとめてしまうならば、
「医薬品事業とエッセンシャルケミカルズ事業の減損」です。
なぜ、この減損を行わなくてはいけないほどの状況になっているのでしょうか?
理由は大きく2つあります。
- 医薬品事業では収益源となる薬の独占販売期間が終了し、それに代わる医薬品が売れていないから
- エッセンシャルケミカルズ事業では中国における景気減速の影響と、サウジアラビアの子会社が不調だから
(1)について補足すると、住友化学(の子会社の住友ファーマ)にはラツーダという収益の柱となる医薬品がありましたが、特許切れと同時に売上が縮小。ラツーダに代わる医薬品(上記マイフェンブリーなど)も伸び悩んでいます。
(2)エッセンシャルケミカル事業では石油化科学製品を取り扱っていますが、中国の景気後退の悪影響を受けています。家電や電子機器など幅広い製品に使う合成樹脂や基礎化学品の需要が減退し、出荷数量が減少しているのです。
さらに、サウジアラビアの子会社(詳細は後ほど)の業績もイマイチです。
実はこの2つの下方修正の内容は、24年2月の3Q決算時に発表された下方修正の内容です。この時点では、まだのれんや特許権の減損は考慮されていないもので発表されていないものでした。
したがって今回は、前回見送られた減損を計上したものです。
これが今回の下方修正の内容とその原因です。
今回の下方修正と同時に、2025年3月期の見通しも発表されました。ここからはその内容をチェックしましよう。