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なぜ中国経済は50年も崩壊し続けているのに破綻しないのか?習近平を苦しめる「4つのD」の通説と真実=牧野武文

中国経済は本当に「崩壊」に向かっているのでしょうか。日本では毎年のように中国経済崩壊論が語られてきましたが、実際には50年以上にわたってその予言は外れ続けてきました。米国の著名投資家や調査機関が示す厳しい見方も、よく読むと「崩壊」ではなく「成長のピークを過ぎた」というピークチャイナ論であることがほとんどです。本記事では、中国経済が直面しているとされる「4つのD(デフレ・債務・人口動態・デカップリング)」について、最新の研究論文をもとに通説と実態を整理し、中国経済は今後どこへ向かうのかを冷静に考えていきます。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2026年1月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『論語なう』(マイナビ新書)、『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』(角川新書)など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

中国経済崩壊説の根拠「ピークチャイナ論」とは

今回は、中国経済は崩壊するのかという問題についてご紹介します。

日本では、中国経済は2026年こそ崩壊するという論調一色になっています。その一方で、「中国経済はいつになったら崩壊するの?」という声もあります。日本と中国が国交を回復した1972年以来、日本では毎年のように「今年こそは中国経済が崩壊する」と言われ続けてきたからです。もう、50年以上も「崩壊する、崩壊する」と言っておきながら、そうはなっていないため、この崩壊話を真に受けない人も増えてきました。

日本で報道されている崩壊論の多くは、米国の投資家や調査機関が出すネガティブなシグナルを根拠として語られています。しかし、米国で語られているのはピークチャイナ論です。これは、中国は経済成長のピークを過ぎたという議論で、その見方は合理的なものだと思いますが、その議論の中で強い言葉が出てくると、そこだけを抜き出して「米国の偉い人が崩壊だと言っている」と主張するのが、崩壊論の正体です。

最も強硬な主張をしているのは、投資会社ヘイマン・キャピタルの創業者、カイル・バス氏です。バス氏は、中国の金融システムを「ペーパータイガー」と呼び、大きな債務超過にあり、中国政府が発表する統計数字はすべて虚構であると主張しています。しかし、経済が崩壊するとは言っていないのです。経済の低迷が、必ず軍事的な冒険主義に結びつき、具体的な軍事行動をした途端に中国は終わると主張しています。

著名な投資家、ジョージ・ソロス氏は、中国へ投資することは「悲惨な誤り」だと警告しています。恒大集団に端を発した不動産バブルの崩壊が、中国中間層の資産を直撃し、経済が衰退すると予測しています。しかも、中国特有の政治的な硬直性が市場の機能を麻痺させているために、回復には長い時間がかかり、中国に投資をする投資会社に対して「クライアントの資金を危険にさらす行為だ」と批判しています。

モルガン・スタンレー・アジアの元会長、スティーブン・ローチ氏は、フィナンシャルタイムズに「It pains me to say Hong Kong is over」(香港は終わったというのは苦痛だが)という寄稿をしました。中国政府が適切な対応をしなければ、香港の株式市場は低迷をし続けるだろうという内容です。

投資会社ブリッジウォーターの創業者であるレイ・ダリオ氏は、「中国が債務問題を解決できなければ、100年に1度の嵐に見舞われる」としています。その一方で、製造業やAIの社会実装力については世界トップクラスであり、「みなが中国市場を嫌っている今こそ、資産を安く買うことができる」とリスクを取った投資を勧めています。

つまり、悲観的な人から楽観的な人まで「終わる」と断言している人はなく、「政府が適切な対応をしなければ」低迷し続けるとしているのです。これがピークチャイナ論です。

中国は「4度の経済危機」を乗り越えてきた

中国の改革開放が始まって以来、中国経済は4回、大きな危機を迎えています。

1981年:財政赤字とインフレ
1990年:天安門事件による経済停滞
1998年:アジア通貨危機
2020年:コロナ禍による経済活動停止

ほぼ10年に1回、底を打って回復するということを繰り返してきました。

1981年の経済危機は、財政赤字とインフレによるものです。それまで中国政府は洋躍進政策を進めていました。海外から工場や技術を急いで導入して、一気に近代化しようとしたのです。しかし、外貨準備高が少ない中で強行したために、政府財政が悪化をし、市中には現金があふれたため、激しいインフレが起きました。

これに対応するため、重工業中心だった技術輸入を、生活用品が中心の軽工業に切り替え、なおかつ政府支出を抑制しました。この調整により、経済成長は回復に向かいます。

1989年6月の天安門事件は、中国経済にも大きな打撃を与えました。天安門事件は、学生を支持する改革派の政治局員たちが、学生たちが天安門広場で追悼集会を開くことを許したことが発端です。この事件により、政治局の改革派は権力を失い、保守派が権力を掌握することになりました。保守派は過熱するインフレを抑制するために、治理整頓と呼ばれる過剰な抑制策を次々と打ちました。これにより、経済が一気に停滞をします。

これを救ったのが1992年の鄧小平の南巡講話です。改革開放は止めてはならないという強いメッセージを出したことにより、抑制策が一転して積極策に置き換えられていきます。これにより、外資の投資も急激に増え、経済が復活します。

1998年にはアジア通貨危機に端を発し、さまざまな問題が噴出をした複合不況となりました。当時、非効率になっていた国有企業の解体が急速に進められました。数千万人規模の労働者が解雇され、下崗(シャーガン、一時帰休)が話題となりました。仕事がないのでお金もなく、個人消費は低迷をします。さらに、それまでの不動産投資ブームが終わり、国有銀行に巨額の不良債権が生まれました。これにより、貸し渋りが起こり、大規模な信用収縮が起こります。ここから中国のデフレ時代が始まります。

政府は、2つの大きな対策を取りました。巨額の国債を発行し、道路やダム、通信網などという大規模インフラの整備を進め、失業者を吸収しました。もうひとつはWTO(世界貿易機関)への加盟準備です。これで輸出が伸びることが期待され、中国が世界の工場となる準備が進められました。これにより、再び経済成長をします。

2020年はコロナ禍による経済停止です。

つまり、中国はこれまで奇跡の成長をしてきましたが、4回も経済危機を迎えています。現在のコロナ禍以来の低成長に加え、過熱する不動産投資を抑え込むために不動産デベロッパーに規制をかけ、不動産価格が急落をしています。

この経済危機を乗り越え、再び成長軌道に入るのか、あるいは中国政府が掲げているように5%前後の安定成長に入るのか、ピークチャイナ論が言うように長期的停滞=日本化するのか、それとも日本のメディアが言うように一気に崩壊に進むのか、それは誰にもわかりません。

そこで、今回は、現在の中国経済の課題だとされる「4つのD」について、メディアで言われる通説と実際はどうであるかを論じた「A Critical Examination of the “China Collapse” Narrative」(中国崩壊論の批判的検討)に基づいてご紹介します。

著者はウィラメット大学経済学教授で、レビー経済研究所の研究員でもあるYan Liang氏です。名前から分かるように中国出身で、米国留学をし、そのまま米国で中国経済を専門とした研究職についている方です。ですので、中国をよく見せようとする意図、あるいは悪く言われることに反発をする気持ちはあるでしょうから、そこは割り引いて見なければなりません。しかし、非常に説得力があり、納得もできる論文だと私は感じました。

どう捉えるかは、みなさんもご自身で判断してください。最終的に「中国経済は停滞から再び復活しそうだ」と感じるか、「この論文は中国びいきがひどすぎる」と感じるか、それは人によると思います。しかし、この論文で論じられている「4つのD」の通説と真相に関する議論は、みなさんが中国経済を眺めるときに必ずお役に立つと思います。

Next: 中国経済を崩壊に導く「4つのD」とは?通説と真相を解説

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