今回注目するのは電子部品大手TDK<6762>です。足元で株価が急上昇しており、多くの注目を集めている企業だと思います。この株価の伸びは、単なる一過性の現象ではなく、何かしらの普遍性や長期潮流を連想させるものであり、改めてTDKの事業内容を詳しく調査する必要性を感じました。
詳細な調査の結果、TDKの主力事業に対する従来のイメージとのギャップや、今後、特に引き合いが強くなりそうな製品群が多数存在するという驚きがありました。TDKがどのような事業を展開し、どのような製品が、どのような市場の変化によって需要を伸ばしていくのかを解説します。これにより、なぜ足元で評価が高まっているのか、そして長期投資の観点から見て魅力的なのかどうかを紐解きます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
TDKの株価推移と業績概況
TDKの株価は、コロナ禍では伸び悩んでいましたが、2023年の中頃から大きく上昇し、現在は再び上昇気流に転じています。

TDK<6762> 週足(SBI証券提供)
過去20年間の業績を見ると、リーマンショック時などには赤字に転落した時期もありますが、中長期的には売上・利益ともに右肩上がりで伸びてきています。
直近では、2024年3月期に売上が頭打ちになり減少しましたが、2025年3月期、そして今期(2026年3月期)にかけては、売上も利益もさらに伸びていく局面に入っていると見られています。
特に注目すべきは、2024年10月末に発表された決算で上方修正が行われた点です。当初の見通し(概算)として売上規模は2兆2100億円程度でしたが、今回の決算を通して、売上高は2兆300億円に上方修正されました。これに伴い、営業利益の業績見通しは、当初の2250億円から2450億円へと引き上げられています。
ただし、この上方修正後も、株価は市場の調整局面などもあり、発表前と比べて若干下がっている状況です。これは、上方修正の内容がすでに株価に織り込まれていたと見るのが自然な動きであり、競合の村田製作所や太陽誘電も同様の動きを見せています。
TDKのコア技術:創業の核「フェライト」
TDKが多岐にわたる製品を手掛けている中で、そのコアとなっている技術がフェライトです。
TDKの事業ポートフォリオを見ると、自動部品(電子部品)、磁気応用製品、電池など様々ですが、電池を除いた多くの製品の根幹にはフェライト技術の応用があります。
フェライトとは?
フェライトは、鉄とその他の金属を混ぜて作られた材料で、磁気の力を持っています。この磁気を利用して、電気の制御、ノイズの防止、エネルギーの変換などを行う製品に活用されています。
TDKは1935年の創業当初から、このフェライトという材料が持つ製品展開の可能性に着目し、事業をスタートさせています。そこから、多様な製品が派生してできているのがTDKです。
世界シェアトップの主力製品:小型二次電池と応用製品
TDKの事業ポートフォリオの中で特に伸長が著しいのが、オレンジ色で示される電池の分野です。これは「エナジー応用製品」に分類されます。
エナジー応用製品の代表的な製品が小型二次電池であり、TDKはこれで世界シェア50%から60%を占めるナンバーワンの地位にあります。
この小型二次電池の主要な用途は、まさに皆さんがお持ちの製品、スマートフォンのバッテリーです。スマートフォン市場の普及と共に、TDKはこの事業を大きく成長させてきました。現在、スマートフォンの台数自体は伸び悩んでいるものの、高性能化が進むことで、より薄く、軽く、大容量のバッテリーが求められ続けており、事業規模は大きく維持されています。
小型二次電池以外にも、TDKはハードディスクドライブ用のサスペンション、ノイズを防ぐ信号系EMCフィルター、車載用セラミックコンデンサー、温度センサーなど、様々な分野で世界シェア1位または2位の製品を保有しています。電池以外の多くの製品群は、フェライト技術を応用したものです。
AIデータセンター需要がTDKの成長を加速
直近の決算情報では、TDKの好調な要因が明確に示されています。
自動車市場の需要は低迷している一方で、スマートフォンの新モデル立ち上げやデータセンター向けドライブの需要が堅調に推移するなど、ICT市場の生産が前年同期を上回る結果となりました。
ざっくり言うと、自動車市場は低調であるものの、スマホやデータセンター向けなどが含まれるICT市場が好調であるということです。
このICT市場、特にAIデータセンターの需要増加は、TDKの多岐にわたる製品群に恩恵をもたらしています。
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