10月9~11日に開催される国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会では、米国の利上げ時期をめぐって各国で議論が交わされる見込みです。
これに関して40年近いエコノミスト歴を持つ「マン」さんは、米FRBが新興国の顔色を窺って金融政策を決めなければならないほど、新興各国における「マネーの逆流」が深刻化していると指摘。この影響は先進国にも波及する可能性が高く、FRBにとって利上げへのハードルは一段と高くなっていると結論づけています。
世界の監視下に置かれた米国の利上げ
「米国の利上げ時期を各国で議論する」異例の事態に
IMF・世銀の年次総会が、10月9日(金)からペルーのリマで開催されます。この総会で米国の利上げ時期について議論する、とドイツの関係者が語っています。これは異例の事態です。
これまで海外からは有無も言わせずに独自で政策を決めてきたFRBにとっては一大事で、それだけ世界経済の情勢が緊迫し、米国の利上げに最大限の関心を持って見ている証拠です。
中国をはじめ、新興国の実態がよくわからないために、これまで漠然と感じていた不安が、このたび公表されたIIF(国際金融協会)の報告書で、より具体化された面があります。
ワシントンに拠点を置き、世界の民間金融機関が参加するIIFの報告は、それなりにショッキングなものでした。
この報告書は、2つの重大な事実を示しました。1つは、新興国への資本流入が今年、1988年以来初めてネットで流出となりそうなこと。
もう1つは、新興国の企業債務がこの10年で5倍以上に膨張しているため、経済を圧迫するとともに、米国の利上げ、ドル高の負担が大きくなることです。
マネー逆流が始まっている新興国、米利上げは命取りに
まず、新興国への投資額は、昨年の1兆740億ドルに対して、今年は5480億ドルに半減すると見られます。これに対して、新興国から出てゆく資金は、今年1兆890億ドルに高まると見られます。差し引き5480億ドルのマイナスとなります。
昨年はまだ320億ドルのネット流入で、マイナスになるのは1988年以来のことです。
この影響を考えるには1997年前後のアジア経済が参考になります。それまでヘッジファンドなどがタイやインドネシアなどアジア市場に大規模な投資をし、その間アジア経済は奇跡的な拡大をしたのですが、97年に彼らがアジアから資金を引き揚げると、通貨や株価の暴落を伴う経済危機に陥りました。
今回は、FRBや日銀、ECBの大規模な金融緩和で、大量な資金が新興国に投資され、一時はこれらの国がバブルを伴ったブームに沸いたのですが、その資金流入が昨年あたりから目に見えて細り、今年はついに大規模な逆流となります。
そしてIIFによれば、来年も3000億ドル以上のネット流出が予想されると言います。FRBが利上げに出れば、これがさらに加速します。
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。