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なぜトヨタは「EV出遅れ」批判に屈せず営業利益率11%を叩き出せたのか。泥仕合を回避して世界一人勝ちへ=勝又壽良

トヨタ自動車の経営戦略は現在、100%の成功である。世界中の自動車メーカーは、リチウム電池EVへ一直線で進み設備増強に走った。一方のトヨタは、申し訳け程度のEV発売に止めて、現行EVに代替するHV(ハイブリッド車)増産で対応した。トヨタは、この真逆の対応によって無駄なEV投資をまぬがれたのである。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

トヨタ「EV出遅れ戦略」で一人勝ちへ

トヨタ自動車の経営戦略は現在、100%の成功である。リチウム電池によるEV(電気自動車)限界をいち早く見抜いて、次世代電池として全固体電池の開発に全力を挙げているからだ。

世界中の自動車メーカーは、リチウム電池EVへ一直線で進み設備増強に走った。一方のトヨタは、申し訳け程度のEV発売に止めて、現行EVに代替するHV(ハイブリッド車)増産で対応した。トヨタは、この真逆の対応によって無駄なEV投資をまぬがれたのである。

この戦略は、怖いほどの的中になった。現在のEVは、耐久消費財特有の発売初期に躓く「キャズム」(溝)に落ち込んでいる。耐久消費財は、普及率が16.5%程度の段階で販売が一段落する。初期ユーザーが、購入し終わり後は様子見の段階に入るのだ。そして、数年後に製品改良を経て再び販売が上昇に乗るものである。現在のEVは、まさにこの流れに沿った動きだ。

トヨタは、リチウム電池の欠陥を知り抜いており、全固体電池がカバーできると判断している。だが、この全固体電池も全能ではない。走行距離に自ずと限界があるからだ。こうした技術の限界から、FCV(燃料電池車)・水素エンジン車・合成ガソリンエンジン車といったすべての技術開発に取り組んでいる世界で唯一の自動車メーカーである。

HV絶好調で他社を引き離す

トヨタが、全方位の技術開発で先導できるのは、高収益体質であるからだ。トヨタのHVは、EV不振を尻目に「飛ぶように」売れていることでも分かるように、経営戦略を多角化している。1つの技術に賭けないのだ。

米国では、HVがとりわけ好調である。その理由は、HVの性能が向上してガソリン車との燃費の差が拡大したことや、反対に価格差が縮まっていることが大きい。HVに強みを持つトヨタは、この恩恵がとりわけ大きいのだ。

トヨタが、販売会社に支払う販売奨励金は2月が1台あたり1,316ドル(約19万9,000円)と、業界平均2,828ドルの半分以下である。奨励金は、販売店にとっては値引きの原資になっている。つまり、HVはそれほどの値引きもせずに売れているのだ。

米国でHVを持たないメーカーは、販売奨励金が高止まり傾向にある。日産自動車の2月の販売奨励金は3,377ドル。米GMは3,136ドル、ドイツのVW(フォルクスワーゲン)も4,652ドルと高水準である。EV専業のテスラは、平均で3,726ドルだ。『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)が伝えた。

トヨタの2023年4~12月決算は、HVが大きく貢献して純利益が過去最高の3兆9,472億円に達した。営業利益率は11.6%と2桁である。トヨタのライバルVWは、後記のように7.1%(23年)である。高収益とされるEVメーカーの米テスラは9%(同)である。トヨタの営業利益率が、他社を大きく引き離しているのだ。

自動車メーカーは、この営業利益率が経営指針として大きなメルクマールになっている。5%を切る状況では、技術開発余力を失うとして警戒されている。過去のトヨタの営業利益率(連結決算ベース)は、次の通りである。

2019年3月期 8.16%
2020年3月期 8.03%
2021年3月期 8.08%
2022年3月期 9.55%
2023年3月期 7.33%

以上の推移からみても、23年4~12月の11.6%の営業利益率が、飛び抜けていることがわかる。円安も絡んでいるが、冒頭に上げた無駄なEV投資をしなかったことや、HVの販売が絶好調という経営戦略の勝利がもたらした結果と言えよう。

世界で2位の自動車メーカーは、ドイツのVWである。VWは、EV一直線組であり現在、大きな路線変更を迫られている。今夏から予定した独北部ウォルフスブルクにある本社工場で、量産型EV「ID.3」の生産開始計画を取り止めた。元々は、23年末から生産開始予定だったが延期していたものだ。ID.3は、VWにとって年14万台を販売するEVの旗艦モデルである。こうした事情で、東欧で検討していたEV用電池のセル生産工場の投資も延期された。

VWは、EV戦略変更で多額の資金が稼働せずに「お蔵入り」している。無駄になったのだ。こうしてVWの営業利益率は、昨年12月期にそれまでの8.1%から7%に下がった。24年12月期の営業利益率は、「7~7.5%」と前期よりやや改善すると予測されている程度だ。VWの状況からみて、トヨタの優位性はさらに広がるであろう。

Next: 特許件数でダントツ世界一。トヨタの快進撃はまだ始まったばかり

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