fbpx

なぜトヨタは「EV出遅れ」批判に屈せず営業利益率11%を叩き出せたのか。泥仕合を回避して世界一人勝ちへ=勝又壽良

特許件数でダントツ世界一

営業利益率が、トヨタ11%でVWが7%では、研究開発費でさらに大きな差がつくはずである。過去の特許件数で、VWはすでに大きく引き離されているのだ。

朝鮮日報と韓国特許庁は、全世界の特許の80%以上を占めるIP5(韓国、米国、欧州、日本、中国)の国・地域の自動車特許出願状況を調べた。それによると、自動車主要技術3分野で、トヨタは約1万3,000件余の特許を出願し、トップであることが分かった。『朝鮮日報』(3月13日付)が報じた。

自動車主要技術3分野とは、つぎの内容だ。すべて、トヨタが1位である。

1)電気自動車の動力系特許件数   トヨタ:2,760件  VW:360件
2)ハイブリッド車の動力系特許件数 トヨタ:9,629件  VW:871件
3)熱管理分野の特許件数      トヨタ: 678件  VW:162件
(出所:韓国特許庁 2001~2021年現在)

VWは、トヨタから大きく引き離されている。VWは内燃機関の特許が多く、ここにEVへ一直線で突っ走った背景がある。トヨタには、FCV(燃料電池車)・水素エンジン車・合成ガソリンエンジン車などすべての技術分野の開発へ目を向ける経営的な余裕がある。VWなどの他社には、そのゆとりがないので「EV出現」に仰天して、大きく舵を切って失敗した。これが、世界中が「EV狂想曲」に翻弄された背景とみられる。「長者トヨタ」には、じっくりと世界の技術動向を見渡す余裕があったのだ。

EV小休止をフル活用へ

トヨタは、EV販売に訪れた小休止の「キャズム」を利用して、次期EVで大攻勢を掛ける準備を着々と進めている。

周知のように、2020年後半に向けEVに特化した生産手法の採用、全固体電池をはじめとする複数の高性能電池の展開である。生産手法の改革では、EV車台を「ギガキャスト」によって3分割する。車台は、自走させて組み立てるという世界初の試みである。

全固体電池は、高級車ブランド「レクサス」から搭載する。こうした先進技術を盛り込んだ次世代EVが、2026年に販売される。毎年、EV販売を50万台ずつ増やして年産150万台の目標達成に向け、需要確保と生産体制構築の両面で準備を進めている。EVは、空気抵抗を徹底的に抑えることで航続距離も1000キロメートルにまで伸ばし、テスラや中国勢とも真正面から戦えるとして、トヨタ内部からも強い期待がかかっているというのだ。

部品メーカー幹部は、トヨタがEVでも急激に生産の拡大を図ろうとしていることに驚きを隠さないという。トヨタは、2030年までにEVの世界販売台数を350万台に引き上げる計画を掲げている。今後は、HVで得た収益をEVやソフトウェアといった新領域へ振り向ける戦略である。

トヨタは、EVがすべての乗用車に置き換わるとみていない。それぞれの用途に従って、最適の選択がされる予測している。それだけに、全方位の技術開発が必要である。

トヨタの豊田章男会長は24年1月、次のように語っている。「いくらBEV(バッテリーEV)が進んだとしても、市場のシェアは3割」と語った。残りの7割は、HVや燃料電池車、水素エンジン車などになるとし、「エンジン車は必ず残ると思う」と続けた。ブルームバーグの予測によると、2040年に世界乗用車販売の75%、保有車の44%がEVになると予測している。豊田氏の予測は、上記予測と異なっている。

豊田氏は、これまでの経験でHVの盛り返しを見事に的中させた。これは、豊田氏がテストドライバーの資格を持ち、自動車運転の「裏表」をすべて知り尽くしていることにある。自動車メーカーのトップには、運転免許を持たない人間もいるという。こういうトップが率いる企業では、頭だけで考えて「EV一択」になったのであろう。

Next: 圧倒的だったトヨタの先見性。半導体企業と関係密接化も

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー