海外メディアが「経済学では日本のデフレ環境を説明できない」「インフレが起こらないのは謎だ」と報じている。だが私に言わせれば、そこに謎など存在しない。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
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日本が国民からピンハネした金の使い方を誤ったのは「明らか」だ
経済学者も匙を投げる「謎」
ブルームバーグは、日本は西洋経済学の最も貴重な理論を葬り去ったとし、これまでの経済学では日本のデフレ環境を説明できないとした。
日本は、超低金利と巨額の政府の赤字とを、何十年にもわたり続けている。多くの経済学者は、それがインフレに繋がるのは自明の理だと説くが、インフレの気配もない。
また、FTPL(fiscal theory of the price level)理論では、財政刺激に伴う巨額の財政赤字はインフレになるとされるが、これも日本には当てはまらない。
フィリップ曲線(the Phillips Curve)とは、失業率とインフレ率との関係を述べた理論だが、日本はほぼ完全雇用でいながら、インフレ率は低いままだ。
つまり、日本が経験していることは、1つの重要な受け入れたくない真実を強調している。経済学者たちは、インフレがどのようにして起きるのかを、まったく理解していないと言うことだ。それはまさしく(経済学者たちには)謎なのだ。マクロ経済学者たちは、長年にわたってインフレについて考察してきた。
しかし、インフレがどこから来るのか、経済政策によってどのようにして創出するかの理解については、実際のところ何も分からないでいる。
出典:Japan Buries Our Most-Cherished Economic Ideas – Bloomberg(2017年8月4日)
ノーベル経済学賞を輩出する米国の経済学者たちが「謎」だとすることに対し、1ディーラー上がり(崩れ?)の私などが考察することに、私自身は躊躇しない。なぜなら自然科学に比べて、経済学などの社会科学は「実際のところ何も分からない」ことが数多く放置されているからだ。
実際のところ、市場価格がなぜ動くのかという本質的な問題にさえ、経済学者のほとんど誰もが言及せず、言及したケインズは「株価は美人コンテストのようなもの」と、市場に対する理解不足を暴露した。とはいえ、このケインズの間違った考えを未だに信じているエコノミストや市場関係者は数多い。
日本の金融政策を司る日本銀行は、インフレやデフレは人々の「マインド」によるものだとしているが、これもケインズと同様の考え方だと言える。これは、上記のFTPLやフィリップ曲線にも劣る、根拠のない思い込みだ。これらがすべて間違っているのは、「謎だ」「実際のところ何も分からないでいる」とここにきて白状していることでも分かる。
それでも日銀に「言い訳」は許されぬ
ここで、日銀にやって欲しくないのは、大経済学者たちにも分からないのだから、自分たちが分からなくても当然だという、政策担当者にはあってはならない言い訳だ。
なぜなら、経済学者たちが何を言おうと誰も従わなければ「無害」だが、政策担当者たちが実行に移すと被害者が続出するからだ。
現実に、日銀は短期金利市場や国債市場を破壊することで、預金者、年金加入者、保険加入者、金融機関などに大損害を与えている。また、公的債務の拡大は、次世代への損害の先送りだ。
では、元ディーラーの私がどう見ているか。権威に盲従するよりも、自分の頭で判断することを好む人たちに、聞いて頂きたい。少なくとも、資金運用の現場担当者であるディーラーには、結果責任を言い訳逃れする者はいない。