有事の円買いが起こる理由について、国内メディアは「日本は世界最大の債権国だから」「有事の際には海外資産を売却して円に戻すから」などと解説しているが、これは日本だけに焦点を当てた片手落ちの見方である。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。
円買いではなくドル売り。北朝鮮リスクに直面しているのは米国だ
「有事の円高」にまつわる誤解と偏見
トランプ政権の相次ぐトラブルにもめげず、米国株式市場は史上最高値を更新している。その一方でドル指数は下落基調を辿っており、トランプ大統領誕生に伴うドル高期待は完全に剥げ落ちた格好になっている。
8月29日に北朝鮮が予告なしに弾道ミサイルを発射して日本上空を飛んだ際には、一時的に円は108円30銭台まで円高に振れた。こうした「有事の円高」に対してメディアなどは「地政学リスクの高い円が買われる」現象を謎とすると同時に、「日本が債権国であり有事の際に海外資産を売却して円に戻すという観測が強まった」などという解説を加えている。
しかし、こうした解説は日本だけに焦点を当てた片手落ちの見方である。
今、地政学的リスクに敏感なのはアメリカ
重要なことは、日本はスカッドやノドンミサイルが配備された時点から、ずっと地政学リスクに晒されているということである。つまり、北朝鮮が米国本土にも届くICBMを開発するということは、これまで地政学リスクに晒されていなかった米国が地政学リスクに晒されるようになるということである。
北朝鮮のミサイルの射程距離が延びても、日本の地政学リスクが変わるわけではない。依然として高いリスクに晒され続けることに変わりはないからだ。つまり、地政学リスクに関しては日本が高水準一定であるのに対して、米国の地政学リスクは北朝鮮のミサイルの射程距離が延びるのに比例して高まっていくことになる。
地政学リスクが為替市場に与える影響を考えた場合、これ以上リスクが高まりようのない円ではなく、ドルが売られ、その結果円高に振れることは論理的な動きであるといえる。
FRBの金融政策やこうした地政学リスクの動向などを考え合わせると、日本が期待するドル高・円安局面の再来は期待しにくい状況になってきているという認識が必要そうだ。
Next: 「有事の円高」と「有事の円安」どちらに転ぶかはトランプ次第