大和ハウス工業<1925>の株価が、2026年2月の高値から大きく下落しています。きっかけの1つとなったのが株主還元への懸念です。さらに5月の本決算では、今期の営業利益が前期比34.9%減となる見通しが示されました。これまで着実に成長してきた企業だけに、「業績が急激に悪化したのではないか」と不安を感じた投資家も多いでしょう。
ただし、決算の中身を詳しく見ると、34.9%減益という数字をそのまま受け取るだけでは実態を見誤ります。前期には数理差異や米国での大型土地売却という特殊要因があり、利益が大きく押し上げられていたためです。一方で、特殊要因を除けば安心できるというわけでもありません。金利上昇や建設費高騰に加え、販売用不動産の増加など、注意すべき兆候もあらわれています。
今回は、大和ハウス工業の事業内容と強みを整理したうえで、株価下落の背景、業績の実態、今後の成長材料と投資リスクを解説します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
大和ハウス工業の株価は高値から約3割下落
大和ハウス工業の株価は、2020年に2,230円で底をつけた後、じわじわと上昇し、2026年2月には5,805円まで上昇しました。
ところが、その後は下落基調に転じ、6月2日には4,081円まで下落しました。
高値からの下落率は約30%です。
現在は少し戻したものの、高値圏から大きく調整した状態に変わりありません。

大和ハウス工業<1925> 週足(SBI証券提供)
株価下落の最初のきっかけとなったのが、2月に示された株主還元に関する慎重な姿勢です。
大和ハウス工業は、設備工事大手の住友電設を買収しました。
買収によって負債が膨らんだことから、会社側は足元で積極的な株主還元を行いにくい状況にあると説明しています。
株主還元の弱まりは、それ自体が投資家に嫌気される要因です。
また、「還元を抑えなければならないほど事業環境が悪化しているのではないか」という懸念にもつながり、株価は下落トレンドに入りました。
その後、5月に発表された本決算でもネガティブな材料が続きます。
会社が示した今期予想は、売上高が前期比4%増である一方、営業利益は同34.9%減という内容でした。
しかし、この34.9%減益には注意が必要です。
「営業利益34.9%減」を額面通りに受け取れない理由
前期の営業利益には、通常の事業活動による利益とは異なる二つの大きな押し上げ要因が含まれていました。
<1.数理差異による約1,012億円の利益押し上げ>
1つ目は、退職給付会計における数理差異の影響です。
将来支払う退職給付債務の割引率が変わったことで、前期の営業利益には約1,012億円のプラス影響が生じました。
これは本業の販売拡大や採算改善によって得られた利益ではなく、会計上の特殊要因です。
この反動により、今期予想と前期実績を単純比較すると、減益幅が実態以上に大きく見えます。
<2.米国の大型土地売却で約919億円を計上>
2つ目は、米国での大型土地売却です。
大和ハウス工業が住宅用地として保有していた土地について、データセンターを建設したい企業から購入の申し出があり、売却によって約919億円の利益を計上しました。
これも毎年繰り返されるとは限らない特殊案件です。
数理差異と米国での大型土地売却を除くと、前期の実質的な営業利益は約4,073億円となります。
これに対して、今期の営業利益予想は4,000億円です。

したがって、表面上は34.9%減益でも、特殊要因を除いた前期との比較では、実質的にほぼ横ばいの計画と見ることができます。
ただし、ここで見逃してはならない点があります。
特殊要因を除いた営業利益は、その前の期の約4,450億円から前期の約4,073億円へ減少していました。
つまり、表面上は増益に見えた前期も、本業ベースではすでに減益だったのです。
「今期に突然悪化する」というより、収益力の弱まりが特殊要因によって見えにくくなっていた、と捉えるべきでしょう。
今期予想は中東情勢の影響を保守的に織り込む
今期の営業利益予想4,000億円は、かなり保守的に見積もられている面もあります。
会社は中東情勢による建設資材の調達難や価格上昇、工期の遅延などを想定し、利益への悪影響を織り込んでいます。
建設事業では工事の進捗に応じて売上や利益を計上する案件もあるため、資材が届かず工期が遅れれば業績に直接影響します。
見通しに織り込まれたリスクが現実化しなければ、業績が計画を上回る余地はあります。
ただし、これはあくまで不確定要素です。
保守的な計画だから安心と判断するのではなく、資材価格や工期、各事業の受注・販売動向を継続して確認する必要があります。
大和ハウス工業は「住宅会社」ではない
大和ハウス工業というと戸建住宅のイメージが強いかもしれません。
しかし、現在は住宅だけでなく、幅広い建物を手がける総合的な不動産・建設会社です。
主な事業は次の通りです。
- 戸建住宅
- 賃貸住宅
- マンション
- 商業施設
- 物流施設
- オフィス、工場
- 医療・介護施設
- 太陽光発電所などの環境エネルギー関連施設
売上構成は、戸建・賃貸住宅・マンションなどのハウジング領域がおよそ半分、商業施設・事業施設などのビジネス領域がおよそ半分です。
1つの分野に偏らない、バランスの取れた事業ポートフォリオを築いています。
この事業構成は、最初から完成していたものではありません。
大和ハウス工業は住宅事業を通じて全国の土地オーナーとの関係を築き、土地活用の相談に応える形で賃貸住宅、商業施設、物流施設などへ事業を広げてきました。
最大の強みは「土地と企業をつなぐ力」
大和ハウス工業の特徴を理解するうえで重要なのが、同社の「LOCシステム」です。
これは、土地を有効活用したいオーナーと、出店・施設開発を望む企業やテナントを結びつける仕組みです。
同社は土地オーナーのニーズを聞き出し、事業を企画・提案し、建設まで一貫して担います。
商業施設では、郊外の幹線道路沿いなどに土地を持つオーナーと、ユニクロをはじめとする出店企業を結びつけ、店舗開発を支えてきました。
物流施設や工場、医療・介護施設などにも同じ営業基盤を展開しています。
三井不動産や三菱地所などの総合デベロッパーと比べても、建設機能を自社で持ち、企画から施工までまとめて提案できる点は大きな強みです。
さらに、完成後すぐに売却する、収益性が高ければ自社で保有して賃料収入を得るなど、案件に応じて出口を選べます。
土地オーナー、企業、テナントをつなぐ情報基盤と、建設・保有・売却までの幅広い選択肢が、大和ハウス工業の競争力を支えています。


