好調な決算を発表したにもかかわらず、サンリオの株価は決算発表後に約20%下落しました。業績に明確な悪材料が見当たらず、PERも極端に割高とは言い切れません。それでも売られた背景には、目先の数字だけでは説明できない、サンリオ特有の投資判断の難しさがあります。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
好決算でも株価は下がる
今回の決算は、少なくとも表面的には大きく失望される内容ではありませんでした。
市場予想を大幅に下回ったわけではなく、業績予想の下方修正もありません。
売上高は前年同期比で約20%増加し、営業利益も会計処理の影響を除けば実質的に約20%伸びているとみられます。
それにもかかわらず、株価は決算発表後に大幅下落しました。
理由の1つは、決算発表を前に株価が急速に上昇し、短期的な期待が高まりすぎていたことです。
決算が悪かったというより、期待して買っていた投資家が求めるほどの上振れ材料がなかったため、利益確定売りが集中したと考える方が自然でしょう。
実際、少し長い時間軸で見れば、今回の下落は直前の上昇分を吐き出し、1~2週間前の水準に戻ったという見方もできます。
決算後の値動きだけを切り取って、事業そのものが急激に悪化したと判断するのは早計です。
PER24倍は本当に割高なのか
株価下落のもう1つの説明として、「そもそも株価が割高だったのではないか」という見方があります。
しかし、足元のPERは約24倍です。
20%前後の利益成長を続ける企業として考えれば、極端に高い水準とは言い切れません。
成長性を加味した代表的な指標にPEGレシオがあります。
一般には、PERを1株当たり利益(EPS)の成長率で割って算出します。
PER24倍、成長率20%と置けば、PEGレシオは1.2倍です。一般論として1倍を下回れば割安とされることが多いため、1.2倍は明確な割安ではないものの、成長性に対して著しく割高とも言いにくい水準です。
ただし、ここには重要な前提があります。
現在の20%程度の成長が今後も続くことです。
成長が止まれば、PER24倍を正当化することは一気に難しくなります。
したがって、サンリオ株の評価で本当に問われるのは、現在の利益水準ではなく、今の成長が持続可能かどうかです。
V字回復の裏にあるサンリオの課題
サンリオの業績は目覚ましく回復しています。
2021年3月期には最終赤字でしたが、その後は利益が急拡大しました。

出典:マネックス証券
純利益は2024年3月期に約170億円、2025年3月期に約410億円、2026年3月期に約540億円となり、2027年3月期は約630億円が見込まれています。
数字だけを見れば、典型的な成長企業です。
一方で、サンリオは過去にも、業績が大きく伸びた後に減益へ転じるサイクルを繰り返してきました。
会社自身も、その原因を認識しています。
海外売上におけるハローキティへの依存度が高かったこと、そして価値提供がグッズ販売に偏っていたことです。
キャラクターは流行の影響を受けます。
海外セレブの愛用などをきっかけにハローキティ人気が急拡大することがあっても、一つのキャラクターだけで長期間にわたり成長し続けるのは容易ではありません。
投資家が警戒しているのは、現在の急成長も結局は一時的なブームであり、ピークを越えれば再び縮小するのではないかという点です。
<『ハローキティ一本足打法』からの脱却>
サンリオが目指しているのは、過去の不安定な成長パターンからの脱却です。
中期経営計画では、その柱として「IPポートフォリオの拡充」と「グッズ以外の価値創造」を掲げています。
IPポートフォリオの拡充とは、ハローキティ以外のキャラクターを育成し、複数の人気IPで収益を支える体制をつくることです。
ポムポムプリン、シナモロール、クロミ、マイメロディ、ポチャッコなどを積極的に展開し、周年イベントやキャラクター大賞を活用して、それぞれのファンとの接点を増やしています。
この取り組みはすでに成果を上げつつあります。
人気投票ではハローキティ以外のキャラクターが上位を占め、日本だけでなく中国や米国でもポムポムプリン、シナモロール、ポチャッコなどの人気が高まっています。
米国ではチョコキャットのように地域特有の人気キャラクターも育っています。キャラクターの分散は着実に進んでいるとみてよいでしょう。
