fbpx

“総ミヤネ屋化”する国内メディア。金融後進国ニッポンのギリシャ報道は何が間違っていたのか?

いま、日本のマスコミ報道で「お金を返さないギリシャはけしからん!」といった意見が幅をきかせています。チプラス首相とギリシャ国民は、ミヤネ屋の宮根氏にまで「ええかげんにせえよ!」と斬られる始末。本当にそんな単純な話なのでしょうか?

これについて元ファンドマネジャーの近藤駿介氏は、「感情論が支配的となり金融的な視点が失われてしまう報道に日本社会の弱点が現れている」としたうえで、「日本が金融先進国になるまでにはまだ時間がかかりそうだ」と述べています。

【関連】安倍内閣をウラで操る「日本会議」の狙いとは?

コメンテーターの「感情論」にかき消されてしまった「金融論」

注目されていたギリシャの国民投票は、大方の予想に反して大差で「OXI(オヒ=反対)」となりました。ギリシャ問題は連日日本のメディアでも大きく取り上げられています。

しかし、一連のギリシャ問題に関する日本のメディアの論調は、約40兆円もの負債を抱えるギリシャが強気の交渉姿勢を保っていることに対して、ギリシャが傲慢であるといった感情論が大半を占めており、登場するコメンテーターの多くも「借りた金を返すのは当然」だという感情的かつ批判的なコメントを繰り返すにとどまっています。

こうしたコメントが横行するのは、専門家と称される人達が「ギリシャの労働人口の25%が公務員」「ギリシャの公務員の給料は民間企業の労働者の1.5倍」「現役時代の収入に対する年金の支給率は先進国のなかで極めて高い」といった情報を繰り返すことで、怠け者のギリシャが駄々を捏ねているという印象を演出してしまったからです。

確かにご説ごもっともで、ギリシャの社会制度には改善すべき点が多々あることは間違いありません。

しかし、同時にそれは感情論に過ぎないものでもあります。なぜなら、金融的には違った見方ができるからです。感情論が支配的となり金融的な視点が失われてしまうところに日本社会の弱点が現れているとも言えます。

「借りたお金を返さないのはけしからん」という批判の幼稚さ

番組に専門家として登場する人達がしたり顔で説明するギリシャの社会システムは、専門家しか知らない情報だったのでしょうか。

そうではありません。こうした情報は公知の情報です。当然、ギリシャにお金を貸していた投資家もこうしたことを知っていました。つまり、ギリシャがこのような、借金を返せなくなりそうな社会状況にあることを知りながら、債権国はギリシャにお金を貸し続けたということです。

投資家は、ギリシャで2009年に政権交代が起こり、2010年に国家的な粉飾決算をしていることが明らかになるまで、実際にどのような財政状況にあるかを数値的に正しく把握することはできませんでしたが、ギリシャの社会システムについては知っていたわけです。

日本のメディアに登場する専門家が主張するように、ギリシャの社会システムが財政破綻の要因なのであれば、債権者はなぜギリシャに多額の貸し付けをしたのでしょうか。

借りたお金を返すのは当然のことです。しかし、同時に債務者が借りたお金を返せなくなる状況に陥ることも十分に起こり得ることで、「借りたお金を返さないのはけしからん」という批判はこうした現実を無視したものでしかありません。

日本にも会社更生手続や民事再生手続など、債務者が返済不能に陥った場合の再生ルールが用意されていて、多くの場合は債務カットが大きな柱となっています。つまり、債務者が返済不能に陥った場合に「借りたお金を返さない」のは普通のことでしかありません。

債権者側も債務者が返済不能になる可能性を考慮に入れ、そのリスクを考慮に入れて貸出金利を決めているわけですから、債務者が返済不能に陥った事実は受け入れざるを得ないわけです。

例えば、経営危機に陥ったシャープに対して主力銀行は倒産を避ける目的で多額の追加融資をして来ましたが、今年になって再建計画が破綻することが明らかになったことをうけ2,000億円規模の債務の株式化(DES)という手法で実質的な債務免除に踏み切りました。

こうした例でも明らかなように、倒産を避ける目的で追加融資をして来た金融機関は、再建計画が頓挫した場合に債権放棄などで一定の責任を負うのは特別なことではありません。

日本のメディアはギリシャ問題の本質と構図を間違えた

今回のギリシャ問題は、例えばシャープの再建策が頓挫したのと同じことです。

貸手側もギリシャの社会制度を十分に理解した上で資金を貸付けたわけですから、ギリシャがデフォルトになった場合、「貸したお金が返ってこなくなった」としてもそれを受け入れる以外にはありません。

ギリシャがデフォルトと認定されるリスクを冒してまでIMFに対する債務を支払わなかったのは、会社でいう再生手続を望んでいるからに他なりません。

日本のメディアは、今回のギリシャ問題を、デフォルトにされたくないギリシャが駄々を捏ねているかのように報じてきました。

しかし、実際の構図は、EU諸国にデフォルト、つまり倒産していることを認めさせることで債務削減交渉をしたいギリシャと、政治的にギリシャを容易にデフォルトさせられないEU諸国との対立であるといえます。

基本的な対立の構図を間違って捉えてしまったことで、日本では本質からかけ離れた報道が繰り返されてしまったのです。

EU諸国にデフォルトであることを認めさせ、債務削減交渉を開始したいギリシャにとって、「実現可能な合意ができない限り、返済はできない」と主張するのは当然のことでしかないのです。

対立の構図を取り違え、金融の常識に目を向けずに、ギリシャの社会構造に問題があるという感情論と、借りたお金を返せなくなった場合にどう対応していくかという問題を混同した議論を繰り返す日本

今回の日本メディアのギリシャ問題の取り上げ方から明らかになったのは、日本が「金融先進国」になるまでにはまだ時間がかかりそうだということです。

近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年7月7日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

近藤駿介~金融市場を通して見える世界

[無料 ほぼ 平日刊]
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。

いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー