最近、駅前でよく見かけたはずの「不二家洋菓子店」を見なくなった印象がある。調べてみると10年前と現在で店舗数自体は大きく変化していないが、駅前の路面店が減少しているのだ。店舗運営の洋菓子事業は20年にわたって赤字が続き、スーパー向けの製菓事業が補填する状態が続いてきた。祖業の黒字化は不二家の悲願だが、業績は回復できるのだろうか。近年の業績と黒字化に向けた施策を探ってみた。(山口伸)
プロフィール:山口伸(やまぐち しん)
本業では化学メーカーに勤める副業ライター。本業は理系だが、趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連や不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。
ペコちゃん人形のケーキ屋を全国に展開
不二家は1910年に創業者の藤井林右衛門が横浜に開店した洋菓子店をルーツとする。大正時代には伊勢佐木町や銀座にも出店、関東大震災で被災したが、その後も営業を続け新宿・大阪・京都にも出店した。
イメージキャラクターのペコちゃんが生まれたのは戦後の1950年のことである。63年からは洋菓子店のフランチャイズ化を開始し、都市部の駅前を中心として全国に店を構えた。
だが90年代からコンビニやスーパーでもケーキが販売されるようになり、後述の通り業績は悪化した。
山崎製パン傘下で販路を拡大
業績悪化で管理体制も甘くなっていたのだろう。2007年1月には消費期限の切れた牛乳の使用が明らかとなり、生産と販売がほぼ停止状態となった。そして山崎製パンが助ける形で技術指導を行い、何とか2か月後に生産を再開した。その後、山崎製パンは不二家への出資を続け、翌2008年に不二家を子会社化した。
山崎製パンによる出資は販路でもメリットをもたらした。以前は自社の販売ルートにほぼ依存していたが、出資後は山崎製パンが持つルートを活用し、コンビニやスーパーへの供給を強化することができたのだ。
不二家は現在、全国の洋菓子店やレストランを運営する「洋菓子事業」と、スーパー・コンビニ向けに菓子類を提供する「製菓事業」の2事業を展開している。
2023年度の売上高は製菓事業が714億円であり、洋菓子事業の309億円をはるかに上回る。製菓事業の主力製品には、飴の「ミルキー」やチョコレートの「ルック」、「カントリーマアム」などがある。
洋菓子事業は20年間も赤字
製菓事業は年間数十億単位の黒字を出し続け、不二家の主力事業となった。
一方で、祖業である洋菓子事業は2003年3月期から現在に至るまで、20年間も赤字が続いてきた。製菓事業による補填が無ければ早々と倒産していたかもしれない。洋菓子事業の苦戦は前述の通り、90年代以降、スーパーやコンビニでもスイーツの販売が一般的となったためだ。
ローソンが2009年に発売した「プレミアムロールケーキ」は“コンビニスイーツ”という言葉を定着させたと言われている。現在、消費者が「甘いものを食べたい」と思ったときに選択肢に上がるのはケーキ屋よりもコンビニやスーパーではないだろうか。駅前で不二家を見ても、身近なコンビニを選びがちだ。
矢野経済研究所によると、スイーツのチャネル(業態)別売上はスーパーが37%、コンビニが19%であるのに対し、不二家のような専門店は6%しかない。そもそも専門店のパイは小さいのである。
専門店はシャトレーゼ一強
銀座コージーコーナーも同様、コンビニやスーパーのスイーツを前に業績が悪化した。都市部の駅前という立地戦略は不二家と近い。
一方、苦戦するケーキ専門店で好調なのがシャトレーゼだ。1954年に創業した同社は、特に近年は勢力を伸ばしている。国内店舗数は2018年3月期に500店舗を達成して以降、年間50店舗ペースで拡大し、800店舗を上回る。FC比率は9割程度だ。
同社は全国の工場でケーキを生産し、FC店に販売するビジネスモデルを取っている。不二家、コージーコーナーと大きく異なるのは、ロードサイド主体という立地だ。都内駅チカの店舗は少なく、駐車場を構え、車での来店客を想定している。
つまり、駅前で甘いものを食べたくなった客ではなく、最初から「シャトレーゼ」に行きたいという客を狙っている。そしてケーキ1切れ300円〜400円台という安さが人気の秘訣である。安さの背景には問屋を介さない工場直売という点もあるが、郊外という立地も関係しているだろう。家賃の高い駅前に出店する不二家、コージーコーナーには不可能な価格設定である。
「納品店」で起死回生を狙う
話を不二家に戻そう。「不二家洋菓子店」は業績悪化を前に不採算店の閉店を進めた。後継者問題などFC店側の問題もあったようだ。14年12月期末時点で982だった店舗数は19年12月期末時点で829店舗と5年間で約150店舗減少した。
だが、コロナ禍以降は新しいタイプの店舗、「納品店」の出店を強化している。納品店は主にスーパー内に出店する店舗で、サービスカウンターに小さいショーケースを置いただけの売場構成となっている。不二家にとっての魅力はコストが低い点だ。出店費用が路面店ほどかからないほか、販売と運営はスーパーが担い、人件費と賃料も大部分はスーパーが負担するという。不二家本部はケーキを納品するだけである。
19年8月時点で約250店舗だった納品店数は22年3月時点で約380店舗となった。その後の数値は公表されていないが、路面店の縮小が続く一方、不二家の店舗数は900店舗台をキープしているため、割合は増えているとみられる。
洋菓子事業の再生は道半ば
最新24年12月期第2四半期の業績は次の通りだ。
全社売上高532億円、営業利益10.9億円と全社業績では黒字だが、セグメント別で見ると製菓事業が補填している状態が依然続いている。
洋菓子事業は売上高147億円・セグメント利益▲6.0億円であるに対し、製菓事業のそれは368億円・38.6億円である。
不採算の閉店で収益改善方向にあるが、それ以上に原材料費の高騰や値上げによる売上減が足かせとなっているためだ。
製菓事業が堅調なため、おいそれと洋菓子事業をたたむことは無いだろう。スーパーやコンビニ向けに提供する商品にも“不二家”ブランドは必要であり、ブランド力維持のために実店舗の存在は必須である。
だが20年以上も赤字が続くのは異常だ。そこが良さでもあるのだが、不二家のケーキは“汎用品”のような印象があり、個性は感じられない。高級路線への転換など、黒字化に向けて従来と異なる施策が求められる。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年8月22日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による