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30年ぶり「3.8%賃上げ」が日本復活の狼煙となる理由。貯めすぎた内部留保で“余力”十分=勝又壽良

ついに日本企業にも「賃上げ」機運が高まり、平均賃上げ率は3.8%と30年ぶりの水準となった。賃上げが「同調圧力」になると、各社が一斉に大幅賃上げをするという期待が高まる。豊富な内部留保=企業貯蓄を持っているだけに、その内部留保を使って、賃上げとそれをカバーする設備投資を行う余裕があることに注目すべきである。日本経済は再生のスタートを切ったと言えるだろう。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

平均賃上げ率は3.8%、30年ぶりの上げ幅

久しぶりに「春闘」という言葉が、活気をもって語られるようになった。連合による第一次集計(3月中旬)によると、平均賃上げ率は3.80%となり1993年以来で30年ぶりという。企業は長いこと、賃上げを抑えて内部留保を優先する政策をとってきた。それが、堅実経営と見なされてきたのだ。この通念が今や、180度ひっくり返されようとしている。

大企業は、競って大幅賃上げに走っている。この光景を見ると誰もが、これまでの30年間は何だったのかという思いにとらわれよう。

ただ、歴史を「25年単位」で区切って見れば、日本の賃金政策が大転換して当然という構造変化が起こっていることに気づくであろう。これまでは、退職した高齢者や家庭にいる主婦の労働力化によって、必要な労働力を確保できた。現在はそれも払底して、いよいよ本格的な労働力不足の時代に入る。こうなると、従来の低賃金では企業存続が困難になる。厳しい時代を迎えるのだ。

激変する労働環境に対して、日本企業に支払い能力はあるのか、という問題が提起されよう。

答えは、「ご心配なく」である。企業の内部留保=企業貯蓄は、対GDP比で約8%と先進国企業では米国の5%すら上回り抜群の高水準にある。つまり、少々の賃上げをしたところで「左前経営」になる心配はないのだ。安心して賃上げすべし、である。詳細については、後で取り上げたい。

いま問われる「賃上げ力」

前述の企業貯蓄が、対GDP比で約8%もあるのは「平均値」の話である。この平均値以下の企業では、世間並みの賃上げが不可能になるケースもあろう。その結果、人手が集まらずに「労働倒産」という結果も想定される。それを避けるには、設備投資による生産性向上が必須条件だ。高賃上げは、日本経済を一段と高い水準に引き上げる原動力になる。

今、「賃上げ力」が企業発展にとって尺度という認識が深まっている。従業員へよりよい生活を保証する道は、高賃金で報いることだ。その賃上げが不可能であれば、有為な人材も企業を去って行くだろう。企業が、必要な人材をつなぎ止めるには、「賃上げ力」を高めるほかない。従業員が、企業を選択する時代になった。

そのモデルとして、ユニクロで知られるファーストリテイリングが関心を集めている。同社は3月から国内従業員の年収を最大4割増やすと、今年1月に発表した。これによって、国内人件費は15%増える見込みという。だが、売上高の伸びと店舗などの運営効率化で補えるとしている。賃上げ分を吸収できなければ、踏み切れるはずもなかろう。

同社の柳井正会長は決算説明会で、10年後に売上高10兆円(23年8月期予想は2兆6,800億)円を目指す計画を発表した。ざっと4倍増になる。賃上げは、この「10兆円」戦略実現のカギであると指摘する。賃金を世界水準に引き上げないと、「良い人材が採れないし、既存の従業員も成長しない」としている。ここでは、賃金をコストとして見ていないことに気づくべきだ。労働力が、「優良資源」という位置づけに変わった。

Next: 低価格競争はもう終わる?「高賃金=優秀な人材確保」図式が完成した

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