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30年ぶり「3.8%賃上げ」が日本復活の狼煙となる理由。貯めすぎた内部留保で“余力”十分=勝又壽良

ユニクロに追従する企業が続出する

ドルベースで見ると、日本の平均賃金は主要7カ国(G7)で最も低く、実質的に30年間停滞したままである。必要なスキルを備えた海外の人材にとっては、日本で働く魅力が薄れている。最近では、豪州で働くアルバイトの賃金が、日本をはるかに上回るというニュースが出回っているほどだ。日本経済再興には、大幅賃上げが不可欠である。

「ファーストリテイリング・モデル」は、他産業へも波及するであろう。日本の合計特殊出生率は、すでに1.30台へ低下している。今後の労働力が減るのだ。日本はすでに13年間も人口が減り続ける社会である。その中で、よりよい人材を集めるには、世界並みの「高賃金」を支払える生産性を上げることが絶対条件になる。こうして、高賃金=優秀な人材確保という方程式ができあがった。

賃金上昇を吸収する手段としては、「製品値上げ」か、「生産性の向上」か、のいずれかが必要になる。これまでの日本企業は、「値上げ」を極力回避する道を選んできた。このしわ寄せが、賃金を上げないという選択になった。「製品価格の安定」を企業戦略の柱に据えてきたのである。米企業が、値上げの道を選んだのとは対象的であった。

長期にわたる低価格競争

そもそも、物価安定とは程度の問題である。消費者物価上昇率は最低、2%見当を容認しないと一国経済が循環しないのだ。日本企業は、徹底的な値上げ回避競争で互いに「身を削る」努力を続けてきた。その結果、日本全体が低賃金という大きな罠に陥ったのだ。

今ようやく、この「低価格競争」の罠から解き放たれようとしている。原材料コストに適正利潤を加えた価格設定が求められているのだ。

こうしたノーマルな価格設定を可能にさせるのは、人々が抱く「予想インフレ率」を高めることである。それには、正当な賃上げが不可欠である。4~5%の賃上げならば、2%程度の物価上昇は当然という認識が生まれて、日本経済は好循環過程を進めるのだ。適正賃上げをできない企業は、貴重な労働力を無駄に使っているという意味で、社会全体の循環過程に齟齬を来す存在になる。ハッキリ言えば、邪魔な存在である。

企業が公器であれば、労働力も「公的な存在」という立場になるべきだ。企業は、社会の貴重な資源である労働力を「借りる」という認識になるべきだろう。冷たい言い方で申し分けないが、正当な労働報酬を払えない企業は、「退出」(廃業)すべき時代になった。

最近、子どもは家庭だけで育てるのでなく、地域社会がお手伝いするという考え方が強まっている。政府に、「子ども家庭庁」という官庁が生まれる。これは、将来の労働力を増やして社会全体が助け合い裕福になろうという基本的な思考の結果だ。こういう立場が是認されている現在、労働力という「資源」を無駄に使ってはならないことになろう。

少子化時代の労働対価(賃金報酬)は、人間としての尊厳に値するものになるべきである。賃金を単なるコストとして見るのでなく、経済全体を循環させる「潤滑油」(個人消費)として扱うことである。この認識を共有できれば、労働力は公的な存在になり、日本経済の未来は明るくなるはずだ。

日本経済は、こういう理念を実現しない限り成長できない段階になった。だが、日本特有の「同調圧力」(横並び主義)という目に見えない足かせで、この理念は阻まれてきた。他社よりも多めの賃上げを行えば、業界他社からクレームがついた。「護送船団方式」とも言われるもので、業界協調が第一であったのだ。悪しき慣例が、日本経済の活力を奪う。こうした生ぬるいことを続けていれば、それこそ日本経済沈没である。その危機が現在、目の前の現れているのだ。

Next: 賃上げの余力は十分。先進国首位の内部留保率が経済成長を支える

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