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30年ぶり「3.8%賃上げ」が日本復活の狼煙となる理由。貯めすぎた内部留保で“余力”十分=勝又壽良

先進国首位の内部留保率

日本経済に救いがあるのは、十分な賃上げ余力を持ちながら賃上げを行わなかったことだ。一種の「不作為の作為」である。それ故、賃上げが「同調圧力」になると、各社が一斉に大幅賃上げをするという期待が高まる。豊富な内部留保=企業貯蓄を持っているだけに、その内部留保を使って、賃上げとそれをカバーする設備投資を行う余裕があることに注目すべきである。

この事実はデータで裏付けられる。その前に、高率の賃上げしなければならない労働力不足の現実を確認しておきたい。

過去30年ほど賃金が目立って上昇しなかった主因は、既述の通り女性の就業率上昇を中心に労働供給が増加しことにある。女性就業率は、いわゆる「M字型」で結婚・出産で退職し、子育てが終わって復職するパターンが一般的であった。だが、「共働き」の一般化によって、女性の就業率が高まったことだ。また、定年退職者の就労延長が労働力不足を緩和してきた。それも、ついに限界に達したのである。

労働力調査によれば、35~44歳女性の就業率は、2012年に66.7%だったのが22年には78.4%まで上昇している。ここまで上がると。今後の伸びはあまり期待できそうにない。一方、生産年齢人口(15~64歳)はこれから2040年にかけて、毎年約70万人ずつ減少していく。こうなると、日本の労働力供給が減少し、人材確保の競争圧力の高まりによって、賃金は否応なく上昇せざるを得ないのだ。

企業は、こうして生産年齢人口の減少に対応すべく、「適正賃上げ」するほかない。これまでの状況とは、まったく異なる状況に追い込まれる。幸いなことに、日本企業は豊富な内部留保を持っている。これを設備投資に振り向ければ、生産性向上で賃上げが吸収可能になる。日本経済の正常化が進むという好循環を期待できるのだ。

OECD(経済協力開発機構)調査によれば、日本の民間部門の総貯蓄(設備投資+内部留保)は2010~19年に、平均でGDPの29%という驚異的な水準となった。これはドイツの25%を優に上回り、米国の22%をはるかに上回っている。日本の民間部門の設備投資の対GDP比率は約21%という高い水準に達していた。それでもGDPの8%にのぼる貯蓄余剰(内部留保)を抱えていた計算だ。ドイツの民間部門の貯蓄余剰は、平均でGDPの6%、米国は5%である。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月12日付)が報じた。

日本企業が、2010~19年にGDPの8%にのぼる貯蓄余剰(内部留保)を抱えていたという事実は、正当な賃上げをしなかった結果とも言える。ドイツが6%、米国が5%の内部留保率であることは、日本企業が賃上げせずいかに「貯め込んでいた」のかを証明している。国会で野党が、この問題で政府を厳しく追求していたのも一理あったのだ。

日本企業は今、高賃上げに備えて生産性向上への取り組みを強めている。今年3月時点の2023年度設備投資計画(日銀短観)は、3.9%増(全規模・全産業)になった。1984年度の調査開始以来最高だ。省力化投資が1つのキーワードである。

このように、企業も一斉に設備投資を増やし、賃上げ分の吸収に向けて対応を始めている。まさに、「同調圧力」の存在を証明している。

Next: 日本経済の隠し球「ゼロ金利脱出」で好展望へ

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